決勝戦開始の巻
決勝戦当日を迎えた。私とマキの戦いは当然メインイベントで、その前に数試合前座の試合がある。
「やれ―――っ!やっちまえ!」
「血が見たいわ――――――っ!」
大会の予選敗退者や出場しなかった人たちによる試合で、賞金や地位を争う戦いではない。それでも熱い勝負が繰り広げられていた。
「どうだ!これが王家の力だ!」
『ここでギブアップ!一進一退の激しい戦いでしたが勝ったのはやはり我らがアントニオ家の長男と次男、マッチョとセイギのコンビ!』
王子たちも参戦してしっかり勝利を収めていた。
『最後はセイギが白目になりながら渾身の締め上げでギブアップ勝ちを奪いました!観客席は超満員、次は闘技大会の3位決定戦です』
サキーとフランシーヌさんの一戦だ。そしてその次はいよいよ私の出番だ。
『先に入場したのはフランシーヌ!王家への憎しみはなくなり穏やかな顔になっていますが炎の威力は衰えていないはずです!』
フランシーヌさんにはもう戦う理由がない。3位でも4位でもどうでもいいだろう。
『続いて入ってきたのはサキー!大聖女様との戦いで負った傷はその場で回復、元気な姿で今日もこの舞台に立ちます!』
サキーも優勝だけを狙っていたから3位決定戦に興味はない。互いにやる気なしではつまらない試合になるだろうと思っていた。
「ハァ――――――ッ!!」
「なんの!ここだ――――――っ!」
フランシーヌさんの炎をサキーが回転しながら剣でかき消す。そのまま襲いかかるもフランシーヌさんはすでに安全な位置に逃れ、次の一手の用意をしていた。
「いい戦いだ」
「二人ともやけに気合いが入ってますね」
予想に反した好勝負になった。どうして勝っても何もない試合がここまで盛り上がるのだろう。
「……これはジャッキー様へのメッセージなのでは?」
「私への?」
「あの二人はジャッキー様が妹様に勝とうとしていることを知りません。せっかく勝ち進んだ決勝戦、本気で戦ってもらいたいと思って……」
そういうことだったのか。私はサキーとフランシーヌさんの夢と願いを託されて戦う立場だ。負けるにしても全力を尽くしてほしい、その思いは当然か。
おかげで私もますます燃えてきた。ところが実は、戦う二人の真意はラームの解釈とは全く違っていた。
(ジャッキーの隣にいるのは大会後もこの私だ!あいつを守り、やがて結ばれる者としての資格を守るためにも連敗は許されない!)
(……その立場をあなたから奪ってあげますよ!)
私が関係しているところまでは正解だ。その先が大外れだったわけだけど、私たちがそれを知ることはなかった。
「ハァ、ハァ……これで決まりだ……」
「ふ―――っ………そうみたいね………」
試合時間が長くなれば体力と経験の差でサキーが勝つのは必然だった。最後は寸止めで決着した。
「今回は私の勝ちだが、紙一重だった。決着と呼ぶにはまだ早いな」
「はい……またやりましょう。楽しかったです」
『爽やかに握手で終わりました!3位はサキー、4位フランシーヌです!』
3位決定戦が終わり、ついにこの時が来た。私たちの作戦はここから動き出す。
「じゃあ……頼んだよ、ラーム」
「はい。ジャッキー様……また会いましょう」
ラームが私から離れて『持ち場』に向かった。マユはすでに待機している。準備完了だ。
「おい、ジャッキー!あいつはいないのか?いないなら私がサポート役になるが……」
「わたくしもいます!」 「私も!」
一人で入場しようとする私を見てサキーが声をかけると、ルリさんとフランシーヌさんも続いた。
「いや、一人で行くよ。マキだって一人で来るはずだから、同じ条件でやらないとね」
皆の申し出に感謝しながらも一人で扉を開けて、フィールドに出た。
『まずはジャクリーン・ビューティが出てきました!フィールドにもぎっしりと席が置かれていますが、その間の細い通路を通ってリングに向かいます!』
緊張はなかった。予選やこれまでの試合と比べても今が一番穏やかな気持ちだった。
『しかし服装は一般的な冒険者のものです!一回戦の鎧や兜、準決勝のローブはありません!解説の国王様、これはどうして……』
『思い出せ、あの装備品は全てやつの両親が用意した。赤の他人が敵なら喜んで与えるが、今回は対戦相手の大聖女も自分たちの娘……やつだけ贔屓するわけにもいかないだろう』
『た、確かにそうですね。ですがそのくらいのハンデがないと、記念大会の決勝が全く見せ場のない秒殺劇で終わることになりますよ?』
普通に戦えば私は何もできずに敗北だ。でも私にもちゃんと考えはある。マキはまだ私が妹思いの純粋な姉だと思っていて、気が緩んでいる。
『さあ、噛ませ犬にもならないジャクリーンがリングに上がり次はいよいよお待ちかね!数百年に一人の天からの贈り物、大聖女マキナ・ビューティ様の入場です!』
マキが反対側の通路からゆっくりとリングにやってくる。大歓声に対し手を振りながら歩いていた。
「マ・キ・ナ!マ・キ・ナ!」
「マ・キ・ナ!マ・キ・ナ!」
『これはすごい!観客の支持率100パーセント!超満員の大闘技場、全員がマキナ様の勝利を願っています!』
リングのすぐそばで観戦できる特等席は当然満席だ。メインイベントの決勝戦、売店やトイレに行って席を離れている観客は一人もいない。それでもマキが通るのを間近で見られる通路側の席が一つ、空席だった。
(………)
この席は私が昨日買った席だ。そして空席に見えて実は人が座っている。マキがここを通る瞬間、私たちの戦いが始まった。
「あっ!?うあっ!!」
『な、な、なんだ―――――――――っ!?誰もいないはずの席から突然人が現れてマキナ様を後ろから殴った!?そして倒れたところを椅子でめった打ち!』
ラームの小さくなる能力だ。マキが通過したら元に戻って襲撃、作戦の第一段階は成功だ。
横浜DeNAベイスターズはこれで4連敗!昨年の交流戦覇者があまりにも情けないね。たった一年でここまでチームが壊れちゃうんだから、皆が思っているように横浜『退化』じゃないのかな?
打率や防御率は悪くないのにこの順位なのは、投手も野手も勝負所で弱いから。以前も書いたように球遊びが上手いだけじゃ野球は勝てない。選手も首脳陣もほんの少しの我慢を嫌い続けた結果がこれだからね。練習と努力は嘘をつかないよ。
ただでさえチーム状態が悪化しているのに怪我人続出。何の魅力も伸びしろもない中堅選手たちを一軍に上げて数を揃えないといけないのだから厳しいね。三浦監督は自分たちが崖っぷちにいることを理解しているのかな?編成部は自分たちが有能ではないことを認めているのかな?反省しないのだから何度でも同じ失敗を繰り返すのは誰でもわかるよ、cabrón!
ま、いろいろ文句を言ったところで結局試合を観てしまうのがファンの悲しい習性だよ。また今日の午後2時、ここ横浜スタジアムでお会いしましょう!Adiós!




