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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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真夜中の戦いの巻

 平和な街に突如現れた、強い相手との戦いを求める魔物オニタ。私の妹と戦いたいと言うのなら黙っていられない。


「大聖女ならいない。ちょうど今日旅立った」


「……あ?しばらく戻らないのか?」


 オニタに失望の表情が見えた。一日遅れで規格外の強さを誇る大聖女と勝負する機会を逃したからだ。


「そうだ。城と首都を守る主力の兵士や他の聖女たちもすぐには来られない。それまではお前自身のためにもそこをまたぐなよ。おい、お前らもこいつをまたがせるな!」


 街の入口に聖なるバリアがあると敵が思っているのを利用して、プダンさんが食い止める。でもそれでは駄目だ。実はまだマキたちの一団はこの街から二時間もかからない場所にいるはずで、騒ぎを知ったら遠征を中断して駆けつけてくるだろう。家で予定を聞いていたので今どのあたりにいるかもわかっていた。



 こんな狂人とマキを戦わせるわけにはいかない。ここで倒すしかない。プダンさんの前に出て、オニタの正面に立った。


「大聖女はいない。でも大聖女の姉である、このジャクリーン・ビューティならここにいるっ!」


「………!」 「お、お嬢様!何をっ!」


『大聖女の姉』、オニタが興味を持つに決まっている称号だ。私を倒せば必然的にマキとの戦いも決まる。


「さあ、勝負だ!私が門の外に出てやる。お前が戦いを楽しむ暇もないくらいの瞬殺で……」


「おやめください、お嬢様!こいつは冒険者たちを何人も倒した強敵、あなたが勝てるわけがありません!」


「ああ、そうか。プダンさんは知らなかったね。12歳のあの日までは私が聖女のはずだったんだから、ちゃんと教育は受けている。あんなやつくらい朝飯前だよ」


 実は最近も過保護な周囲の目を盗んで特訓をしている。全力で挑めば倒すまではいかなくても追い払うくらいはできるかもしれない………熱く燃えていた。



 しかしその熱は空回り、まさかの結末が待っていた。


「馬鹿か。お前なんか相手にやってやれるか!マキナ・ビューティが数百年に一人の超大物ならお前は数百年に一人のクソ詐欺師!俺は雑魚を一方的にいたぶる趣味はない、強いやつと戦いたいんだ」


「………あれ?そっちまで私の話は伝わってたの?」


「当たり前だ。ああ………がっかりしすぎてやる気が失せた。もうどうでもいい………帰る」


 燃える私とは真逆、オニタはすっかり冷え切ってそのままほんとうにいなくなった。しばらく待っても戻ってくることはなかった。



「………お嬢様、見事魔物から街を救われましたね」


「………私もガクッと疲れたよ。家に帰る気力がない。今日はここに泊まっていこう」


 街の人たちも隠れながら一部始終を見ていた。一応お礼を言われたりもしたけど、場は脱力感に包まれていた。まあこれが私らしい気もする。






「…うっ」 「がっ……」


 夜、日付も変わったころ。門を守っていた人たちが倒された。夜の闇に隠れて迫ってきた侵入者は、大声を出されないように口を塞ぎながら獲物を仕留めた。そして躊躇いなく街に入った。


「フン、やはりバリアはなかったか。ただでさえ平和ボケしてやがるんだ、簡単に入れたぜ」


 その邪道の正体は昼間のオニタ。興味をなくしたふりをして一度は姿を消したものの、皆が安心した真夜中に再び戻ってきた。


「しかし昼間にあんなことがあったのに全く警戒心がないな……これなら朝には完全に俺が支配する街になるぜ」


 皆はすっかりオニタの芝居に騙されていた。でもここにその手には乗らなかった人間が一人いる。



「いや、そうはならない。私に倒されるから」


「………!なんだ、お前かよ。びっくりさせるな。昼間はお前といっしょにいたプダンとかいう女が厄介に見えたから引き上げたんだ。そのとき命拾いしたのにそんなに死にたいか!」


 勝つのは難しいとしても、苦しめるだけでいい。私相手に接戦ではマキに挑もうなんて気にはならないはずだ。私も死にたいとは思っていない。でもマキの安全を守るためならこの命を惜しまずに戦う。



「よし、望み通りやってやろう。お前はただの無能、しかしその度胸は気に入った。面白い戦いになりそうだ」


 オニタの右手には棍棒が握られている。よく見るとトゲのついた針金が巻きつけてあって、それだけでも痛そうなのにオニタは自慢の武器をまだ強化する。


「棒が光った………」


「ふふふ、これは電流だ。こいつを被弾した瞬間、お前は三重苦を味わう。殴られた痛み、鉄のトゲの痛み、そして電撃の痛み……たっぷり堪能して死ねっ!!」



 相手が先に動いたから、私は迎え撃つ形になった。


「うりゃあっ!『電流爆破アタック』!」


 電流を操る力を持っているとなると、棍棒以外にも気をつけるべきことが増える。それを理解した上で、私は狙いを一点、やつの顔面に絞った。



「………ぬんっ!」


「っ!外れ……ぶげっ!!」


 

 

 私の魔力はごく僅かだ。全てを一度の肉体強化の魔法に使ったとしても強くなるのは右の拳だけ、しかも持続時間は数秒しかない。だから攻撃のチャンスも一度きりだった。


 そのためには棍棒を食らう覚悟でオニタに接近する必要があるとわかったとき、勇気が試された。その勇気の源はマキへの愛情、それが私の最大の武器だ。


(無傷で倒せたのは運がよかっただけ。私が勝てるくらいだから実は弱い魔物だったんだろうなぁ)


 被弾しても構わない、でも意識が飛ぶか最悪即死なんてことになったら反撃できないから直撃は避けたい。ほんの少し避けようとしたらうまくノーダメージだったのだからやっぱりこれは偶然の勝利だ。

 電流爆破を楽しむ層とハードコアやデスマッチを楽しむ層は違う気がします。

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