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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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ザワの思いの巻

 私を背後から抱え上げ、そのまま高くジャンプ。両腕を使って右腕と下半身を固定する。パワーと技術も一流だったザワに、弱点はないのかもしれない。


「おれたちを期待させておいて……この裏切り者が!」


「ぐぎぎ………」


 ザワの技は空中で形を変え、右足を私の首の上に乗せてきた。いよいよ完全に動けない。



「『ザワ流脳天砕き』――――――っ!!」


「………!!」


 そしてリング目がけて落下。これでとうとう私も終わり………。


「ジャッキーさん!」


(マユ!そうだ、今の私は!)


 マユの声が聞こえなかったら、身体をスライムボディに変えられることを忘れたままだった。生きるか死ぬかという局面でこれなのだから、我ながらのんびりしている。



「死ね――――――っ!!」


「ぬんっ!!」



 急いで肩と腕の関節を軟らかくすると、僅かな隙間が生まれた。後々考えてみたら、マットに衝突する瞬間に頭や背中を守ったほうがよかった。焦っていたせいで脱出を急ぎ、すぐに発動させてしまった。


「うっ!?この感覚は!?」


 ところがこれがよかった。完璧に固めていたはずなのにいきなり手応えが緩くなり、ザワが動揺した。一度も破られたことがなかった技が失敗するかもという不安そうな表情が一瞬だけ見えた。


「……ちっ!」


「ザワが技を解いた!勝利目前だったのに!?」


 反撃を恐れて私から離れた。隙間ができたところで抜け出せなかったかもしれないのに、ザワが勝手に警戒してくれた。賢い最善の選択よりも、必死のあがきが道を切り開くこともある。



「おれの脳天砕きが破られただと?なかなかやるじゃねーか……やはりチャンピオンってのは強いんだな」


 マユの力を使ったんだから、私が強いということにはならない。しかも技を破ってはいない。あのまま叩きつけられていたらどうなっていただろう。


「どれ……チャンピオンの味を確かめておこうかな」 

 

 ゆっくりと近づいてくる。しかも舌を出しながら迫ってきた。


「え!?いやいやいや……」


「舐めさせてくれよ。味わっておきたいんだよ、お前を!ペロペロ……レロレロ〜〜〜」


 そのままの意味で私を味わう気だ。慌てて逃げた。



「何だあいつ!ナメた真似しやがって!」


「試合中にふざけすぎだ!ジャッキー様、あいつの舌を真っ二つに切っちゃってください!」 


 チーム・ジャッキーからのブーイングに対し、ザワも負けてはいない。


「うるせーぞ!二枚舌なのはこいつだろーが!おれたちの仲間になるようなことを言いながら、最初からそんな気は全然なかったくせによお!」


「そっちが勘違いしただけでしょ……」


「みんな!こいつは善人の皮を被っているが、根はとんでもないクズだ!しかも王家や仲間の言いなりになっているペラッペラな人間なんだ。惑わされるなよ」



 観客に対して演説のようなことを始めたザワの背中は無防備だ。後ろから丸め込んで3カウントが取れそうだけど、これも私を誘う罠かもしれないだけに悩む。


(……その時はその時だ!いけっ!)


「外から来たやつにアークの未来を託すのがそもそもの間違いだった!今日からは……うおっ!?」


「ワン!ツー!ス………」


 惜しくも勝利寸前でザワの腕が上がった。それでも舌で舐める攻撃のお返しはできた。私以上にびっくりしたはずだ。



「オイ!腐ってもスーパー闘技大会の王者だろ!卑怯な真似をするな!」


「いや……卑怯でも何でもないけど……」


「お前がその気ならこっちもやってやる!来い!」


 怒ったザワが合図を出すと、革命軍の仲間たちが次々とリングに上がってきた。ナイフや鎌、攻撃魔法が出せる杖などを持って登場だ。



「加勢するぜ、ザワ!こいつを消せば王国は混乱する!それに乗じて国王の首も狩っちまおうぜ……」


 早速一人入ってきて、無法の戦いが始まろうとしていた。しかしここで特別審判が活躍した。

 

「すぐに戻れ。従わなければ排除するぞ」


「排除〜〜〜?やれるもんならやってみやがれクソが……ぐぼっ!!」


 警告通り、審判のサリーが一撃で排除した。元魔王軍の実力なら、得意の剣技や腕の中にいるパートナーのシロに頼らなくても圧倒的だった。



「くそ!よくもやったな………げっ!」 「うぐ!」


「お前らの相手は私たちだ!」


 乱入者たちは次々と退治されていく。人数の差で袋叩きにするのが唯一の得意技だったようで、全く何もできずに道場の隅に捨てられた。チーム・ジャッキーは全員かすり傷すらない完勝だった。


「みんなありがとう!助かったよ!」


「……………」


 今の私は浮かれていて、ザワと同じ過ちを犯していた。ザワの最後の企みは潰えたからもう楽勝、そんな考えでいたせいで背後からの殺気に気がつかなかった。



「うわっ!」


「どこを見てやがる!この試合はおれとお前の一対一、関係ないやつらに構ってる余裕はない!」


 頭を掴まれながら後ろに引っ張られ、リングに背中を叩きつけられた。不意を突かれたせいでしばらく起き上がれそうにない。


「あだだ………」


「おれが世界を変えてやる……だから安心してくたばれ!アントニオ家を滅ぼして平和な世にしてやるからな。全てはアークのために!」


 ザワがロープを支える柱に手をかけた。仰向けに倒れたままの私を仕留めようとしていた。



「ウオ――――――ッ!!」


 天に向かって叫ぶと柱の上に足を着け、止まることなく飛んできた。


「真の革命の始まりだ――――――っ!!」



 激しく回転しながら落ちてくる。まともに食らったら骨や内臓がぐちゃぐちゃだ。


(………止めてみせる!)


 ザワが思いを込めた大技だ。ダイの鎧やマユのスライムボディではなく、自分の力で受け止めたいと思った。自分のためではなくアークのために戦うザワの気持ちに応えるには、それしかない。



「うお―――――――――っ!!」


「こ、この光は!?」



 想定外のことが起きても、今度はザワも攻撃を中断しなかった。私は両腕を真っ直ぐに伸ばす。


「終わりだ――――――っ!!」

 

「終わらない――――――っ!!」


 激しくぶつかり、強い衝撃が走った。

 ビッグベンエッジ、ペロペロ攻撃、蹴り技の数々……全てがOZAWAのプロレスセンスの高さを証明しています。

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