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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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ゲンキ像レースの巻

『だ……大聖女マキナ・ビューティ様……完璧です。箱の中の当たりくじ10枚を全て引いて完全なるクリア!これにて一次予選は終了です』


 これがマキの力だ。私たち家族ですらその限界はわからない。限界なんかないのかもしれない。


「父上……大聖女を迎えることでアントニオ家はますます強くなると思っていましたが……逆に我らを飲み尽くし歴史から消してしまうということは?」


「そんなことあるものか!」


 数百年に一人しか現れない大聖女。利用しようとする者たちに待つのは栄光か、それとも破滅か。



『ではこのまま二次予選を開始します!国王様、競技の説明をお願いします!』


『……あ、ああ……次の種目は『ゲンキ像レース』だ!おい、持ってこい!』


 兵士や大会スタッフたちが荷車で運んできたのは王様の全身を忠実に形造った銅像だった。顔なんかとてもそっくりだ。


『この像は北の地に住む大巨人と同じ重さだ!まずは実演しよう……よしっ!』



 くじ引きと同じように自分で手本を見せるようだ。上の服を脱いで上半身が裸になった国王は、横にして置かれていた自分の像を両手で持ち上げ、頭の上で止めた。


「おおっ!さすがアントニオ王!すごいパワー!」


「ふん、足が震えてるぞ。かなり無理しているな」


 悪態をつくお父さんを睨みながらも、王様は銅像を持ち上げた姿勢を1分間続けた。



『フー……フー………まずはこうして1分、その場で静止してもらう。次にこのまま………』


 フィールドの端に台座がいくつも置かれている。王様はそこを目指して歩いていき、到着すると像を下ろしてきれいに立てた。


『ハァ、ハァ。これで終了だ。この私の像なんだ、途中で落とす、台座に置けないといった不敬な行いをした者は即失格だ!』


 とても重い銅像を持ち上げるパワーとそれをキープする持久力が求められる。筋力を強化しても数秒しか続かない私は大ピンチだ。



『そしてこれはレースだ。最終予選に進めるのは24人、合格者がそれ以上いる場合は速く置いた者が勝ち抜けだ!』


 持ち上げる時点で脱落しそうな私には関係ない話だ。くじ引きで運を使い果たしたのかもしれない。


『国王様、お見事でした。さて、この二次予選ですが先ほどとは逆に番号の大きい選手から始めていただきます!つまり500番の……』


 マキの魔力ならこれくらい楽勝で、のんびりして時間をかけすぎるのが唯一の不安材料だ。一人目だから予選通過ラインがわからないのも難しい……なんて考える人はマキのことを知らない。



「片手……いや、指一本だ!」


「欠伸をしている!空いた手で口を押さえて……」


 このくらいで驚くようではまだ早い。ここからだ。


『1分経過………あっ!?』


「よいしょっと」


 瞬間移動に見えるほどのスピード。皆の目が追いついた時にはもうゲンキ像を台座の上に置いていた。



『き、記録は……『とにかく速いタイム』です!あまりに速すぎて正確に測れませんでした!』


 測らなくたってこれ以上速くクリアできる選手はいない。マキの二次予選突破が事実上決まった。


『二人目の挑戦者は大聖女様の姉、ジャクリーン・ビューティ!おそらく持ち上げることすら不可能と思いますが……』


 マキはそのまま王族専用の控室に戻ってしまった。安全のためにはそれが一番だ。このフィールドに残る約60人のうち誰がマキの命を狙っているのかまだわからない。危険な選手は全員くじ引きで落ちた可能性もあるから、それなら最高だ。


 ただ、そんなに何もかもうまくいくはずがない。私も次に進んでマキを魔の手から守るんだ。



「ジャッキー!諦めなければ神様はあなたに微笑むわ!呼吸を整えましょう」


「そうだ!根性見せろ!」


 お母さんが私を励まそうと近づき、お父さんもそれに続く。ところが兵士たちに止められた。


「ちょっと待て!こっそり強化魔法で援護しようとしているだろう!選手から離れなさい!」


「……おほほ、バレてしまいましたか」


 現役を退いても元聖女、私より魔力はある。さすがにこんな方法で勝ち進んでも嬉しくない。



『過保護なバカ親が排除されたところで再開!スタッフが王様の像を運んできました』


「ありがとうございます……あっ、マユ!」


「さっきはおめでとうございます!ところで……」


 マユはスライムの女王からの信頼も厚い、一族のエリートだ。運営の仕事も無難にこなしているようだ。そのマユが私に耳打ちしてきた。



「先に言っておきますが、これは私が立場を利用してやったことではありません。不正や介入ではないのでジャッキーさんは堂々と胸を張ってください」


「………なんのこと?」


「すぐにわかります。「二番目の選手には必ずこれを渡すように」と王様直々に命令が出されていて、私はそれに従っているだけですから」


 あまり長く話すと怪しまれるからか、マユはすぐに自分の持ち場に戻った。マユが何を伝えたかったのか、確かにすぐにわかることになる。




『では……始めっ!!』


「ふんぬらばぁっ!!」


 数秒しか効果がないとしても、できることはやろうと両腕の筋力を強化した。そして全力を込めた。



「おっ!?おおおっ!?」


『ああっ!これは奇跡か悪夢か!名門ビューティ家の唯一の汚点、ゴキブリのほうがまだ世の中に貢献していると言われるジャクリーンが軽々とゲンキ像を持ち上げています!』


 あまりにも軽すぎて逆に落としてしまいそうだった。魔法なんか使わなくてもよかったくらいだ。


(そうか!マユが言った『二番目の選手』は本来なら私じゃない!その人のためのものだったんだ!)


 マッチョ王子を絶対に合格させる特製の像。王子様が脱落しても命令は撤回されなかったから、マユはこれを持ってくるしかないというわけだ。



(こっちのインチキじゃないんだ。ありがたくもらっちゃえ)


「うおおおおおお――――――っ!!」


『1分過ぎた!ここからは……おっと、速い!妹に続き姉も速い!いま台座に置いて終了!記録は20秒、最終予選進出は確実でしょう!』


 またしてもラッキーだ。私の闘技大会はまだ終わらない。

 あのRGがプロレス復帰!?衝撃のニュースです。

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