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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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世界を救う旅の始まりの巻

 フレッシュジャンプの休刊に伴い、最終回です。

 ジェイピー王国が荒れている裏で、私たちはすでに旅を始めていた。王国の領地、更には同盟国でもない土地を探すとなると、長い旅になりそうだ。


「転移魔法ですぐに目的地に到着じゃあ旅とは呼べないからね。こういうのが本物の旅だよ」


「……もう魔法は使ってますけどね」


 マキが遠征で行った中でも一番遠い地点までは魔法で移動した。ゴールがわからないのだから、これくらいの時間と経費の削減は必要だ。



「お義父様やお義母様を早くお迎えしたいですね」


「焦る必要はないよ。じっくり探せって言われてるし、最高の場所を見つけよう」


 私たちが新しく住むことになる土地を見つけるまで、お父さんたちはいろんなものの整理をする。事業を引き継ぎ、屋敷で働く人たちの新しい仕事を探す。資産をできる限り現金に変えて、それから私たちに合流することになった。



「こんなことならほんとうに革命を起こしてジェイピー王国を乗っ取るのもありだったか?そのほうが国民にとってもよかったような……」


「ジャクリーンにあの王国は狭すぎる。新たな地を開拓し、王となるほうがいい」


 一から国を作ろうとする声もある。そうなればチーム・ジャッキーだけでなく多くの人たちが移り住むだろうとみんなは言う。


「衰えるジェイピー王国に代わって世界の頂点に立つ新しい王国……その頂点にいるのがジャッキー様ということですか」


「話がどんどん大きくなってきてるなぁ」


 みんなで静かに暮らせる場所があればそれでいい。もしそのために私が王になることがどうしても必要なら考えるけど、そんな展開にはならないだろう。



「どうしてもいいところがなければトマス島に行きましょう。オードリー族は皆さんを歓迎します」


「魔界もいいですよ?人間でも住める場所はたくさんあります。食べ物のおいしさも負けていません」


 トゥーツヴァイとダイが自分の故郷を紹介してくれた。いざとなったらお世話になろう。


「オードリー族や魔族の一部を味方にすればアントニオ家を懲らしめてやることもできますね。ジャッキーさんを追放した罪への罰を……」


「それはいいよ。すでに大変なことになってるって噂がここまで届くくらいだしね。私たちは何もしなくていい」


 私の手で懲らしめようなんて考えていない。もし罰が必要なら、どこかの誰かがやってくれる。


「しかし突然追放とは……やはり魔王の支配が残っていたのでしょうか?」


「消えたように見えたんだけどね……」


 どれだけ私のことが嫌いだとしても、あれはない。いったい何があったのか、謎は深まる一方だ。






「国王様……今更聞いても仕方のない話ですが、なぜあのような愚かなことを……」


「………わからぬ。魔王に心を奪われていた時と似たような感覚だったが……やつよりもずっと大きな力に身体を使われているようだった。こんな話、誰も信じぬだろうが………」


 王様もその正体がわからずにいた。もし大きな権力を持つ人が次から次へと操られてしまったら、あっという間に世界戦争が始まる。


「そいつはなぜジャクリーン・ビューティと仲間たちが我が王国から去るようにしたのか……。ジェイピー王国を大幅に弱体化させるだけでなく、もっと大きな理由があるとしたら………!」


 たまたま今回は王様が利用されただけで、私たちが遠い地に旅をすることが『大きな力を持つ謎の存在』の意志だとしたら、どんな形であっても結局こうなっていただろう。






「魔王様、おやつの時間です。最高級のパンケーキを用意しています」


「うむ………むっ?」


 魔界のどこかにある魔王城。私との戦いの傷はすでに癒えていた魔王が、僅かな空気の変化を感じ取っていた。


「……魔王様?」


「フフ……やつらがとうとう動き始めた。余だけでなく新たな脅威を見つけてしまったからだろう。ジャクリーン・ビューティの強さをやつらは警戒している」


 私たちと魔王の共通の敵になる強力な存在について、魔王はその正体を知っていた。とても激しく、苦しい戦いになることもわかっている。


「ありえるかもしれないな……余がジャクリーン・ビューティたちと手を組むことも。火と油になる恐れはあるが、うまくいけば圧勝も夢ではない」


 私が治した右腕に、魔王は軽く唇で触れた。


「………早く会いたいな。よし、余のほうから動くとするか!偉大なる支配者であり、絶世の美女でもあるこの余に迫られたら……同盟者以上の関係になるのは時間の問題だ。フフフ、待っていろよ………」





 人間界でも魔界でもない、私たちが知らない場所がある。集まっていたのは……。


「まさか彼女が我々に迫る力を手に入れるとは……」


「大聖女マキナや魔王ではなくジャクリーン・ビューティ………全くの無警戒、ノーマークでしたよ」


 ここは天界、私を見てあれこれと論じ合っているのは神様たちだった。マキだけでなく私も大聖女の力を使う時にはお世話になっている。だからいつでも頼れる味方だと思っていたけど、そうではなかった。


「そろそろ我々のほうからやつを潰しに行くか?ただの人間が神を超えるようなことがあってはならん」


「いいえ、それはよくありません。彼女の性格からして、天を目指すとは思えません。私たちに敵対する者たちを彼女が倒してくれるでしょうから、手出ししては厳禁です」


「フム……その意見のほうが理に適っている。目に余る動きがないうちは放っておくべきだな」


 ある神様のおかげで私はひとまず生き残った。もちろんこんなやり取りがあったことを私が知る方法はない。遠く離れた天界での出来事だからだ。



「確かお前はジェイピー王国の王を操って、ジャクリーン・ビューティが追放されるようにしていたな。有能なお前がわざわざ介入するほどあの人間に注目しているというのなら、今後はお前に全て任せるとしよう」


「感謝いたします。ではそのように……」


 私を助けてくれた神様と会うことになるのは、もう少し先の話だ。


(うひょ!かわいいジャクリーンたん……これからも私が守ってあげるからね!いつかジャクリーンたんも神の一人に……いや、ジャクリーンたんのためなら私が下天してもいいよ!デュフフフ………)






「しかしジャッキー様……こうして素直に出ていかなくても、王国に残る道はいくらでもあったと思います」


「もしかして元々旅に出ようと考えていたのでは?」


 みんなの言う通り、追放騒動がなくても私は王国の外に出るつもりだった。その理由は単純だ。



「世界を平和にするためには、自分で見て回らないとね。待ってるだけじゃ時間がかかる。焦ってはいないけど、私もできれば早く………」


「お姉ちゃん!」


 真の平和が世界に満ちた時、大聖女は自分のために生きることが許されるようになる。同時にそれは、マキが私の子どもを産める時となる。


 みんなはマキのためにその日を待っている。しかしいざその瞬間が来たら、そこからまた勝負するという。公平なスタートのために待つだけで、スタートしたら誰が最初にゴールするか、つまり誰が最初に私の子を宿すかの戦いになる。


「いつその日が来るかわからないのですから……今からしっかり頑張ります。ジャッキー様がぼくを一番に選んでくれるように!」


「あはは!無駄な努力だね。まあ頑張ってよ」


 熱い戦いは続いている。とはいえ険悪になったり殴り合いになったりする感じはない。私が悲しむことはしたくないとみんなの思いは一致しているからだ。



「よし………行こう!」


 遠い地に、魔界の奥深くに、ついには天まで行くことになると、この時の私たちはまだ知らない。波乱に満ちた新しい旅が始まった。

 ねこあつめ2世界大会、優勝してきます。 

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