暗黒時代の始まりの巻
魔王との戦いが終わった直後、突然の追放宣言。自分の聞き間違いを疑った。
「追放……ですか?」
「理由は今言った通りだ。お前は魔王を圧倒するほどの危険な存在!我が王国にいてはならない人間だ!」
強すぎるせいで自分のいた場所を追い出された人の話は聞いたことがある。少し前までは弱すぎると笑われていた私がそうなるなんて……。
「失礼ですが国王様、このジャクリーン・ビューティがいなければジェイピー王国は魔王の手に落ち、国王様が正気を取り戻せたかも疑問ですが……」
「だから追放で済ませてやるのだ。しかも猶予期間を与えてやる。首都から、家から、そして王国の領土からと……段階的に期限を設ける。別れの挨拶や荷物の整理をする時間があるだけ感謝してもらいたいものだ」
混乱しているのは私だけではない。王様はまだ魔王に操られていると疑う人たちもいるほどだ。
「去るべきはジャクリーン・ビューティ一人だ。周りの者たちは王国に残ってよい。輝かしい未来が約束されているのだから、そんなやつに構うのはもうやめにするのが賢明だぞ」
みんなが私と別れてこの国に残るとは思えない。そんなことは少し考えればわかるはずなのに、今の王様はやっぱりおかしい。
「国外追放者は当然王座も没収だ。次の闘技大会まで間があるが、新王者決定のための大会を行う!」
「………!」 「新王者………」
「大聖女様、それに勇者様もぜひ参加してほしい。ジャクリーン・ビューティに遠慮する必要はない。本気を出せるぞ」
これ以上ない『エサ』ではある。だけどその程度で私たちの絆を壊せるわけが……。
「スーパー闘技大会チャンピオンの座か………」
「……悪くない響きですね」
(あれ……?おかしなことになってきたぞ)
空気が変わった。まさか私たちの絆のほうがその程度だった?そんなはずはない………と信じたい。
「明日中には首都を出ていってもらうぞ、ジャクリーン・ビューティ。そして大会は三日後が初日だ。お前についてくるやつが何人いることやら……」
「……………」
私は観戦すら許されないのか。しかし王様の狙いが私の孤立だったのは意外だった。チーム・ジャッキーを丸ごと追い出して、自分の王権を確実なものにするのならまだわかる。でも私だけ追放しても大して状況は変わらないような気がする。
「……どうしようかな〜〜〜っ………」
「え?マキ?」
マキが悩んでいる素振りを見せる。私と離れてまでチャンピオンになろうとするなんて、マキが一番ありえないはずだ。
「お……おお!大聖女様!あなたが出場してくださるのなら大会は大盛況間違いなし!」
王様としても、マキが前向きなのは嬉しい誤算だったようだ。目を輝かせて喜んでいる。
「……………」
(あっ………)
マキは口を手で覆い、笑いを隠していた。これだけで私にはわかってしまった。この先何が起こるか。
「う〜ん、出てもいいんだけど……やっぱり誠意が見たいよね。わざわざ大聖女のわたしが出るんだから」
「せ……誠意?金ということか。金か………恥ずかしい話だが、我が国にはその余裕がないのだ。大聖女様が優勝した時は賞金に上乗せするから、申し訳ないがそれで勘弁してくれないか?」
王様の表情が沈み、声は小さくなっていた。お金がないというのは本当のことのようだ。
「アーク地方の総督たちからお金が入るはずだったのに、直前でゼロになっちゃったせいかな?」
「そうかもしれませんね。それを目当てに無駄遣いしたら苦しくなってしまったと……」
早々に新王者を決める大会を開くのも、選手が払う参加費や観客の入場料と食事代でお金を稼ぎたいからか。普段以上にお金儲けに走った内容の大会になりそうだ。
大成功のためには超大物、つまりマキの参戦は絶対条件だ。しかしマキは『誠意』を求める。それがお金ではないことを、私はよく知っている。
「わたしはお金じゃ動かないよ。誠意って言葉、そのままの意味で考えていいんだよ?」
「………大聖女様!王国の未来のため、大会に出場していただきたい!この通りだ!」
王様が深々と頭を下げる。マキはそれを冷ややかな目で見ていた。
「……誰にお願いされるか、どのくらい真剣にお願いされるか……それがとても大事なんだよね。お前がちょっと頭を下げた程度じゃわたしは出ないよ。わたしはお前より遥か高みにいる大聖女、そのことをわかってないんじゃないの?」
「そ…そんな!」
「本気じゃないんだったら別にいいよ。わたしを必要としてくれる人たちは世界にたくさんいるから」
私を追放した王様を追い詰めて遊んでいた。これがマキ流の仕返しか。
「お……お願いします!どうか大会に出場してください!ジェイピー王国を救ってほしいのです!」
とうとう王様は地面に頭を擦りつけた。情けない姿を晒してでもマキを求め、プライドよりもお金を取った。
「………いいね。その姿、いいよ。三日後、だったね」
「そ、それでは!」
これでマキの出場が決定、そんな空気が流れた。しかしまだ出るとは一言も言っていない。
「なるほど……それなら私も前向きに考えるとするか」
「面白い大会になりそう」
「おおっ!勇者サキーにマーキュリーも!スーパー闘技大会の上位選手が揃って………ありがたいことだ!」
二人も参戦を表明……したわけではない。王様たちは喜んでいるけど、これは………。
「ジェイピー王国の暗黒期は終わった!未来は明るいぞ、わっはっは!ダァ――――――ッ!!」
この大会は通常の闘技大会と同じく、まずは予選ステージから始まる。それから決勝トーナメントを数日かけて行い、優勝者を決める。
私はすでに首都から出ていったからこの目で見たわけではないけど、初日は超満員だったという。マキやサキーが出ると聞いた人々が集まり、大闘技場は観客で溢れ返ったそうだ。
「話が違うぞ!どうなってやがる!?」
「詐欺国家!ふざけんのもいいかげんにしろ!」
しかし歓声は一切なく、罵声や怒号が響き渡っていた。物がたくさん投げ込まれ、まともに進行できなかったらしい。
「うおっ!お前らやめ………ぐあっ」
「国王様!いったん中へ!」
大会の目玉だったチーム・ジャッキーは全員欠場。大会の直前で姿を消し、私と合流した。王様たちを完全に騙し、復讐した。
私の愛する仲間たちがこうすることはわかっていた。しかしそれ以外の強豪も次々と辞退していたのは後になってから知った。ダブジェ島のツミオさんたちや私と戦ったキョーエン、エーベルさんとトーゴーも出場しなかった。
「転移者のユミとキヨ、ドラマチック・ドリーム・ギルドやオール・エリート・ギルドのメンバー、招待状を送ったアーク地方の実力者たち……どこにでも現れるオニタすらいません!」
「誰もいないではないか〜〜〜っ!」
私を追放したことに抗議の意を示し、大会に出なかった選手は想像以上の数だった。強引に進行したものの二日目以降は観客数が激減、一番盛り上がるはずの決勝ではたった数百人しか来なかったという。
当然大会は大失敗で大赤字。ジェイピー王国の没落はここから始まったと後の時代の歴史家たちは口を揃えている。
次回、最終話




