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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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歓喜の涙と悲痛の涙の巻

「はぁ――――――っ!!」


 ザワの母親を治そうとしたら、私の手から放たれた治癒魔法は家全体に広がっていった。


(え………?まさか失敗?効果が散らばっちゃった?)



 アーク兵に襲われたザワの母親の傷は深く、魔法を一点に集中させないと癒やせない。結局マキに頼ることになるのかと自分の情けなさを嘆いていたら、


「ああ!傷が塞がっていきます!」


「顔色もよくなっていきます!魔法は成功……あれ、私たちも疲れが取れて元気に……!」


 うまくいったようでよかった。なぜかみんなまで回復しているけど、その理由はよくわからない。



「ママ………よかった………!」


「ふふ……相変わらず泣き虫ね。私のかわいい子……」


 唯一の家族である母親が奇跡の復活を果たし、ザワはその胸で歓喜の涙を流す。昨日の夜は大聖女の力のことを呪いと呼んだけど、この光景を見れば私が不敬だったと認めるしかない。



「この場にいる全員を完全に癒やし、力を与えてしまうなんて……ジャッキー様!」


「あんた……いや、あなた様に逆らおうとしたおれが馬鹿でした。どうかお許しください!」


「許すことなんて何もないよ。ほら、頭を上げて。敬語も使わなくていいから」


 ザワがひれ伏そうとするからやめさせた。これまで通り接してくれないとこっちが変な気持ちになる。


「これからはジャクリーン・ビューティ様に従って生きるとここで誓う。この命もあなた様のために……」


「いや、ザワの命はザワのために使わないと。そして大好きなお母さんとアークのためにね」


 これでザワはもう過激な行動によって王国を変えようとはしないだろう。私が王家の敵になるような出来事でもない限り、ザワも大人しくしてくれるはずだ。



「この近くには革命軍の家族も友人もいない。アーク兵に襲われそうな場所はないはずだ」


「……そういえばさっきの兵士……私を斬る前に「革命軍の連中はほとんど始末した」とか言っていたような。ザワ、あなたの友だちは無事なの?」


 革命軍のリーダー、タツ・ヨシは会議中に魔法を使い、ザワたちに指示を出していた。私と戦うために料理店のそばに残っていたザワと数人の仲間以外はどこかにいなくなっていた。


「アジトが襲われたか!?ほとんど全員アジトで待機って命令だったんだ!」


「行ってみよう。まだ助かるかもしれない!」


 私の魔力はもう空っぽだけど、本物の大聖女マキがいる。こんな時に備えて回復薬も持っている。ザワの案内で革命軍のアジトに向かった。



「……あれは………!」


「あそこだな?お前らのアジトは」


 激しい戦闘のせいか、それとも一方的な攻撃によるものか。遠くからでもよくわかるほどボロボロになった建物は、大地震が起きた後のように全壊していた。


「くっ……生きていてくれよ!」


「まだ敵がいるかもしれない!一人で動くな……」


 仲間たちのためにザワが走る。私たちもそれに続いたけど、かなり手前でザワは足を止めた。



「……………」


「どうしました?あなたが行かないなら我々が……」


 動かないザワを追い越して、トゥーツヴァイが最初にアジトに近づいた。しかしトゥーツヴァイも立ち止まったと思ったら、すぐに振り返って私たちの行く手を阻んだ。


「皆さん……これ以上進まないでください。特にラーム……あなたは来てはいけません」


「え?」


 トゥーツヴァイと並んで歩いていたのはサキーだった。サキーはザワとトゥーツヴァイより少し先まで進み、やはり戻ってきてしまった。


「そいつの言う通りだ、近づくな―――っ!いいか、絶対に見るな――――――っ!」


 近づくどころか見ることすら躊躇われるほどの惨状になっているらしい。幼いラームとマユ、それにルリさんを現場から遠ざけて、トゥーツヴァイとフランシーヌに守らせた。



「ジャッキー、お前も来るな。ここから先は駄目だ」


「マキが行くなら私も行かないと。私がいれば見たくないものがあっても……」


 身体のどこか一部でも生きていれば完全に回復できる治癒魔法を持つマキは、ラームたちのように後方に下がるわけにはいかない。それなら私がそばにいて、マキの目や足になろうと思った。


「わたしなら心配しなくていいよ、お姉ちゃん」


「……マキ?」


「大聖女の仕事でよく遠征に行くから、いろんなものを見てる。お姉ちゃんのほうが慣れてないだろうし、問題なさそうだと思ったら呼ぶよ」



 マキの手で私は強制的に後ろに下げられた。そしてマキとサキーを先頭に、マーキュリーとマキシーが続く。


「………ジャクちゃん、私もここにいていいかな?」


「いいよ。無理する必要はない」


 ダイは怖くなったようで、私の隣で立ち止まった。


「……………」


 代わりにザワが動き出し、列の最後尾を歩く。覚悟を決めながらも僅かな希望を抱いていた彼女を待ち受けていたのは………。




「うっ………!これは………!」


「思っていた以上に………」


 遠くからだいたいの様子は見ていたサキーたちでも、目を背けながら鼻を押さえている。直視できず、臭いもかなりきつそうだ。


「………だめだね。何人いるのかわからないけど、全員完璧に死んでる。生きている欠片が一つもないよ」


 唯一平気そうだったのがマキだ。そのマキが治癒魔法はもはや意味がないと言うのだから、受け入れるしかない。マキが欠片と口にしたのは、とにかくいろんなものが散らばっていたからだと後で聞いた。あのまま私も行ってたら気絶していたかもしれない。



「こんなことが………これがおれたちの罪の罰なのか」


 ザワは血の海の中に力なく座りこんだ。震えながら拾い上げた胴体は、私たちもよく知っているオワダさんのものだった。


「オワダさん……いや、オワダはなぁ………おれより四つも年下なんだぞ!それなのにこんな死に方があるか!ふざけんな―――――――――っ!!」


 喜びの涙から一転、悲しみに泣き叫ぶザワ。これまでの歩みの罰だとしても、あまりに重すぎる結末だった。

 宮﨑敏郎、20球粘った末にホームラン!単なるカット打法ではなく、振り抜き続けてコレですからこの男はやはり天才です。しかし相手投手のタカタイチ投手、いつかタカタイチマニアに来場してくれるのではと期待しています。

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