危険な闘技大会の巻
私とサキーの二人で魔物の双子を撃退した翌日、ギルドに向かうとすでにその兄弟がいた。そのうち来ると言ってはいたけど、行動は早いほうがいい。
「頼むよ、見ての通り力仕事なら得意だ!」
「俺たちを倒したジャクリーン・ビューティの紹介だ!仲間に入れてくれ!」
サンシーロさん相手にギルド加入を訴えていた。一方のサンシーロさんは困った顔をしている。
「あいつの紹介だから不安なんだろうが!そもそもあの役立たず、紹介なんかできる立場じゃ……」
話が進まないようだから助けに行った。ただし私が何を言っても駄目そうだからサキーに任せた。
「……だったら私の推薦ということにしよう。それなら文句はないのでは?」
「サ、サキー様!そう言われると……」
「この二人の実力と誠実さは保証する。昨日の戦いでそれがはっきりと……いや、あんたはくだらない小競り合いに夢中で見ていなかったか」
これがサキーと私の違いだ。これなら二人の冒険者登録は間違いない。
「人を増やしたかったんだろ?結局こいつら以外誰も来ないじゃないか」
「ぐっ………しかし」
「それにしばらく私はいなくなる。その間の戦力は多いに越したことはない」
「……む!そうでした。サキー様がいなくなれば残るのはゴミと老人ばかり……よし、今日からお前たち二人、俺のギルドで働け!」
サキーのおかげで無事にうまくいった。ただ、気になる言葉が聞こえたから確認してみることにした。
「サキー、しばらくいなくなるって……どういうこと?」
「ああ、まだ言ってなかったな。もうそろそろだろ、一年に一度の闘技大会が。そいつに備えて調整する」
魔術、剣術、体術……様々な分野の強豪たちが集まり誰が一番強いかを決める大会だ。王国が主催する歴史ある行事で、優勝者は超高額の賞金と最高の名誉を手にする。
「訓練に専念するから仕事は休む。本気で優勝を狙っているからな」
「サキーならいけるよ!こんなに強いんだから!」
サキーの手を両手で握るとわかりやすく目を逸らした。照れているんだろうけど、実は本気で嫌がられていたとしたらしばらく立ち直れない。
「そうですサキー様!栄光と勝利はあなたのものです!我がギルドの名も国全体に広がることでしょう!」
エースのサキーが休業するのをあっさり許した理由がわかった。優勝したら所属するギルドの評判も急上昇で、いい仕事も優秀な新人も集まる。
「……去年のようなメンバーなら優勝は確実と宣言できた。ただ……今回はとんでもない強敵が参加表明した。私も敗れるかもしれない」
「そんな……サキーが!?」 「誰です、そいつは!」
闘魂軍の精鋭や各地のS級冒険者もたくさん参戦する。自信家のサキーが分が悪いと認める存在、どこの誰だと思っていたら、とても身近にいた。
「大聖女、マキナ・ビューティだよ」
確かに強敵だ。私の妹はこの王国で最強だ。一対一で正々堂々戦う競技大会ならますますその強さは盤石になる。
(でもマキがわざわざ出るかな?家で聞いてみよう)
「うん、わたしも出るよ!第300回の記念大会だから大聖女のわたしが出て優勝してほしいんだって」
「大聖女が優勝すれば華々しく大パレード、王国は勢いづいて大規模な魔物退治や他国侵略……魔王軍との決戦まで考えているのかもな」
マキが王国の道具にされているようで嫌な気持ちになった。でも本人は参加に乗り気だし、裏の事情を考えず楽しんだほうがよさそうだ。
「大聖女様、もし私があなたを倒して王国の思惑通りに事が進まないとしてもどうかお許しください。私にも譲れないものがありますから」
サキーが珍しく敬語を使ってマキに宣戦布告だ。もちろんこれは皮肉だけど、マキは全く気にしない。
「………わたしに勝つ?譲れないものがある?疲れてるみたいだから大会に出るのはやめなよ」
楽しい食卓に火花が散る。これから本番まで緊張の日々が続きそうだ。
「まあ……二人とも決勝まで勝ち進んだ時にまた闘志を燃やせばいい。それよりも恐れているのは……」
お父さんの口調は重い。マキとサキーの戦い以上に心配していることがあるようだ。
「この大会に乗じてマキを亡き者にする企みがあると聞いた。試合中の事故に見せかけて……」
「出場資格はこの国の人間だけですが、危険な思想の持ち主が大聖女様の命を狙う……ありえる話です」
ルリさんの言う『危険な思想の持ち主』とは、アントニオ家の崩壊や国家転覆を目指す人間のことだ。大聖女をこんな大会に出場させて死なせたとなれば、ゲンキ王だけでなく王族全員国外追放もありえる。
王家が変わるだけならまだしも、大聖女の死によって国に大混乱を生じさせて全てをめちゃくちゃにしてしまおうとするのが怖い。正義や法律が無意味なものになったらもう生きてはいけない。
(いや、そうなる前に私は………)
愛する妹を失ったら私の人生は真っ暗、一切の希望がなくなる。マキのいない世界なんて、死んでしまったほうがましだ。
「…………」
マキは辞退するつもりなどなく、相手が誰でどんな夢や野望を持っていようが全員倒して優勝すると宣言してこの話題は終わった。そして私も一つの決意を胸に抱いていた。
超◯オリンピック……ではありません。




