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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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マキシーの秘密の巻

 女魔術師は人々に魔女と呼ばれる。悪いイメージが先行する魔女ではあるけど、社会のために働いて高い評判を得ている人たちもいる。魔女だからという理由で差別や迫害の対象になる時代は終わり、全ては本人の生き方次第になった。


 私の対戦相手マキシーも、どうすれば国民が幸せになれるか、未来の子どもたちに何を残せるかを常に考えていた。そんな彼女が描いた夢の世界は『皆が平等に生きる』、階級や貧富の差が全くない世の中だった。



(そのためには王家を滅ぼさなくてはならない。新たな支配体制でなければ真の平等は不可能!大聖女が命を落とせばアントニオ家は衰退、国の混乱に乗じて一気に変えるチャンスが到来する!)


 マキシーは頭がいい人間として知られていた。でもある一つの点で馬鹿だった。自分の望む未来を実現させるには王家の崩壊が必要で、そのためにマキを殺そうとしている……とんでもなく馬鹿な女だ。






『ジャクリーンが完全に眠ってしまった!こうなれば倒し方はいくらでもあります!』


「ジャッキー!起きろ―――っ!」


 マキシーの睡眠魔法は超一流で、疲れた時に自分のベッドで寝るのと同じほどの深い眠りについていた。今の私を目覚めさせるものは何もない。


『魔術師のマキシーです、大聖女様やフランシーヌほどの強力な攻撃魔法はないとしても貧弱なジャクリーンを仕留める魔法は選び放題……』


「………」



 私が眠っているうちにとどめを刺すのは当然の選択のはずだった。ところがマキシーはしばらくその場から動かなかったという。


「どうした?自分で眠らせたんだ、起きるのを待っているわけじゃないだろうに」


「絶好のチャンスなのになぜ攻めない?」


 何もせずにいる理由、それは本人だけが知っていた。まさかの真相だった。



(……ここからどうしよう………)


 なんとマキシーには攻め手がなかった。使える魔法は睡眠と幻覚だけ、直接攻撃が一切ないという戦闘力の低さだった。


(私の正体……この歯がバレていた?あの重装備……魔法を通す隙間はあっても攻撃が通らない!)


 マキシーのローブの奥で鋭い歯がギリギリと音を立てる。実は彼女はモンスター人間で、ピラニアという魚の血が流れていた。見た目はほとんど人間でも歯だけは異様に尖っていて、殺傷力に満ちている。



「………」


『ようやく動いた!しかし何が怖いのか恐る恐るといった感じでジャクリーンに近づく!』


 目の前に立っても私は全然目を覚ます気配がなかったそうだ。それを確認したマキシーは顔を出し、私の前で大きく口を広げた。


『おおっ!マキシーの歯は肉食の動物か魚のようだ!噛みつき攻撃が最大の武器か!?』


「………う〜ん………」


 自慢の歯でこの鎧を噛み砕けるかと考えたらしいけど、失敗したら自分の歯のほうが砕ける。まずは軽く噛んでみて、いけそうか試してみることにしたようだ。



「……あっ。無理だ、これ」


『あっさりやめてしまった!まさかこんな形で臆病者の策が功を奏してしまうとは!』



 再び戦いは膠着状態になって、あまりにもひどい試合展開に観客が怒り出した。


「な―――にやってんだ馬鹿二人が!」


「おいこの魔女!お前ゲンキ像を持ち上げただろ!その力を使ってどうにかしろよ!」


 魔法にせよ腕力にせよ、私以外はあの重い銅像を持ち上げて運んだから決勝トーナメントに進めたはずだった。ところが例外はもう一人いた。


(私のは何かの手違いで中身スカスカのやつが回ってきた。だからここに残れただけなのに!)


 

「………行方不明になったやつは………」


「あいつのところに紛れていたようですね。なぜか誰も報告しませんでしたが……」


 王子様が確実に二次予選をクリアできるように用意された軽い像。実はトラブルが起きた時のために二体あったそうで、一つは私に、もう一つはマキシーのところに流れた。本来なら二人ともそこで脱落しているはずが、王様たちのおかげで勝ち進んでいた。




「どうにかしろと言われても……うわっ!」


「バカヤロー!どっちも失格にしろ!」


「つまんねー試合見せやがって、クズが!」


 ついに観客たちが物を投げ始めた。小さなごみからビンに椅子まで飛んできて大騒ぎ、それでも私はまだ眠りの世界にいた。



『投げないでください!物を投げないでください!』


「くっ………あっ!?」


 その時だった。寝ている私の頭に椅子が直撃した。兜のおかげでノーダメージだったけど、立ったままではいられなかった。


「や、やめ………あがっ!!」


 ちょうどそこにいたマキシーを下敷きにしてマットに倒れた。大勢のライバルをこっそり邪魔して最終予選を中止にしたまではよかったのに、同じ目に遭うとは夢にも思わなかっただろう。



「あ……あれ?寝てた……あっ、マキシー!」


「ギ……ギブアップ。つ、潰される………ぐえっ」


 ようやく目を覚ました私はマキシーを押し倒していて、鎧の重さで圧殺寸前だった。



「そこまで!勝者、ジャクリーン・ビューティ!」


『第4試合は寝技でギブアップ決着!勝ったのは大聖女の姉、ビューティ家どころか世界のお荷物ことジャクリーン!準決勝進出です!』


 気がついたら勝っていた、としか言いようがない。それ以上試合について語れることは何もなかった。



「こんな私に負けちゃうんだからマキを倒すなんて絶対無理だよ。諦めたほうがいいよ」


「あなたの言う通り………私は馬鹿な女だ。わかったから早くどいて……」


「………そうしてあげたいんだけど私も全く動けなくて……誰か助けて!」


 審判やスタッフ数人がかりでようやく起き上がることができた。リングを下りる前に鎧と兜を脱いで、これまた大人数で防具を運んだ。

 バイバイマキシー

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