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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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罠からの脱出劇の巻

「ちょっと待て―――っ!ジャッキーが逃げるわけないだろ!棄権する気なら一回戦の前にやってるだろ、常識的に考えて!」


『しかし現にいないではないか、お前の娘は。試合放棄とみなして補欠選手が代わりに出場するのは当然だろう』


 お父さんが兵士たちを押しのけてリングに上がる。直接王様に抗議するも覆りそうにない。



『お前にとっても好都合だろう、バーバ。悪いがやつではそこのフランシーヌに勝つのは難しい。無傷で家に帰れるのだからこれでよいのでは?』


「ぐぬぬ………」


『この大観衆たちもお前の娘のつまらん戦いなど見たくない。私の息子、マッチョ・アントニオの熱く燃え上がるファイトが見たいと叫んでいる、そうだろう!?』


 王様の呼びかけに観客たちも大声援で応えた。


「マッチョ!マッチョ!マッチョ!マッチョ!」


「ジャクリーンは帰れ!そのまま消えろ!」


 ますますお父さんは不利になった。皆の支持を集めて王様たちは得意気な表情で勝ち誇っていたらしいけど、実はこれには裏の理由があった。



(こっぴどくやられて黒焦げになっちまえ!)


(ゲンキ王は尊敬しているがあの王子は気に入らん。ただの二代目のくせに調子に乗りやがって)


 王子様が派手に負けるところを見たいだけだった。民衆の間で次期国王の人気は低く、そのことを王様たちはまだ把握していなかった。



「私もあいつが逃げたとは思えません。この大会にかなりの覚悟と決意を抱いて参加したのを知っています。あと10分……いや、5分でも待ってもらえませんか?もし戻ってこなければ私も失格で構いません」


 お父さんに続いてサキーが王様に直訴してくれた。ここまで言われたら王様も受けるしかなかった。


『……ではあと5分だ!その間にジャクリーン・ビューティがリングに上がれば準決勝は予定通り行う!しかし1秒でも遅れたら我が息子が代わりに戦う!』



(きっとあの部屋に……助けに行かないと!)


 5分以内に私を連れて来ようとマユが動いた。スタッフだから入れる場所が多く、私がどこに閉じ込められたかの見当もついていた。ところが数人の兵士たちに行く手を阻まれた。


「知っているぞ、お前がやつの仲間なのは」


「大人しくしていろ。そこから動くな、あと5分間」


 マユが封じられた。これで完全に終わりだと確信した王族や兵士たちが笑う中で、マユは祈った。


(……希望はもう彼女だけ……気づいて!)

 



 制限時間のことなんか知らない私たちでも、さすがに誰も呼びに来ないことを不思議に思って部屋から出ようとした。ところが扉が開かない。


「ジャッキー様、外から鍵がかけられています」


「他の人が入らないように?でもそれなら誰かいるはず……もしもし?開けてもらえませんか―――?」


 人の気配はあった。それなのにいくら呼びかけても返事も反応もない。ここでようやく私たちは何が起きているかに気がついた。


「もしかして……閉じ込められた?」


「罠ですよ!ぼくたちを行方不明にして失格にするために!やられた!」


 体当たりや蹴りで突破を試みても扉は動かない。ラームが小さくなれば抜けられる僅かな隙間すらない。私たちの好物が置いてあったことも含め、完全に何者かの策略に嵌ってしまった。



「ただの鍵じゃない。とんでもない怪力か魔法で守られている。扉の向こうにいる誰かがいなくならないと出られないよ」


「……そのうちいなくなりますよ。ジャッキー様の不戦敗が決まれば解放されるでしょうね」


 まずいことになったけど打つ手はない。こんな形で私の大会が終わるのかとテーブルを叩いて悔しがっていたら、予想外の救世主が現れた。



「何をする!やめろ……ぐあっ!」


 扉を守る兵士が襲われているようだ。しかも一方的にやられて、そのまま声が聞こえなくなった。


「鍵は……あれ?見つからない、こうなったら!」


 突然の襲撃者は兵士を倒して鍵を探したけれど見つからず、手っ取り早い方法に出た。嫌な予感がして扉から離れたのは正解で、私たちが何をやっても傷一つつけられなかった扉があっさり破壊された。



「うわっ!粉々だ!」


「いきなり何が……あれ!?確か君はシュリ!」


 ゴブリンの少女シュリだった。村が襲われているところを助けて(ほとんどサキーのおかげ)、それ以来の再会だった。


「覚えていてくれて嬉しいです。実はこの大会の裏方で働いていたのですが……あの時の恩返しができてよかったです」


「すごいパワーだね……私より強いよ。マユにはもう会った?マユもどこかで働いて……」


「はい、自分が動けない時はジャッキーさんを頼むと言われていて……あっ、こんな話をしている時間はありません!すぐにリングに上がってください!急いで!」


 シュリの様子からすると、1秒でも早く戻らないと危ないようだ。大慌てで部屋を出た。



「ありがとう!必ずお礼はするよ!」


 ラームと二人でリングに走った。途中で妨害しようとする兵士やスタッフがいたけどスピードの勢いで吹っ飛ばして撃退した。


「うおおおおおお―――――――――っ!!」




『あと30秒……やはり現れないな………げっ!!』


 私たちはフィールドに戻ってきた。あとは選手用の通路をまっすぐ走ってリングに上がるだけだ。


『くそ!何をしている!誰か止めろ!』


 私たちを妨害しようと何人か出てきたけど、お父さんやサキーが一瞬で蹴散らした。


「いけ!ジャッキー!」 「止まるな!」


 残り10秒、最後は三本あるロープの一番下とマットの間を滑るように飛び込んでリングイン。王様の苦々しい顔が間に合ったことの何よりの証だった。



『………ギリギリではあるが制限時間内に戻ってきたか……仕方ない。試合はそのままジャクリーン対フランシーヌで行う!これが最終決定だ!』


 予想外の試練をクリアした。あとはフランシーヌを倒すだけだ。

 ぃなず〜まがやみをさ〜いて、お〜れをよんでる〜〜〜

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