規格外の偉業の巻
「よし!これだ―――っ!」
『すぐに引きました!果たして……』
あれだけ騒がしかった観客席が静かになった。こんなに皆が注目しているのは最初の数人以来だ。
「ジャクリーン様――――――っ!」
その空気を切り裂くルリさんの声。周りの観客たちが「この美人は誰だ」という顔で見ていた。ルリさんの愛に応えたいところだけどもうくじは引き終わった。結果を待つしかない。
「ジャッキー……」
サキーも私の隣で心配そうに見守る中、思い切って一気に紙を開いた。そこには………。
「あ……ある!あるっ!ほらほら!」
「おおっ!ジャッキー!」
アントニオ家の紋章が見えた瞬間、二人で抱きあって喜んだ。私が二次予選に進出するわけがないという予想がほとんどだった観客席から今日一番のどよめきが起こった。
「ば、馬鹿な!」 「ありえないっ!」
『驚きました!大聖女の姉、ジャクリーン・ビューティが勝ち上がり!見事に当たりを引きました!』
特等席に戻っていた王様と王子様が転がり落ちる。まさか二人が裏でくじを操っているとは考えてもいないから、いくら何でも失礼だと思った。
「ハハハ!ざまあみろゲンキ!これが私の自慢の娘だ!この記念大会はビューティ家の二人が優勝と準優勝を独占してやるからな――――――っ!!」
「バーバめ……歳を重ねても忌々しいやつ!」
兵士たちの制止を振り切ったお父さんとお母さん、それにルリさんがフィールドに入ってきた。皆で私を囲んでお祭り騒ぎだ。
(マキは……いないな)
マキもこの輪に加わってくれると期待していたけど、この大観衆の前で出来損ないの姉と仲良くするのはまずいか。どこかで喜んでくれているはずだ。
「ジャッキー!やったわ!」 「素敵っ!」
『見てくださいこの馬鹿集団を!優勝したかのような大騒ぎ!兵士たちが乱入者を連れ出そうとしますが……こんなのでも歴代優勝者夫婦!返り討ちに遭っています』
直前でどこかに行ったラーム、そしてマユもここにはいない。実はマユは大会のスタッフとして内部に潜り込んでいる。人が足りなかったのか当日まで募集されていた仕事に応募してそのまま採用された。
ラームが私の胸ポケットならマユはスタッフ、そしてサキーは常に隣にいる。とうとうお父さんたちまで入ってきて、『チーム・ジャッキー』が集結した。
「おいっ!早くどけ!次はこのマッチョ・アントニオの番だ。いつまでやってやがる」
「あっ……すいません」
「私と大聖女様は本来予選を免除される予定だった。お前たちクズにわざわざ合わせてやったんだ、感謝しろ」
王様と同じように、ここで当たりを引くのは当然といった顔で箱に手を入れる。これが選ばれし者の風格か。
「大聖女様もこんな汚物のような姉がいなければもっと幸福に生きられただろうに……」
私を嘲る言葉を吐きながらくじを引こうとしたのが最大の失敗だった。箱の中にはまだラームがいる。
(ジャッキー様を馬鹿にしたな!これでもくらえ!)
(おっ、きたきた。小人が当たりを渡してきた。なぜか直前で失敗しているが……まあ問題ないだろう)
ラームが小人を倒したとは知らず、中からの手助けだけを頼りにしている。だから違和感があっても深く考えようとはせず、その結果………。
『なんということだ!大聖女様に次ぐ優勝候補、マッチョ・アントニオ様がここで脱落!無情にもくじは白紙でした!』
「………あ?あ?あ?」
騒然とする観客席、慌てて特等席からくじを確認しにやってくる王様、失神寸前のマッチョ王子……その混乱をますます悪化させようとしたのはチーム・ジャッキーだった。
「おや、これはこれは!こんなことなら素直に予選を免除されていればよかったのに」
「クズにはふさわしい末路だ。なあ汚物」
お父さんやサキーが王子を煽り、王様や闘魂軍の怒りが爆発寸前だ。この隙にラームは箱から脱出できたからまあよかった………のかな?
「おいコラ、バーバ!お前が何かしたのか!?お前の無能すぎる娘と俺の優秀な息子の運命を交換したんじゃないだろうな!?」
「そんなことするわけないだろ、阿呆。自分とバカ息子の間抜けぶりを人のせいにするのはやめてくれ」
「国王!もはや大会は中止にしてこの連中を打ち殺すのがよろしいかと!」
誰かが動けば戦いが始まる危険な空気、それを止めることができるのはこの場で最も強い人間だけだ。しかも二番手以下に大きく差をつけるほどの力を持っている必要があり、それに該当するのはもちろん一人しかいない。
「あれあれ?みんなどうしたの?」
大聖女であるマキだ。睨み合う両陣営の間を平然と歩き、箱の前に立った。
「お姉ちゃん、おめでとう!でもお姉ちゃんならこれくらい当たり前だよね。マッチョさんは残念だったけど、実力的にはこんなもんでしょ。どうしてあんなに自信があったのかわからないよ」
婚約者への気遣いはないままくじを引く。紙を雑に開いてテーブルに置くと、わかっていたことだけど紋章が書かれていた。
「さすがマキだ!馬鹿王の息子の馬鹿王子とは違う!」
私たち姉妹の連勝にお父さんは大喜びだ。しかしここから異様な展開になっていく。
「………これかな」
マキはくじ引きをやめなかった。2枚、3枚と当たりを引いてはテーブルに並べていく。
「おいおい……」 「まさか……大聖女様」
顔色を変えずに淡々と、そして次々と当て続ける。落胆や憤怒で心を乱していた王族も、大喜びしていたチーム・ジャッキーも、そして周りの選手や兵士、観客席もマキに支配された。それまでの感情や自分たちの状況も忘れて大聖女の力に圧倒される。
「はいっ、終わり!楽勝だったよ。まだ一次予選だし、簡単すぎて当然なのかもね」
「……あ、あ………」 「バケモノ………」
一度の失敗もなく10枚連続で当たりを引いた。理解を超えた光景を目にして、誰も動けず小さな声しか出ない。拍手すら起こらず一次予選は終わった。
マッチョなのにコンニャク