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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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逆転のサキーの巻

「マキナ様―――っ!この世の救い主―――っ!」


「マ・キ・ナ!マ・キ・ナ!」


 無傷、しかも秒殺で準決勝進出。期待通りの強さに皆も大喜びだ。



「ぐぐぐ……やはり大聖女は格が違う。無事に生きて帰れることに感謝しないとな……」


「ありがとーございましたっ!」


『互いに一礼してリングを去ります!続行不可能と審判が判断、もしくはギブアップでしか試合が決着しないこの戦いでは珍しい爽やかな光景!これも大聖女の偉大さによる奇跡でしょう』



 この試合の直前まで優勝者を当てるくじが売られ、配当金も発表された。一番人気はもちろんマキで1.1倍、銅貨1枚を賭けても小銅貨が1枚増えるだけだ。


 二番人気は意外にもエンスケだった。初戦でマキと当たるのは厳しいけど、もしその試練を突破したらあとはマキ以下の相手しかいないから優勝まで突っ走ると期待されていた。


『続く第2試合は女剣士サキーと武闘マスターのヤブサが激突します!優勝者予想の賭けではほぼ同じくらいの支持を集めていました』


 サキーとヤブサは実力互角と思われていた。サキーが勢いのある冒険者だと多くの人が認めている。ただし剣技が不利なルールであることと、弱小ギルドでの活躍だという点が不安材料に挙げられていた。


 対するヤブサはベテラン冒険者で、すでに身体面でのピークは過ぎた。それでも経験と熟練の技が衰えを補って余りある。狭いリングで戦うのもヤブサに有利に働くと読む人たちもいる。



「しかし妹様は相変わらずとんでもない強さですね。前も言いましたけど、ジャッキー様が守る必要なんてないんじゃないかと……」


「そうかもしれないね。これは私の自己満足……何のために生きているのかわからない無能だから、生まれてきた理由を無理やり作ろうとしているだけだよ」


 今日この日にマキのために死ねたら本望とさえ思っている。無謀な挑戦のせいで犬死にだと笑われても構わない。何もせず生き続けても恥を晒して迷惑をかけるだけなら、胸を張ってこの命を燃やし尽くしたい。


「……ぼくが言いたいのは、ジャッキー様には自分のために戦ってほしいということです。妹様のためなんて余計な重荷を背負っていたら勝てる試合も勝てません!」


「その重荷を取っちゃったら私はもう抜け殻、何も残らないよ。マキを守るって決意が私自身を守ることにもなるはずだからね。さあ、サキーの試合を見よう」


 まずはサキーの応援だ。私がいなくなってもラームとマユの面倒を見てくれると信じている。




『試合開始の鐘が鳴りましたが睨み合いが続きます!両者共に慎重!』


「………」


「来ないのか。ならばこちらから!」


『若いサキーから果敢に攻めるものと思いきや様子を見ているだけ!攻撃を受け流す構えだったヤブサのほうが我慢できずに先に仕掛けました!』



 サキーが動かないのは作戦か、相手に隙がないから動けないのか。ヤブサは背後のロープに飛び、跳ね返った勢いでサキーにタックルしてきた。


「ぐっ」


『わずかに避けきれなかったか!ヤブサは素早く追撃、今度はサキーの後ろから回転しながら手刀攻撃!』


 これのどこか全盛期を過ぎているのやら。サキーですらスピードで圧倒されてしまうのだから、私だったら第1試合を凌ぐ瞬殺で敗退なのは確実だ。

 


「どうした小娘!こんなものか!」


「………!」


 身軽さを重視するサキーは装備が薄い。一撃が軽い相手の攻撃でも何発も食らうときつい。


『直撃は免れてもダメージは蓄積!このまま一方的に勝負は決まってしまうのか!』

 

 サキーも手を出してはいる。それでもリングを軽快に跳び回るヤブサには届かない。焦りや苛立ちがますますミスを誘い、悪循環に陥りつつある。



「ぐっ………強い」


『鮮やかな空中殺法の前についに倒れたサキー!戦闘不能にはまだ遠そうだがヤブサが休む間を与えない!』


「お前が流れを取り戻す前に一気に決めさせてもらおう!私の最も得意とするこの技で!」


 ロープを支える四本の鉄柱のうちの一本に立ち、そこから高く天に向かって飛んだ。



『ヤブサは人間ですが鳥人以上の身のこなし!空から一気に狙いを定めて急降下――――――っ!!』


 ヤブサ試合を決める大技を放つ。どうにか逃げないと終わりだ。私にできることは叫ぶことだけだった。



「サキ――――――っ!!頑張れ――――――っ!!」


「……ジャッキー!」



 サキーは剣を握り直し、足と背中の力だけを使って浮いた。魔法も簡単なものなら使えるから、この土壇場のために温存していたようだ。


「タァ――――――ッ!!」


「何だと……ぐあっ!」


 空中で二人がぶつかった。勝ったのは相手の動きをよく見ていたサキーのほうで、ヤブサの技の命とも言える足を目がけて剣を振り抜いた。この大会では斬れない剣を使わないといけないから、叩いたという表現が的確だ。



「うぐっ!がっ……」


 落下する直前にもう片方の足にも攻撃し、着地に失敗して倒れるヤブサの顔に剣を突き立てる。サキの鮮やかな逆転劇だった。


「……ずっと無抵抗でやられていたのは罠だったか。調子に乗った私が隙だらけの大技を出すところを逆襲!こちらが試合前に考えていた戦術だったはずなのに……完敗だ!」


 

『ヤブサがギブアップ!激戦を制したのは新鋭サキー!劣勢をひっくり返す鮮やかな勝利で準決勝進出!』


「やったぁ!サキーが勝った!」


(フフ……これは作戦なんかじゃない。余力も僅かで敗北を覚悟していた。あいつの声が聞こえた瞬間、突然力が漲ってきて反撃できた……それだけのことだ)


 サキーと目が合った。私が笑顔で小さく手を振ると、サキーもほんの少し表情が和らいだように見えた。




「見たか!?あれが俺のギルドの宝、サキー様だ!羨ましいだろ、お前ら!なあ!」


「………」 「………」


「格上の古豪ヤブサに完勝!危ないかもという場面はあったが俺の声援に応えて大逆転だ!このサンシーロとサキー様の絆は永遠だ!」


(この親父……) (まさに大老害だな)


 サンシーロさんの喜びように周りは呆れ果てていた。サキーが実は移籍を考えていると知ったらどうなることやら恐ろしい。

 生涯現役は難しい 

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