くじ引きの陰謀の巻
「しかしいい気持ちですね、とてもふかふかで……一生ここで暮らせたら幸せなのにって思います」
「ずっとこの服を着てるわけにもいかないし、どこかで出てもらわないと……」
私の胸ポケットにいるラームは温泉に入っている時のような顔をしていた。こんなところが快適だなんて、感覚は人それぞれだ。
「あっ、サキーの番だ!頑張れ!」
「S級冒険者たちが次々と敗退していますからね……五分の一はやっぱり難しいですよ」
サキーは闘魂軍を辞めたメンバーではない。でも先に当たりを引いたエラプション家を捨てた人間だ。王家にとって邪魔だと判断されたら……。
「では255番、どうぞ」
「…………」
深く目を閉じて、己の直感を信じて箱の中の当たりを探す。サキーはこれまでの選手よりじっくりと紙の山を漁り、時間制限ギリギリになったところで取った。
「サキー!紋章は………」
自分の手でゆっくりとくじを開き、にやりと笑ってから真上に掲げた。観客たちにというよりは私に見せているようだった。
『255番のサキー選手、一次予選通過!』
「やった!おめでとう、サキー!」
すぐにサキーのもとに走った。一番に祝福してあげたかった。
「よかった!ドキドキしたよ、ほんとうに!」
「……そうみたいだな。手がベタベタしてるぞ」
慌てて手を離した。私のほうが興奮しすぎて手汗まみれだったようだ。
「ゴウテンが当たりだったから私は落とされるかもと思っていた。やはりくじはくじ、偶然なのか?」
「そうだね。深く考えても仕方ないよ」
「落ちたやつらには私たちが知らない事情があったのかもな。もうピークの力を過ぎたとか、実は病気とか……まあいい、私も神経を使った。水を飲んでくる」
平常心で堂々と振る舞っているように見えて、サキーも緊張していたみたいだ。そしてなぜか手をぺろぺろ舐めながら歩いている。
「どうしたんだろう?紙で手を切ったのかな?」
「………深く考えても仕方ないと思います」
ラームは何か知っているような口調だったけど、大したことではないからこの話はこれで終わりにした。
その後も予選突破は確実と見られていた選手が何人か脱落、全体の一次予選通過者も予想より少ない60人というところで私の出番が迫ってきた。
「そろそろだ……気合いを入れないと」
深呼吸しながら背伸び、頬を軽く叩いて列の最後尾に並んだ。するとここでラームがポケットから飛び降りた。
「大事な時にすいません。ぼく、ちょっと抜けます!頑張ってください、ジャッキー様!」
「え?あ、うん。いってらっしゃい。踏まれないように気をつけてね」
協力することはできないし、もしポケットにもう一人いると見つかったら失格もありえる。ラームはそこまで考えてどこかへ行ってくれたのかもしれない。
そのころ王様は特等席を離れ、誰もいない場所で第一王子と話していた。護衛の兵士もいなかった。
「……我らの思惑通り事が運んでいるな。我らの下を去ったやつらには裁きを与え、王家に忠誠を誓う者たちには恵みを与えた。これを偶然とか運命だと思っているのなら……」
「連中も観客席にいる群衆たちも馬鹿だらけです、父上。そういえば私の愛しい婚約者の姉……何も取り柄がないダメ人間すぎて逆に有名人のあの女は?」
「外れを引かせるに決まってるだろ。その理由も多すぎてとても言い足りない。私とバーバ・ビューティの因縁、そもそも実力不足……この二つだけ抜粋したがこれで十分だろ。さあ、お前の番も近づいている。戻ろう」
『498番……ジャクリーン・ビューティ選手!』
ついに私の番だ。私の次は499番の第一王子マッチョ・アントニオ様、そして500番のマキしかいない。観客たちも全員席についていて、想像以上に注目されている。
「かの有名な無能女が来たぞ!誰か俺と賭けをやれ、こいつの敗退に全財産賭けるぞ!」
「俺は女房を賭けてやる!賭けてやるが…全員敗退と予想したんじゃ成立しないだろ!」
罵声やヤジの嵐……そんな中でも歓声が聞こえた。
「ジャクリーン様!ここは通過点です!ジャクリーン様なら絶対に当たりを引けます!」
「頑張れジャッキー!この阿呆どもの賭けに乗ってやったぞ!こいつらから勝った金でまた宴をやるぞ!」
圧倒的に少数派のはずのルリさんやお父さんたちの声がはっきり届いた。熱くなりすぎて周りの客と乱闘なんてしなければ嬉しいんだけど。
(マキを守るためにも……生き残るぞ!)
私が気合いを入れて腕をぐるぐる回しているころ、箱の中では『小さな』戦いが始まっていた。
「よし、侵入成功!普通の箱だったな」
私に当たりを掴ませるためにラームが箱に入っていた。ところがすでに先客がいた。
「……な、なんだお前は!?何者だ、このガキ!」
(ぼくと同じ能力?それとも元から小さいのかな?)
後でラームに聞くと、おじさんの小人が箱の中にいたという。普通なら驚いてしまうけど、私とサキーの話を聞いていたからこの小人の役割をすぐに察することができたという。
「あなたがくじを自在に?500人全員?」
「全員はやらない。必ず当たりを引かせろ、絶対に落とせ……その指示を受けている選手の時だけ俺が介入する。さて、俺の秘密を知ったからには……」
小人が口封じのために襲いかかる……前にラームは動いた。飛び膝蹴りを相手の鳩尾に決めると、
「ぐぼっ……」
一発でダウンしたそうだ。498人目にしてようやく公正な予選を妨げる邪魔者がいなくなった。
「ジャッキー様たちとの冒険や訓練が役に立ったな。あとは……あっ!?ま、待って!」
私の腕が伸びてきて、すぐに適当な紙を取ってしまった。私はラームが箱の中にいたことを知らないし、時間をかけても当たる確率が上がるわけでもない。だからさっさとやっちゃおうと決めていた。
「あ……ああ〜〜〜っ!ジャッキー様………」
ラームの作戦も失敗に終わり、純粋に私の運が試される。審判の時が来た。
この話を書き終えた後で『勝利くん』の戦いを思い出しました。何のことかわかる方はどのくらいいるのでしょうか?




