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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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全ての黒幕の巻

「なんだって!?」


「はい………昨晩、タリュー様たちが何者かに襲われてお亡くなりになられました。皆様がずっとこの部屋の中にいたのは我々も確認していますから、事件には全く関わっていないと証言させていただきます」


 衝撃の知らせだった。昨日私たちと会議をしたばかりの総督一行が全員殺された。護衛の兵士たちを無力化し、争った跡もなく死んでいたという。


 力の差がありすぎたのか、完璧な暗殺だったのか。どちらにせよかなりの実力者でなければできないことで、ここにいなければ私たちも疑われていた。



「四人とも金や所持品は奪われていません。誰がどんな目的でやったのか、まるでわからないのです」


「無差別に権力者や有名人を狙う犯行だとしたら、皆さんも襲われる危険があります。今日のうちに転移魔法で帰還することをお勧めします。結界はすでに消滅していますからね」


 昨日の革命軍壊滅に続き、ますますアーク地方は混乱し、荒れていきそうだ。このまま衰退するのか、逆に回復のきっかけになるのかは、若き英雄候補の頑張りに左右される。


「……ザワ、きみがアークを立て直すんだ。ザワはこのオナードの街で人気があるし、ここから勢力を拡大していけば……いつか頂点に立てる」


「おれが……!?その評価はありがたいが……」


「マダラやジュエル、もしかするとサリーとシロも仲間になってくれるかもしれない。私たちも喜んで協力する。ザワならできる!」


 首都から優秀な人を連れてきてもタリュー総督たちのようになってしまうなら、アーク愛の強いザワに任せたほうがずっといい。身分の低い人たちを大事にする支配ができるはずだ。



「もしザワが失敗したら私が責任を取る。だから安心して暴れまわってよ!」


「……ますます責任重大になっちまったな。しかしあんたとの約束だ……アークの復興、必ず成し遂げてみせる!」


 私たちは固い握手を交わした。ザワの右手から感じた力強さと熱は、近いうちに必ずまた会えると確信させてくれた。




 オナードの街にいるという暗殺者集団が総督たちを殺した犯人ではないかと噂になっていた。その正体は最後まで明らかにならず、謎のままだった。


「短い間でしたが、素晴らしい経験をさせていただきました。どうかお元気で」


「もったいないお言葉を……ありがとうございました」


 シュスイさんが見守る中で転移魔法の準備が始まる。準備といってもダイが持つ魔界産の液体を一滴ずつ頭にかけるだけだ。



「……その生き方を続けていたら、いつかはあなたも裁かれますよ。シュスイさん」


「………!!」


「ああ。まともに死ねると思わないほうがいい」


 魔法が発動する寸前に、トゥーツヴァイとサキーがシュスイさんに対して変なことを言った。私が代わりに謝ろうとした時には、もう目の前の景色が変わっていた。


「………お前らに言われなくてもわかっている。最初から期待していない、そんなもの」


 シュスイさんの低い声が聞こえたと同時に、私たちはお城に戻っていた。これで旅が終わった。



「……サキーたちはどうしてあんなことを?」


「街を守る兵士なのに不真面目だったからじゃないの?仕事への態度を改めろってことだと思うよ」


「ひどい嫁と義理の母親とはいえ、家族を置いてギャンブルや女遊びを楽しんでるのもあるだろ」


 私と同じくらい鈍いダイとマキシーにそう言われて納得してしまい、それ以上シュスイさんについて考えようとはしなかった。二人は私と違って賢いのに、勘は冴えない。いろんな疑問の答えにたどり着く機会を逸していた。






「……報告よりも先に尋ねたい点がいくつか……」


「いきなり何だ?まあいい、言ってみろ」


 私たちは王様の前に立つ。アークの総督たちが話していたことが事実なのか、まずははっきりさせたい。その返答次第では報告なんかする必要がなくなる。


「アーク地方で王家に逆らう動きがないか調べるのが今回の任務でしたが、王様は最初から全てご存知だったのではありませんか?」


「………」


「この任務そのものが私たちを消すために仕組まれた罠だった……そんなはずはないと信じてはいますが」


 否定してくるのはわかっている。もしかしたら総督たちの作り話だった可能性もある。王様の様子を見ながら巧みに質問を続けていき、真相を探ろうと思っていた。




「………よく見破ったな、ジャクリーン・ビューティ」


「……………え?」


「お前のような馬鹿が気がつくとは思わなかったぞ。いや、後ろに頭のいい連中がたくさんいる。そいつらが教えたのか?」


 驚いたことに、王様はすぐに認めた。この場にいる兵士や王様の息子たちも自分の耳を疑っていた。


「王!それは……」 「どういうことです、父上!?」


「決まっているだろう。こいつらがいたら邪魔なのだ。私よりも民の人気を集めてしまい、このままでは王の座を奪われてしまうかもしれない。だからその前に亡き者にする……簡単な話ではないか」


 ラームが仕入れた情報通りだった。王様は自分の権力を守るために、世界の宝である大聖女や勇者を除き去ろうとした。これは歴史に残る大事件だ。



「正気ですか!?こんなこと許されるはずがない!」


「邪魔なんだから仕方ないだろう。障害物やゴミは駆除する、それが当たり前だ。邪魔者は………」


 そこまで言うと王様は急に動かなくなった。操り人形の糸が切れたように、がくんと首が垂れた。



「今度はどうした?死んではいないようだが……」


「病気かもしれません。すぐに寝室へ……んっ!?」


 王様の様子を確認するために皆で近づいた。ところが突然、玉座の背後から真っ黒な炎が出現した。


「こ、これは………嫌な予感がする!離れろ!」


 触れたら手が消えてなくなるかもしれない。近づいたら吸い込まれて二度と戻れないかもしれない。そんな恐怖を感じさせるどす黒い炎は、初めて見たはずなのにどこかで感じたことがある気配を放っていた。



「……ジャクリーンさん。私は皆さんよりも至近距離でこいつと会話もしています。忘れはしません」


「私も……よく知ってるよ。ジャクちゃんと出会うまではこの人が私の中心にいたから……」


 マユとダイがそこまで言えば、さすがの私でもわかる。あの炎は魔王の影だ。ジェイピー王国の混乱に乗じた魔王が、ついに本格的な侵略を始めた。

 クライマックスが迫っています!

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