天運試される一次予選の巻
一次予選の種目はなんとくじ引き。王様は箱を高く掲げ、その中に大量の紙を入れた。
『50枚中10枚、アントニオ家の紋章が書かれている。そいつを引けば二次予選進出、白紙のくじを引けば敗退だ。確率は五分の一、100人くらいまで減るだろう』
腕力知力一切関係なし、こんな運任せで人生を左右する大事なことを決めていいのか。
『こんなものも乗り越えられない人間なんかどの道大した結果は残せん!真の強者なら引く!この私のように!』
王様が勢いよく箱に手を入れる。しばらく中で紙をかき回すと、当たりを掴んだと確信したのか笑顔になった。
『………どうだ、アントニオの紋章があるだろう?』
引いた紙を見もしないで司会に手渡す。すると、
『あ……あります!さすがはゲンキ・アントニオ!選ばれし人間、運命に愛されし男であることを証明しました!皆さんもご覧ください!』
確かに当たりだった。インチキやトリックを使った様子はなく、五分の一を引き当てた。
『さあ、早速始めよう!我々が違反と判断しない行為ならいくらでも許可する!しかし透視魔法や気の流れを利用する者への対策を少しだけしてある。ほんの少し使える程度では役に立たないぞ!』
王様はフィールドに用意された特等席に座り、兵士二人がテーブルに置かれた箱の前に立つ。くじの確認と反則防止のためだ。
「番号順に行う!番号を呼ばれて1分以内にくじを引かなかった者は失格とする!では1番の者、出てこい!」
「俺が1番、『アース・テカイザ』だ!」
早い番号の選手たちはすでに箱のそばに列を作り始めた。運だけの勝負ではないはずと箱やその周りを注意深く観察したり、神様に祈りを捧げて当たりを引けるようにお願いしたり、なかなか面白い。
「私が498番でサキーが255番……昨日いっしょに受付したのにかなり離れてるね」
「同じグループの仲間が連番にならないようにしていたのかもな。こんなくじ引きでチームプレーなんかできないはずだが」
私はほとんど最後だ。選手たちがひたすらくじを引き続ける姿に飽きた観客が「ようやく終わる」と思いながらフィールドに意識を向ける。二次予選を見逃さないためにトイレや食事もすでに済ませている。だから498番は結構目立つ。
「くあっ!クソがっ!!」
『6番、予選敗退!次!』
ここまで全員失敗、次は7番の選手だ。
『7番は……ここで剣聖の登場です!将来有望の少年、『ゴウテン・エラプション』!初の一次予選突破者となるか!?』
「………」
何人か出場している剣聖の中で一番注目している選手が来た。このゴウテンはサキーの弟だ。サキーではなく彼が剣聖の力に愛された理由がこの大会でわかるかもしれない。
サキーは家出した時にエラプション家を捨てた。だからそれ以来一度もエラプションを名乗らず、ただのサキーとして活動していた。
「わかるわけがない………いや、これだっ!」
『緊張している様子、しかしすぐに引いたっ!』
自分で見るのが怖いのか、折りたたまれた紙をすぐに兵士に渡している。その兵士が代わりに中を見ると、笑顔でゴウテンの肩を叩いた。
『や、やりました!剣聖ゴウテン、七人目にして初めての一次予選突破!』
「やったあ!乗り越えたぞっ!」
絶縁したはずの弟が一番乗り。忌々しい気持ちになるか、それとも全く興味がないか。以前のサキーだったらそのどちらかだったはずだ。
「フッ……あいつめ」
今のサキーは優しく微笑んで祝福していた。私たちと共に過ごすうちにどんな心境の変化があったのか、家族への怒りや恨みはもうほとんどないようだ。
『闘魂軍の幹部、『イーグル・サカ』も当たりくじを引きました!真の実力者とそうでない人間を選別する公正な審判となっています!』
「真の実力者か……だったら俺なら楽勝だな」
ゴウテンの合格からしばらくして、S級冒険者のハッシーが自信たっぷりに前に出た。ここまで二次予選行きを決めた誰よりも強そうで、実績もある。突破は確実かと思われた。
「………な………に………」
『あ、あああっ!ありません!アントニオ家の紋章はなく、無情な白紙!破壊王と呼ばれる強豪が無念の敗退!』
ハッシーの脱落の直後、負の連鎖が起こった。ゴウテンやサカと比べてもずっと格上のムター、悪魔のような強さと言動の仮面の男『ガジン』も外れくじを引いた。大闘技場は異様な空気に包まれた。
「実力だけじゃだめってことだね。運もないと……」
「それはそうなんだが……何かおかしい。上位入賞できると言われていてこの一次予選で消えた連中には共通点がある」
ただの運勝負ではない。それ以上の強い力が働いているとサキーは睨んでいた。
「あいつらは全員闘魂軍を去っている。ゲンキ国王のやり方についていけないとか王国のためではなく自分のために生きるとか言って離脱した。ただしお前が警戒するような危険人物ではないけどな」
「………」
「もしあのくじが強者を選ぶのではなく王国にとって、もっと言うならアントニオ家に都合のいい人間を選ぶものだとしたら………おっと、そろそろ私の番だ。さて、私はどう思われているやら」
サキーは行ってしまった。でも実は私にはもう一人、支えになってくれる仲間がいた。
「………ジャッキー様。陰謀の匂いがしますね」
「もう少し様子を見よう。断言はできない」
今日の私は胸のところにポケットがついた服を着ていた。その中に小さくなったラームが入っている。私に何かあった時のためにと強く言われて押し切られた形だ。
アステカイザーは時代が早すぎた。




