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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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支配者たちの悪の巻

 部屋を抜け出したラームは、総督たちがいる最高級の宿屋に向かっていた。会議の中で話題に上がっていて、機会があればぜひ泊まっていくように勧められた。ただし一泊するだけで、この街の人たちが一年間で稼ぐお金を超えてしまうほどの料金だという。


「よし……庭に入れた。あそこか………」


 当然彼らの貸し切りだ。入口には警備の兵士たちが互いの肩が触れるくらいの狭い間隔で立っていて、侵入者を許さない。魔法への対策も厳重で、身体を透明にして入ろうとしたり、兵士たちを眠らせたりする作戦は使えないようになっていた。


 つまりここは、ラームだけが入れる場所だ。心配だったけど一人で行かせて正解だった。



「ハハハ……今日はいい一日でしたな!」


(窓が開いてる……声がよく聞こえる!)


 まさかすぐそばで聞かれているとは思っていなかったようで、私たちが知りたかったことを次から次へと話してくれたそうだ。ラームはそれをしっかり記憶して持ち帰った。




「革命軍は完全に終わった。リョーマとかいう雑魚が率いるジャスト・ア・ローニンも壊滅に追い込んだ。やつらは最後まで我らアークの支配者が革命を起こそうとしている味方だと思っていたようだが……」


「頭の悪い馬鹿な連中ばかりだからな、簡単に騙されてくれたよ。このタツ・ヨシを信じ切って、訳のわからないまま殺されていったクズどもに言ってやりたいぜ。お前らの真の敵は……『残念だったな、俺だよ!』ってな!」


 王様になる気はない、革命に手を貸すつもりもないと私が宣言したのに、反応が薄かった理由がはっきりした。総督たちも革命を起こす気などなかったからだ。


「私たちが王家の打倒を狙っている、そのためにいろんな方法で準備をしている……アークの馬鹿どもでもさすがに疑いそうな話をスンナリ受け入れさせたのはあなたの功績よ、タツ・ヨシ。さすがの演技派ね」


「へへへ、あまり褒めないでくださいよ、オダワラさん。それに……礼は言葉よりも金で頼みますぜ」


 タツ・ヨシは革命軍のリーダーだ。しかし実際は国家への反逆を取り締まろうとする総督たちの仲間で、革命を支持する人々を炙り出すために暗躍を続けた。そして今日、狙い通りその一派に致命傷を与えた。



「そう!この世で最も重要なのは金だ!税金、山賊たちが稼いだ金、競馬の八百長レースで得た配当金、ついさっき兵士たちが街から奪ってきた金!これだけあれば私たち四人は国王に次ぐ地位を手に入れることができる!」


「我々はこんな田舎で終わっていい人間ではない。この地域の景気や治安はもうボロボロだが、あと少しすれば首都に戻れるのだからどうでもいいことだ。もう限界まで搾り取れた」


 アーク地方は貧富の差が激しく、ほとんどのお金が支配者たちとその仲間のもとにある。しかもそれを王様に渡してしまうのだから、ここには何も残らない。


「革命軍や山賊にはまだ生き残りがいるでしょうから、口封じのために消しましょう。八百長や不正に関わった連中も……」


「そうだな……しかしやつらが変な動きをしないうちは放っておいても構わない。真っ黒な金だとしても、王は喜んで受け取るだろう」


 アントニオ家がお金に困っているという話は聞いたことがない。私がそれを知らないだけかもしれないし、お金はいくらあっても困らないという考え方もある。総督たちはお金の力で政治の中心に返り咲こうとしていた。



「国王の望みは金以外にもう一つ、大聖女一行を始末することだと聞いていた。そちらは失敗に終わったわけだが、国王に責められることはないのか?正直失敗してよかったと個人的には思うがな……」


(………!)


「ああ、問題ない。できればやってくれと言われていただけだ。ジャクリーン・ビューティが『自分が王になる』なんてことを宣言すればその場で捕らえたが、彼女たちに危うい野心はなかった」


 王様とアークの支配者たちは最初から繋がっていた。もしこれが真実なら、今回の任務そのものが王様の陰謀だ。事故や事件に巻き込まれて命を落とすか、周りに乗せられて王座を奪おうとしたところを捕まえるか。一つでも選択を誤れば私は終わっていたし、みんなも危なかった。


 ラームはとても驚きながらも、どうにか声を出さずにいることができたらしい。私だったら我慢しきれずに、ここで見つかっていただろう。



「……我々が言えた立場ではないが、アントニオ王は正気なのか?自分の人気を脅かす邪魔者を排除したい気持ちはわかるが……大聖女とスーパー闘技大会チャンピオンだぞ?そのへんの雑魚を殺すのとはわけが違う」


「そういえばあの方は言っていたな。もしジャクリーン・ビューティたちが反逆する気などなく、忠実ならそれはそれでいい。今度はもっと厳しい任務に送り込んで、そこで死んでもらうと……」


 アークの悪党たちでもついていけないほどの殺意の強さだ。ビューティ家とアントニオ家は昔からライバルで、衝突してきた歴史はあった。それでもここまで憎しみを向けられたのは初めてだ。


「私たちも気をつけなければいけないわ。敵だと判断されたらいつ消されてもおかしくないのだから……」


 仲間にここまで恐れられてしまうのだから、もはや暴君だ。その後は大して中身のない雑談が続いたようで、ラームは切りのいいところで撤収した。






「ぼくが手に入れた情報は以上です」


「………ありがとう。大活躍だったね、ラーム」


 報告を終えたラームの頭を撫でた。ラームのおかげでいろんな謎が一気に解けた。



「革命軍はいいように利用されていただけでしたか。そして支配者たちが最初からこの地を捨てるつもりだったなら、重税や数々の暴挙も納得がいきます」


「びっくりしたのはそこから先だよ。まさか王様が私たちを殺そうとしていたなんて……」


 混乱している私とは違い、みんなは冷静だった。


「……まだ決めつけないほうがいいかもしれません。もしかすると誰かがそばにいることを彼らはわかっていて、国王に罪を押しつけるような作り話を聞かせたこともありえますから」


「それに全て真実だったとしても証拠はない。アークの連中の悪事は調べていけば明らかになるだろうが、王の悪意はやつ自身に白状させない限りどうしようもない」


 タリュー総督、オダワラ大臣、タツ・ヨシとノア・タイガーの四人が私利私欲のためにアーク地方をめちゃくちゃにしていたのは誰も疑わなかった。王様については、お城に帰ってからじっくり探ることにした。



「しかし……以前から計画していたのであれば、罪に問えるようなものは全て処分しているかもしれませんね。死人に口なしとも言いますし……」


 限りなく怪しいけれども証拠が足りないから逃げ切り、ザワの恨みも晴らせずに終わってしまう。


「法で裁くことはできないでしょうね」



 私たちはもやもやしたまま最後の夜を過ごした。まさかこの夜、今回の旅で一番の事件が起こるとは……。

 第273話が最終話となります。

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