ジャッキー対ザワの巻
私が自分の立場と思いを明らかにすれば、革命軍が敵になるのはわかっていた。ここでザワとの戦いを避けたところでいつかはぶつかる。
「面倒なことになりましたね。こいつらは無視して、もう転移魔法で帰りますか?」
「いや……この程度の敵、ジャッキーさんなら簡単に倒せます。さっさと片づけたほうがいいでしょう」
簡単かどうかはやってみないとわからない。それでも先延ばしすればするほど相手の戦力は充実して、私への恨みは増す。決着は早いほうがいい。
「チャンピオン様、逃げるなよ?おれの仲間はもっとたくさんいる。タツ・ヨシの指示で街中に散らばっているが……何のためかわかるか?」
「………どうして?」
「あんたらを逃さないためだよ、アホが!罪のない人々が人質だ……もう転移魔法は使えないなぁ!」
アークを愛しているザワがそんなことをするはずがないから、これはただの脅しだ。しかしザワの上にいるタツ・ヨシはこの地方の出身ではなく、残虐な手段を躊躇わないかもしれない。
「そこまでしなくても戦ったのに……まあいいや。どこでやるの?」
「道場のリングでやろうぜ。お前が一番得意な試合形式なら言い訳できないだろう?それでもお前は必ず醜態を晒す。お前が侍らせてるクズどももがっかりするだろうな」
何でもありの戦いではなく、ルールがある正々堂々の勝負を選んできた。自信に満ち溢れている。
「運がよかっただけの偽物が!お前から何もかも奪い取ってやるからな!」
道場に向かう間も奇襲攻撃は一切仕掛けてこなかった。みんなが私の周りをしっかりガードしているから、したくてもできなかった可能性はある。
「どうせジャッキーには勝てないんだ。今のうちに好きなだけ騒いでいればいい」
「その言葉、そのまま返すぜ。そいつを捨てておれたちの仲間になりたくなるだろうから、その時は大歓迎だぜ」
どこまで本気で言っているのだろうか。私がザワに負けたとしても、ザワについていきたいとは誰も思わないだろう。強さが全て、そんな野蛮な考えは魔族ですら廃れつつある。
「ザワが救い主様と試合をするらしいわ」
「あいつも強いが、相手はチャンピオンなんだろう?どこまで食らいつけるか……」
道場には観客たちが集まっていた。私とザワの関係が悪くなっていることは知らず、ただの腕試しだと思っているようだ。
「確かに私は魔王軍を辞めていて、どちらの味方でもないが……まあ金がもらえるなら悪い話ではないか」
剣術大会が終わっても街に残っていたサリーに審判をやってもらうことにした。リングでの戦いに慣れていて、しかも中立の立場で試合を裁ける。
「時間無制限の一本勝負、反則と場外カウントはあり。試合続行は危険だと私が判断したらその場でストップ……そのルールでいいんだな?」
「何でもあり、どちらかが死ぬまでやる……おれはそんな完全決着戦がやりたかったんだが、臆病者のチャンピオンが相手だからな。それでいいよ」
事前に普通のルールでやると合意していたのに、皆の前では自分を大きく見せるザワ。勇敢で度胸があるとアピールして、観客たちを味方にする気だ。
「では……始め!」
試合が始まった。しかしザワは下がり、ロープに背中を預けている。
「ザワ!お前こそアークの希望だ!」
「お前が勝てば未来は明るいぞ!」
観客たちの声援はザワに集中している。狙い通りといった笑みを浮かべているけど、あんな小細工をしなくてもこうなっていたと思う。
私たちはつい最近アーク地方に来て、たった数日で支持を集めた。一方のザワは生まれも育ちもこの街で、観客たちの多くは彼女が赤ちゃんの時から知っている。どちらを応援するかなんて、簡単な話だ。
「そっちがこないなら私から……むっ!」
ザワは右足を上げてきた。痺れを切らした私が突進するのを待って、カウンターのキックだ。
「……ちっ、さすがは臆病で卑怯なチャンピオンだ。中途半端な攻めのおかげで難を逃れたか」
指を動かして挑発してくる。もちろん乗ってあげるつもりはなく、リングの中央で堂々と待ち構えた。
「王者だろ!仕掛けたらどうなんだ!」
「いや!王者だからこそ待っているんだ!胸を貸す立場だからな!」
チーム・ジャッキーとザワの応援団も激しくやりあう。場は早くも熱くなっていた。
「そっちがその気ならおれが!」
駆け引きの巧さとスピードがザワの武器か。あっという間に距離を詰めてきた。
(避けられない……それなら)
ザワは私の顔を狙っていたから、ダイからもらった鎧で顔面をガード。完璧に守った。
「そいつで防御してくるのはお見通しだ!フン!」
「………!」
硬くなった私の顔をザワが蹴り上げる。その勢いで空中を一回転、顔を足場に使われた。
「食らえ!その場飛びドロップキック!」
「うあっ!」
身体能力の高さもザワの強みだった。リングの下まで飛ばされて、ザワを見上げる形になった。
「へへ……どうだ!これがおれの力だ!」
「……な、何やってんだ、あいつ!?」
追撃してくる素振りを見せたと思ったら、リングでダンスを披露し始めた。激しさと軽快さを兼ね揃えた見事な動きだ。
「おお〜〜〜………上手だ」
「感心している場合じゃありませんよ、ジャッキー様!馬鹿にされているんですよ!」
ここで怒ったら試合の流れは完全にザワが掴む。それなら私も楽しんでやればいい。
「意外と冷静だな。もっと単純だと思ったぜ」
「ふふっ……そんなことじゃ私は怒らないよ」
私は何を言われても気にしない。そんな私を愛してくれるみんなを貶されたらきっと頭にきていた。ただしあまりに露骨だと落ち着いて対処できるはずだ。
「やっと戻ってきたか」
「そろそろ私もいいところを見せないと……ねっ!」
「何がいいところだ……ぐおっ!?」
肘打ちで攻撃すると、ザワは大きくよろけた。この程度でここまでダメージが入るのだから、かなり打たれ弱い。
「ぐぐぐ……」
(チャンス!一気に……)
いい試合をする必要はない。短い時間で終わらせてしまおうと前に出たその時だった。
「うあっ!!」
両目に爪を立てられて、勢いよく引っ掻かれた。いきなりの攻撃に防御が間に合わず、視界を奪われた。
「へへへ……騙されたな、バーカ!だが最初におれたちを騙したのはお前なんだから、自業自得だな」
身体能力や戦いのセンスが光っていても、ザワの一番の持ち味はこの汚い攻撃だった。無法な乱暴者の生き方がそのまま反映されている。
「おおっ!ザワが……」
「ジャクリーン・ビューティを担ぎ上げたぞ!」
眼球は傷ついていない。しかし痛みに気を取られて無防備になった瞬間を突かれた。
「ハハハ!終わりだ!」
「うっ……身動きが……」
OZAWAのYouTubeチャンネルはやる気のない動画が5本あるだけですが、癖になるものばかりです。




