チーム・ジャッキーの巻
私が大会に出場することがお父さんとお母さんにバレた。今から誤魔化したところで無駄だから、
「あれ?どうしてわかっちゃった?」
開き直って聞いてみた。原因がわかれば私たちの今後に役立つと思ったからだ。
「……キツネがいたのを覚えているかしら?あれは私の変身魔法。ジャッキーたちが何かコソコソしていたから後をつけてみたら大当たりだったわ」
あのキツネはお母さんだったのか。どうせ私たち三人は尾行に気がつかないくらい鈍いんだからわざわざ変身なんかしなくてもよかっただろうに。
「マキを守るために出たい、その決意は褒めてあげたいほど立派だわ。でもジャッキーの力だと……」
「お母さん、できるできないじゃない。それが私の使命なんだ!何の取り柄もない無能な姉にも生まれてきた理由が、生きている意味があると思いたい。こんな私を愛してくれるみんなに恩返しがしたい!」
どれだけ反対されても私は引き下がらないつもりだった。家を追い出されることになってもただのジャクリーンとして戦う決意でいた。
「………」 「………」
ところがお父さんとお母さんの反応は私の予想とは大きく違った。二人で私を強く抱きしめ、心から嬉しそうな顔だった。
「よく言った!さすがはチャンピオンの父と!」
「チャンピオンの母を持つ娘!素晴らしいわ!」
そう、実は二人とも闘技大会の優勝経験がある。夫婦で王者というのは長い歴史でもこの二人くらいだ。
「どれどれ、『バーバ・ビューティ』……二度も優勝してるんですね。聖女の『モトゥコ』も確かに名前がある。これは凄いや」
「それだけじゃないぞ。私は連覇に加え四年に一度のスーパー闘技大会の王者でもある!そっちは他の国の強豪たちも集めて開かれる真の最強決定戦!この国では国王になる前のゲンキ・アントニオと私くらいしか優勝できていない」
そういえばスーパー闘技大会は今年だった。マキが順当に優勝して親子制覇となるだろう。
「わたくしの父、『サトル・タイガー』も国内の王者としてスーパーに挑んだことがありましたが3位でした。ビューティ家は王族に匹敵する力がありますね」
「………聖女の力や加護がなかったのを抜きにしても私だけ弱いのはどういうことなんだろう?マキが数百年に一人の大聖女なら私は一年に数百人の凡人……いや、もっと下か」
「……」 「……」 「……う〜ん」
話の輪に加わったルリさんも私の自虐を聞いて困った様子だ。それでもすぐに優しい笑顔で私を癒やす。
「ジャクリーン様!わたくしも精一杯サポートさせていただきます!練習相手にはなれませんが、できることは何でもします!遠慮なくわたくしを使ってください!」
とことん私にはもったいない人だ。いつかもっと相応しい伴侶を見つけてほしいと強く願う。
「確かにあんたじゃ練習の役には立たない。当然そこの小さな二人や引退した身の方々でも足りない。だが私ならどうかな?」
「サキー!戻ってたんだ!」
「お前のことだ、こうすると思っていた。もはや参加は止められないのなら私がお前を絶対に守る。お前が妹を守ると誓ったようにな」
私を守るとサキーは改めて宣言する。その守り方は私がイメージしていたものと少し違った。
「予選で簡単にやられないくらいの力をつける。もし負けるとしても軽傷で終わるように鍛える。そういう意味で守ってやるということだ」
「あはは……練習で死なないようにしないと」
これはハードになりそうだ。無事に本番を迎えるのが最初の目標になった。
「ぼくたちだって力になれますよ!いっしょに練習できますし必要なことは何でもします!」
「ジャッキーさんなら優勝できるって本気で信じてますから!やりましょう!」
ラームとマユも頼もしい。ただ、私の目標は優勝じゃない。このズレが後々問題になるかもしれない。
「よーし!『チーム・ジャッキー』結成だ!皆でジャッキーを鍛え、支えるぞ!」
私のために皆が一つになってくれて、感謝してもしきれない。絶対にマキを魔の手から守り、私自身もビューティ家の名に恥じない戦いをしよう。
「明日から厳しくやるぞ!愛の鞭でビシバシ叩いてやるからな、覚悟しろ!」
猛特訓が始まる………はずだった。
「大雨ですね。これじゃ外に出られませんよ」
「仕方ないな。座学でもやるか」
座学といっても特にやることはなく、早々にチームは解散となった。晴れてから仕切り直しだ。
「また雨……珍しいな、この季節に」
「よし、今日は宴にしよう!食べて飲むのも訓練だ。そのぶん明日はハードにいくからな!」
贅沢の限りを尽くした。食べまくって騒いで寝る、これを訓練というのは無理がある。
「最近ずっと雨ですね」
「家の中でできることはやり尽くしたよ」
信じられないことにチームを組んだ翌日から毎日強い雨。室内で勉強して新たな魔法を一つマスターしたくらいしかチーム・ジャッキーの活動成果はなかった。水害が起きている地域もあって大会の開催すら危ぶまれる状況だ。
「明日には出発しないと。大会は明後日開幕、一応現地に入ろう。やるかどうかわからんが」
私がやる気を出すとまともな練習ができなくなるどころか、大会そのものが潰れそうというのだから恐ろしい。
結局私たちが決戦の地に到着した時には天候は回復、大会は予定通り行われることになった。マキや闘魂軍の精鋭たちは屋根つきの場所でも納得のいく調整ができたようで、差は広がる一方だ。
(まあ……なるようにしかならないか)
予選で散るとしても、マキの命を狙う人間を一人でも多く道連れにするか正体を暴いてマキに知らせる、そのくらいは頑張ろう。
馬場




