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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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大聖女の完勝劇の巻

 運を引き寄せるだの前を向く姿勢が素晴らしいだのはただの方便で、サキーやラーム、マユのような私のそばにいる有能な人間が目当てなら全て納得だ。


 納得なんだけど悲しい現実に少しがっかりしていたら、カーリンさんはそれを否定した。



「いや、あくまで私の本命はジャクリーンさんです。しかしあなたがいれば大勢の人間が集まってくる、それもまた確かです。最高のチームリーダーになれるあなたが必要だと思うのは当然ではないでしょうか」

 

「人間が集まる?カーリンさんに話しかけられるまではずっと一人で飲み食いに没頭してたのにですか?」


「ここにいる連中の目は曇っていて、損得や身体目当てでしか物事を考えられないからです。そんな人間はあなたに近づきませんが、いないほうがいいでしょう。ですがあなたのそばにいるのは真の愛情と友情により結ばれた者たちばかり!やがて王家すら超える富と力、勝利と栄光を手にできるでしょう」


 

 カーリンさんの予想外の熱弁を「そんなことないでしょ」と軽い気持ちで聞き流していた私と違い、サキーは真剣に耳を傾けている。途中で何度も深く頷くことすらしていた。


「……王家を超える……か。なるほどな。あんたが目指しているのもそこなんだろう?興味深い話だ」


「人、金、戦闘力。勢力を拡大し続けていずれは……」


 ここはお城で王様たちもいるというのにこんな話ができるなんて。凄い度胸だけど長生きできそうにない。


 それに私が大会に参加したのは王国と王家を脅かす危険な人間を止めるためだ。カーリンさんの野望を聞いてしまった以上、オール・エリート・ギルドの仲間になるのは難しい。お誘いを断ってこの場を離れようとしたら、サキーが私を止めた。



「……ジャッキー、お前は王国のために戦っているのか?妹を守るために、だろう?」


 心を読まれているのかと焦った。私が単純でわかりやすい人間なだけか。


「何かあればお前の家族はみんなお前の味方になる。もちろん私たちもな」


 今回はマキの敵と国家の敵がたまたま同じだっただけだ。もしこの先、大事な家族と王国が敵対したら私は当然家族を選ぶ。その時はカーリンさんと手を組むこともありそうだ。



 今日はひとまず話だけで終わり、正式な契約については大会後にまた打ち合わせることになった。この話をラームとマユにもしてみると、


「いいと思いますよ。今のギルドにいても薬草採りかサキーさんの手伝いくらいしか仕事をもらえませんしね。レベルアップのチャンスです!」


「大賛成です!行きましょう!」


 二人とも移籍する方向に心が傾いていた。私はサンシーロさんと昔からの知り合いだけど、この二人からすればただの嫌な上司だ。評価してくれる人のところで働きたいのは当たり前だった。



「それよりも明日の試合ですよ。ビューティ家の方々は妹様の試合もありますしサキーさんは出場選手、だからぼくがリング下でジャッキー様をサポートします!」


 広い大闘技場を使うのにどうしてリングでの戦いになるのか、答えは簡単だった。決勝トーナメントではフィールドにも椅子を置いて観客をたくさん入れるためだ。リングのすぐそばという席は値段も高くて、薬草採りを十回はやらないと買えない。


「よろしくね、ラーム。マユもあと二日、裏方の仕事頑張ってね。今日よりは忙しくないだろうけど」


「……明日のことなんですが、気になる情報が聞こえてきたので報告します。決勝トーナメントに残った選手の中に王家を覆す、王国を崩壊させる……そんな考えを持った人間がいるかもしれないとのことです」


「………それは?」


 マキシーのことならもう知っている。それでもマユが持ち帰ってくれた情報だから聞いてあげようと思った。すると、



「ジャッキーさんが一回戦で戦うマキシー、そして準決勝で戦うことになるムサシとフランシーヌ……この三人です」


「えっ!?三人も!?」


 聞いておいてよかった。まさかそんなにいたなんて。そういう人間を落とすのが一次予選のくじ引きの役割だったはずなのにと思うけど、文句を言ってももう遅い。



「しかも全員政治的主張に加えて戦い方も過激!殺人を躊躇わない残虐な者だと噂されていました」


「………危なくなったらぼくがギブアップさせます」


 マキシー戦は絶対勝たないといけなくなった。しかも次の試合を戦える余力を残して。


(明日は人生で一番の大勝負だ)






 そして決勝トーナメント当日、第1試合からいきなりマキが登場して大闘技場は大歓声だ。身長差、体重差を考えたらかなり厳しい相手であるエンスケとどう戦うかに注目が集まった。


「試合開始!」


「ハァ――――――ッ!!」


 鐘が鳴ったと同時に仕掛けたのはエンスケだった。自慢の剣技や筋肉ではなく、魔法を唱えてきた。



『エンスケが何かを飛ばした!これは……塩か!?』


「わっ!ぺっぺっ………」


 マキが塩を気にして視線を逸らしたところでエンスケが突進した。威力が出ない剣は使わず、太い右腕でマキの首を狩りにきた。


「くらえ!!ヴァ――――――ッ!!」


『これを食らったらいけない!大聖女マキナ・ビューティ、万事休すか!?』


 マキは全く避けようとしない。思わず目を逸らす観客たちもいた。でも私は心配していなかった。



「………えいっ!」


「うおっ!?ぐおおおっ!!」


 指だけで斧のような腕を止めるとそのまま投げ飛ばした。リングの下まで落下したエンスケは頭を打ったのか、動くことができなかった。



『あ……圧勝だ!返し技一撃でエンスケを撃破!これが大聖女マキナ様です!』


 マキにしてはうまく手加減したほうだ。魔法に頼らず大聖女の力だけを使いエンスケを仕留めた。

 ヴァー!

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