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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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完全防御の女の巻

「ああ〜〜〜っ」 「ひっ!」


 私とラームは再び震えながら抱きあった。焦げたリング上にムサシの骨が転がっているのを見てしまった。嫌な臭いがして、観客席も静まり返っていた。



「……くふふっ。あはは、あはははははははは!」


 フランシーヌが狂ったように笑い始めた。血を流しているのもあって、とても怖い笑顔だ。


「あはははは、死んだ死んだ!ハチのムサシが死んじゃった!ははははははははっ!」


『ムサシの骨を踏みつけながらフランシーヌが笑う!審判は一応フランシーヌの勝利としましたが……ここで国王様たちも登場し協議に入ります!リングが焼けてしまい遺体の処理もあるのでしばらく中断でしょう』


 

 試合中に恐るべき計画をべらべらと喋ったムサシと違い、フランシーヌがどんな思想の持ち主なのかはまだわからない。ただ、相手が悪人であれば苦しみを与えながら殺すことを躊躇わないというのははっきりした。


「……ジャッキー!こっちに来てくれ!」


「お父さん!」


 しばらく再開されそうにない。いつの間にかフィールドの隅にいたお父さんのもとに向かった。



「今のを見たか!?あの女、とんでもない魔力だ!」


「炎の威力ならマキ以上かもしれないわ」


 隣にはお母さんもいた。出場辞退しろと言われる流れだと思っていたら、二人の後ろには大きな箱があった。


「その箱は?」


「私たちからのプレゼントだ。受け取るかどうかは自由だが、受け取らないのならこの大会から撤退させる」


「……ありがたくもらうしかないね」


 こんなのほぼ強制だ。これから試合なのにこんな大きなプレゼントをどこに置けばいいのやら。


「そんな顔しないの、ジャッキー。安心していいわ、これはあなたを助ける素晴らしいものよ」




『戦いに敗れて死んだムサシですが、あの様子ではリングで暴挙に出ていた可能性が高く、フランシーヌの反撃が過剰な攻撃になっても仕方ないという結論に達しました!』


 フランシーヌは失格にならず、準決勝進出が決まった。審判がいれば右腕を失った時点で試合を止めただろうけど、その審判を排除したのはムサシ自身だ。


『マットの交換も終了しました!一回戦の最終戦、第4試合が始まります!』


 優勝者予想のくじで五番人気だったのは驚くことに私だった。どうせ大穴を狙うなら無名の選手よりも駄目な姉として有名な私だと考えた人が多かったようだ。



『中断が長かったので裏に下がっていた選手たちが再入場!準決勝を控えるマキナ様、サキー、フランシーヌと席に座り、マキシーがリングに上がります!謎の魔女マキシー、とにかく不気味!』


 フランシーヌの豹変ぶりを見せられた後だと、マキシーが何をしてきてももう驚かない。そして今の私は見た目で人のことを言える立場ではなくなっていた。


『残るはジャクリーン・ビューティの登場を待つばかり!大聖女の栄光を語る際にその存在をなかったことにしたいと誰もが願う女、なぜか決勝トーナメントに勝ち進んでしまいましたが………』


「おいおい……」 「なんだありゃ」


 お父さんに右手、お母さんに左手を持ってもらいながらゆっくりと通路を歩き、ラームにロープを上げてもらってリングに入る。みんなの助けがないと難しいことばかりだった。



『……これは……ジャクリーンなのでしょうか?全身を厚手の鎧と兜で覆った謎の人物がリングに上がりました!マキシーと同じくこれでは顔が見えません!おっと、審判が本人かどうか確認しています』


「えっと……はい、私です」 


『ジャクリーン・ビューティ本人だという確認ができたようです!しかし呆れました!ハチのムサシの死を目にして臆病になったか、一人では歩けないほどの重装備で現れたのですから!』


 私じゃない。お父さんたちだ。この防具で身を守らないなら無理やり連れて帰ると言い出して止まらなかった。ルリさんやラームまでそうしろと譲らず、多数決で押し切られた。



「怖いんだったら最初から出るなよ!」


「さっさと負けて帰れ!全人類の足手まとい女!」


 ブーイングがうるさすぎて審判も試合開始の合図が出せずにいた。でも私は兜のおかげで音をかなり遮断できている。視界の悪さは気になるけど、どうせ俊敏に動くのは無理だから敵の攻撃は避けずに受け切る。


「すごい鎧に兜……前見えてるの、それ?」


「まあなんとか………」


 マキシーも信じられないといった顔だ。敵を眠らせる、幻を見せるといった魔法が得意な魔女相手に剣技や体術を警戒するような装備で現れたのだから驚くだろう。




「では……始めっ!」 


『どうにか試合が始まりました!しかしジャクリーンは動けない!マキシーはその間に魔法を唱えようとしている!』


 ほんとうに防御しかできない。敵軍の数が多くて攻撃が激しい戦場で皆の壁になる兵士が装備するための鎧と兜だった。



「前は見えている……それなら完全に全身を覆っているわけではない。少しでも隙間があれば私の魔法が届く」


「………?」


 試合前はすぐそばで話していたからマキシーの声が聞き取れたけど、今は互いに距離を取っていてしかも歓声や罵声が響いている。小さな声のマキシーが何か言っても全くわからなかった。



「眠れ……超催眠魔法」


「………あっ」


 彼女が二次予選で多くの参加者を脱落させた時に使った魔法だった。この防具たちには魔法の威力や効果を弱める力はなく、私は簡単に餌食になった。



「…………」


『マキシーの魔法が決まりました!ジャクリーンは立ったまま夢の世界へ!早くも勝負ありか!?』

 青山に自由なお城を作ろう

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