表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
38/273

オール・エリート・ギルドの巻

「オール・エリート・ギルド……ですか」


「聞いたことがありませんよね?本格的に活動を開始するのはこれからです。今はまだあなたのような優秀な人間を集めている最中なのですよ」


 新たなギルドを立ち上げようとするカーリンさん。私にまで声をかけるくらいだから、最低でも決勝トーナメント出場者は全員、それ以外にも大勢をスカウトしているはずだ。


「私は戦うのが苦手なので現場には行けませんが、経営者として皆さんが最高の仕事ができる環境を整えます。やりがいのある依頼とそれに合う報酬を用意することでね」


 話をしているうちに思い出した。この人は商人として大成功した家の二代目だ。父親の増やした財産をさらに数倍にしてみせる才能の持ち主で、外国人や魔族相手の商売も絶好調だそうだ。



「ジャクリーンさんも今のギルドでは実力を発揮できていないのでは?あなたを正当に評価しない者から離れて私の冒険者ギルドで活躍することを勧めます」


「あはは……ありがたいお言葉なんですが、正しく評価していないのはカーリンさんのほうですよ。私なんか引き抜いてもお荷物が増えるだけ、決勝トーナメントに進んだのも運がよかったから……」


 国外や魔界に旅をすることが多くて私の悪評が耳に届いていないのかもしれない。後で文句を言われても嫌だから早めに向こうから撤回する流れにしようと思った。ところがカーリンさんの気持ちは変わらない。


「いや、その運が必要なんですよ。運がなければ優れた素質や能力も宝の持ち腐れ、場合によってはくだらないことで死んでしまいます。どれだけ鍛えても運だけはどうしようもありません」


 一次予選のくじ引きもそうだった。真の強者なら天のほうから愛してくれる。仮に強者ではなくても運があれは生き残れる。 



「私はベストを尽くしました。冒険者だけでなく裏方も最高の人材を探し、またあらゆる角度から立地条件を調査し万全を期しています。残るは運が味方してくれるかどうか、それだけなのです!」


「………」


「あなたは運を引き寄せる人間です。聖女になるはずが妹にその力を奪われた……普通ならあまりの不幸に世と人を憎むところですが、あなたは違いました。それを不運とは考えずに前を向き、自分にできることをしようと努力を続けています!だからツキが逃げずにあなたを支えてくれている……」


 そこまで深く考えたことはなかった。運を引き寄せるような生き方、そんなものを意識したこともない。それでもカーリンさんにとっては重要な要素だったようで、私の存在がギルドにも幸運をもたらすと信じているようだ。



「改めてスカウトさせていただきます!ジャクリーン・ビューティさん!ぜひ私のもとに来てください!あなたの生涯をどうか私に預けてください!」


「………」


 両手を力強く握ってきた。この人が真剣に私を必要としてくれているのが伝わってくる。ここまで熱心に求められたのなら私も前向きに考えようと思った瞬間、何者かが私とカーリンさんの間に割って入った。



「ハァ……ハァ……危ないところだった!」


「サキー!?どうしたの急に?」


 遠くでどこかの貴族に囲まれていたサキーが光のような速さで私たちの手を引き離し、そのまま私を抱き寄せていた。


「ジャッキー、この男に騙されるな。こいつは自分の言いなりになる女奴隷を何人も飼っている!甘い言葉で誘惑し、あんなことやこんなことまで………!」


「いや、ギルドの一員にならないかって話で……」


「それが罠だ!最初は優しく接して油断させ、そのうち卑猥な手つきで触れてくるはずだ。事あるごとにお前に関係を迫るようになり、やがて密室のような助けの来ない場所でジャッキーの美しく清い身体を………なんて破廉恥なんだ!許さんっ!」


 しかも急に暴走を始めた。選手同士が密着して、しかも騒いでいるとなれば兵士たちが何人も駆けつけてくるのは当然のことだった。さっきまで私は空気のような存在だったのに、サキーのせいで注目の的になった。



「……彼女は頻繁に汚らわしいとか破廉恥で堕落しているとか叫ぶが……」


「あの人が一番エッチだよね。妄想と空想の塊だもん。やっぱりお姉ちゃんから離したほうがいいよ」


 お父さんとマキが呆れているのが見えた。サキーが落ち着くのがもう少し遅かったら助けに来てくれたと思う。



 サキーの呼吸が整って話を冷静に聞けるようになるまでカーリンさんは待った。いきなりこの男呼ばわりされても怒らず、静かに話し始めた。


「あなたの言う通り私が女奴隷たちを所有しているのは事実だ。しかしこのジャクリーンさんをそういう目で見てはいない。大事な戦力として必要としている」


「そう簡単に信用できると思うか?」


「信用できないならいい方法がある。あなたも私のギルドに来い!そうすれば仮に私がジャクリーンさんに手を出そうとしてもあなたが阻止できるだろう」


「………!なるほど、そうきたか!」


 私を餌にしてサキーまでスカウトするのだからさすがは大商人、巧みな話術だ。しかしこの流れ、もしかしたら………。



「……あの〜〜〜………ひょっとして私は最初からそのために?私で優秀な冒険者を釣ろうと………」


「…………」


 図星だったのか、返事が遅い。こんなことだろうと思ったよ。

 次にAEW入りする日本人は誰だ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ