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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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フランシーヌの願いの巻

『フランシーヌの炎があっさり消滅!ジャクリーンが、ではなく着ているローブがすごい!解説のマキシーさん、魔術師としてどうですか?』


『あれじゃあ魔法しか攻撃手段のないやつは終わりだね。私は噛みつきがあるからまだどうにかなるけど』



 フランシーヌは炎を諦め、別の魔法を試してきた。


「それならこれは……!」


 二次予選の重い銅像をフランシーヌは魔法で持ち上げてクリアしていた。相手を強制的に宙に浮かせて地面に叩き落とす、炎が効かない敵に使う魔法だった。


「………?」


『こちらも効果なし!ジャクリーンは平然としています!』


 どんな種類の魔法でも防ぐ。攻撃も睡眠も幻覚も通用しない、フランシーヌが気の毒に思えるほどのローブだ。



「ジャッキー!相手はもう何もできません、こちらから攻めるのです!」


「一気に決めちゃいましょう、ジャッキー様!」


 反撃を心配する必要がないとわかれば強気にいける。躊躇わずに接近した。



「ここだ!てやっ!」


「うっ………」


 魔法が使えなければフランシーヌは弱い。パンチやキックは使わずに押し倒し、そのまま寝技でギブアップを狙った。


『ジャクリーンが押さえ込む!フランシーヌ、逃れることができるのかっ!?』


 無理をすれば骨折か窒息だ。もちろんそうなる前に審判が止めるから惨事にはならない。


「私の技で苦しんでいるようじゃマキを倒すなんて無理だよ。大人しく降参したほうが……」


「………」


 自分は無敵で相手は為す術がない、その圧倒的有利が油断を生んだ。逆転のチャンスがあるとしたらこの場面しかないと、フランシーヌは耐えていた。そして強引に私の技を外した。



「……うわっ!」


「降参!?あははははははっ!冗談でしょう!お馬鹿さんが勝ち誇る瞬間を待っていたのよ!」


 無理に脱出したせいで右肩を痛めたはずだ。それでもフランシーヌは痛がる様子を見せず、私のローブを掴んで無理やり脱がそうとした。


「このローブさえなければあなたを葬る手段はいくらでもある!世界の未来のために死すべき大聖女、その姉であるあなたにまずは死んでもらう!ひゃはははぁっ!」


 何としても死守しないと命が危ない。フランシーヌは脱がそうと、私は守ろうと必死になってリングを転がった。ローブの有無が勝敗を左右する。



 そんなローブ争奪戦を見て勘違いしている人間が一人いた。素人ならまだしも、まさかのサキーだった。


「あ、あの女!こんな大観衆の前でジャッキーの服を脱がしてどうする気だ!いくらジャッキーが魅力的だからって……破廉恥すぎるっ!」


「………」 「………」


「ジャッキーは私の可愛い相棒だ!あんなやつにやられるくらいなら私の手で……」


 興奮してリングに上がろうとしているところを止められていた。錯乱しているにしても、それなら自分で脱がそうとは普通は考えない。


 でも今はそんなことはどうでもいい。フランシーヌがマキの命を奪う気なのがはっきりしたことのほうが大事だ。




「マキが死すべき人間だって?ありえないよ。世界の平和のためには大聖女の力が……」


「そう、大聖女とは末永い平和をもたらす存在!それなのにあなたの妹は王国の軍と共に他国を征服するための遠征や調査に同行している!」


 大聖女の力はあまりにも膨大だ。世界中のあらゆる争いを終わらせて真の平和が数十年続いたという大昔の伝説がある。でも大聖女が平和ではなく戦争や侵略を望むとしたら、ハチのムサシが目指した以上の暗黒時代が始まることもありえる。


「私は翻訳家、遠い国で戦争の犠牲になる弱い民衆たちの記録をたくさん読んできた。食べ物がなくなり飢えて死んでいく人々……その悲劇がこの国でも、もしくはこの国が原因で広まるなんてこと、私には耐えられない!この命を賭して防いでみせる!」


 大聖女の力が誤用される前に大聖女そのものを消す、そうすれば王家は衰退して戦争を起こす余裕もなくなる……これがフランシーヌの描く理想の物語か。



『大聖女の殺害、そこからアントニオ家の崩壊まで考えていたとは……しかしそうなるとムサシとフランシーヌは似ていたのでは?』


『いや、その先が全く違う。ムサシがゲンキ王以上に好戦的なのに対し、フランシーヌは極端な平和主義!ついでに私は全ての人間が平等な立場で生きる社会を目指していたから王家の支配を終わらせようとした』


 理想がまるで違うのだから、マキシーたちは一時的に手を組むことすらなかった。協力してマキを殺すことに専念されていたらどうなっていたかわからない。


『ムサシは王になろうとしていたし、私も新しい体制で指導者の一人になっていたと思う。でもあのフランシーヌからはそんな感じがしない』


『……それはどういうことでしょうか?』


『打倒アントニオ家、そこに命を燃やし尽くす覚悟に見える。その先の未来は皆に託すというか……自分が上に立とうとは考えていないのでは?』


 

 争いのない平和な世が実現すれば自分はそこにいなくてもいい、それがフランシーヌだった。試合中に時々現れる狂気は見せかけのもので、そうでもしないと気持ちが負けてしまうから……戦っているうちに私も彼女のことがわかってきた。


(この人からマキを守らないといけないし、マキにこの人を殺めさせるわけにもいかない!)


 悲しみが連鎖するだけだ。私がそれを止めると強く誓った瞬間、力に満たされる感覚があった。




「うわっ!」 「あの光は!?」


『ジャクリーンが光った!覚醒の兆しか!?』

 あまりにもさびしく、悲しい

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