最強の推薦人の巻
「え!?ジャッキー様も大会に出るんですか!?」
食事が終わってから、ラームとマユだけを私の部屋に連れてきた。そして闘技大会に出場すると二人の前で宣言した。
「ど、どうして?」
「マキを狙う連中が参加者の中にいるのなら、私がそいつらを倒してマキを守る。客席からじゃ遠すぎる」
至近距離なら殺気や視線でわかるはずだ。一人でも危ない人間を減らせばマキの助けになれる。
「妹様ならジャッキー様がいなくても返り討ちにできると思いますけどね。一対一の戦いでしょう?」
「立派な闘技場で大勢の観客や警備の兵士たちが見ている中、事故に見せかけて殺す?無理ですよ」
二人の意見は正しい。しかしこれは『本戦』の話だ。そこにたどり着くまでに危険がある。
「いや、参加者はとても多いんだ。だから予選があって、形式も毎年変わる。十人で戦わせて残った一人が次に進む、それが去年の一次予選だった」
もしマキ以外の九人全員が王国を潰そうとする仲間で、そのうち数人が自分の命を捨てることを前提とした戦い方をしてくればマキでもどうなるかわからない。
しかも今回は第300回の記念大会だ。参加人数が増えるだろうから、王国や王家に不満を持つ人間、他国のスパイ、人間に化けた魔族が紛れ込む確率も上がる。そいつらの最終的な目標は違っても、大聖女を殺すという点で手を組まれたら厄介だ。
「予選に出るだけなら誰でもいいんですか?」
「この王国の正式な国民である以外には、12歳以上って条件もあるね。あとは高い参加料を払うか、ある程度の権力を持つ人から推薦されるか。お父さんやサンシーロさんにも推薦人の資格はあるよ」
お金さえ払えばどんなに弱くても予選の舞台には立てる。ただしその予選が試合というより潰し合いになるから、実力がないと命を落とすこともある。参加料がとても高く設定されているのは、中途半端な人間が大会に出られないようにするためでもあった。
「ジャッキー様はどうやって出場資格を得るんですか?誰も推薦してくれないと思うんですけど……」
お父さんに頼んでも、あんな危険な場所に行かせることはできないと拒否される。サンシーロさんはギルドの評判が下がることを恐れて私が出ることに反対するだろう。
「私が自由にできるお金じゃ参加料には足りない。だからこっそり家の金庫から持っていこうとも考えたけど……推薦してくれる人を思いついたんだ」
推薦すれば必ず国王に認められるほどの身近な権力者、その部屋に入った。そして単刀直入に大会に出たいから推薦してほしいとお願いした。
「え〜〜〜?だめだよ。お姉ちゃんが怪我するところなんて見たくないよ」
大聖女マキ、これ以上の人間はいない。もちろん最初は断られる、それくらいわかっている。
「お姉ちゃんを傷つけるやつがいたらその場で全身の骨から肉と皮を剥がしちゃうよ。やりすぎて失格になっちゃうかもしれないし、安全なところからわたしの応援をしてほしいんだけどな〜〜〜っ」
私がマキに守られたら本末転倒で、しかも失格させて大聖女の名を汚すことになれば最悪だ。マキのために命を燃やす覚悟で頑張る、この決心を忘れずにいたい。
マキの推薦を勝ち取るためには餌が必要だ。必ず食いついてくれると信じて交渉を始めた。
「お願い。予選敗退は確実だけど、少しでも大好きなマキと同じ舞台に立ちたい。一生の思い出にしたいんだ」
「……う〜〜〜ん。でもなぁ………」
「もし私を推薦してくれて、その上でマキが優勝したら何でも言うことを聞いてあげる。それでどうかな?」
「………な、何でも!」
心が動いているのがわかった。この話を始めた時と今ではマキの様子が全く違う。笑顔でありながら目つきは鋭く、興奮した口調になっていた。
「それならいいよっ!喜んであいつらにお願いしておくね!だからこの約束、絶対守ってね!」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
これで成立だ。マキの決定なら誰も文句は言えない。あとは私も大会に向けて特訓だ!
「どうしようかなぁ。ルリの魔法が本物か試したら……私が産むのがいいかな、お姉ちゃんに産んでもらうのがいいかな。二人でいっしょにっていうのも素敵だなぁ………退屈そうな大会が楽しみになってきたよ」
私が部屋を出てからマキは一人小声で呟く。私の耳には届かなかった。
「その調子!もう一回!」
「よっ!はぁ!とぉっ!」
秘密の練習の手応えは抜群だ。ラームとマユが毎日手伝ってくれて、いい汗をかいている。マキは大会当日までお城にいて家には帰らないから私の出場がバレることもない。
「ジャッキー様、いい感じですね!これなら優勝も狙えちゃいますよ!」
「それはどうかな?一生分の運を使えばまあ……」
私が優勝することはありえない。マキを倒す必要があるからだ。勝てないし、勝つつもりもない。
「………」
「あれ?野生のキツネですよ、珍しい……あっ、逃げちゃいましたね」
「優勝とか言うから変なことが起きるんだよ。さ、練習を続けよう」
キツネがたった一匹でどこから来たのか気になるけど、追いかけるほどのことでもない。すぐに忘れて練習に励んだ。
「ただいま〜………あれ?」
夕方まで特訓をして家に帰った。するとお父さんとお母さんが真面目な顔で座っていた。私たちを待っていたようだ。
「………ジャッキー、そこに座りなさい。ラーム、マユ、君たちもだ」
「は、はいっ」 「失礼します」
怒っているようには見えない。それでも重大な話をするつもりなのはわかる。どうしたんだろう。
「この雰囲気……いったい何が?」
「ジャッキー。どうやら大会に出るらしいな。私たちに黙って出し抜こうとしてもそうはいかんぞ」
マキへのお願いが通って最後の試練は突破したと勘違いしていた。最大の難所はここだった。
トゥモアナの精神




