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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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ジャッキー対ザワの巻

 私が自分の立場と思いを明らかにすれば、革命軍が敵になるのはわかっていた。ここでザワとの戦いを避けたところでいつかはぶつかる。


「面倒なことになりましたね。こいつらは無視して、もう転移魔法で帰りますか?」


「いや……この程度の敵、ジャッキーさんなら簡単に倒せます。さっさと片づけたほうがいいでしょう」


 簡単かどうかはやってみないとわからない。それでも先延ばしすればするほど相手の戦力は充実して、私への恨みは増す。決着は早いほうがいい。



「チャンピオン様、逃げるなよ?おれの仲間はもっとたくさんいる。タツ・ヨシの指示で街中に散らばっているが……何のためかわかるか?」


「………どうして?」


「あんたらを逃さないためだよ、アホが!罪のない人々が人質だ……もう転移魔法は使えないなぁ!」


 アークを愛しているザワがそんなことをするはずがないから、これはただの脅しだ。しかしザワの上にいるタツ・ヨシはこの地方の出身ではなく、残虐な手段を躊躇わないかもしれない。


「そこまでしなくても戦ったのに……まあいいや。どこでやるの?」


「道場のリングでやろうぜ。お前が一番得意な試合形式なら言い訳できないだろう?それでもお前は必ず醜態を晒す。お前が侍らせてるクズどももがっかりするだろうな」


 何でもありの戦いではなく、ルールがある正々堂々の勝負を選んできた。自信に満ち溢れている。



「運がよかっただけの偽物が!お前から何もかも奪い取ってやるからな!」


 道場に向かう間も奇襲攻撃は一切仕掛けてこなかった。みんなが私の周りをしっかりガードしているから、したくてもできなかった可能性はある。


「どうせジャッキーには勝てないんだ。今のうちに好きなだけ騒いでいればいい」


「その言葉、そのまま返すぜ。そいつを捨てておれたちの仲間になりたくなるだろうから、その時は大歓迎だぜ」

 

 どこまで本気で言っているのだろうか。私がザワに負けたとしても、ザワについていきたいとは誰も思わないだろう。強さが全て、そんな野蛮な考えは魔族ですら廃れつつある。





「ザワが救い主様と試合をするらしいわ」


「あいつも強いが、相手はチャンピオンなんだろう?どこまで食らいつけるか……」


 道場には観客たちが集まっていた。私とザワの関係が悪くなっていることは知らず、ただの腕試しだと思っているようだ。


「確かに私は魔王軍を辞めていて、どちらの味方でもないが……まあ金がもらえるなら悪い話ではないか」


 剣術大会が終わっても街に残っていたサリーに審判をやってもらうことにした。リングでの戦いに慣れていて、しかも中立の立場で試合を裁ける。


「時間無制限の一本勝負、反則と場外カウントはあり。試合続行は危険だと私が判断したらその場でストップ……そのルールでいいんだな?」


「何でもあり、どちらかが死ぬまでやる……おれはそんな完全決着戦がやりたかったんだが、臆病者のチャンピオンが相手だからな。それでいいよ」


 事前に普通のルールでやると合意していたのに、皆の前では自分を大きく見せるザワ。勇敢で度胸があるとアピールして、観客たちを味方にする気だ。



「では……始め!」


 試合が始まった。しかしザワは下がり、ロープに背中を預けている。


「ザワ!お前こそアークの希望だ!」


「お前が勝てば未来は明るいぞ!」


 観客たちの声援はザワに集中している。狙い通りといった笑みを浮かべているけど、あんな小細工をしなくてもこうなっていたと思う。


 私たちはつい最近アーク地方に来て、たった数日で支持を集めた。一方のザワは生まれも育ちもこの街で、観客たちの多くは彼女が赤ちゃんの時から知っている。どちらを応援するかなんて、簡単な話だ。



「そっちがこないなら私から……むっ!」


 ザワは右足を上げてきた。痺れを切らした私が突進するのを待って、カウンターのキックだ。


「……ちっ、さすがは臆病で卑怯なチャンピオンだ。中途半端な攻めのおかげで難を逃れたか」


 指を動かして挑発してくる。もちろん乗ってあげるつもりはなく、リングの中央で堂々と待ち構えた。



「王者だろ!仕掛けたらどうなんだ!」


「いや!王者だからこそ待っているんだ!胸を貸す立場だからな!」


 チーム・ジャッキーとザワの応援団も激しくやりあう。場は早くも熱くなっていた。



「そっちがその気ならおれが!」


 駆け引きの巧さとスピードがザワの武器か。あっという間に距離を詰めてきた。


(避けられない……それなら)


 ザワは私の顔を狙っていたから、ダイからもらった鎧で顔面をガード。完璧に守った。



「そいつで防御してくるのはお見通しだ!フン!」


「………!」


 硬くなった私の顔をザワが蹴り上げる。その勢いで空中を一回転、顔を足場に使われた。


「食らえ!その場飛びドロップキック!」


「うあっ!」


 身体能力の高さもザワの強みだった。リングの下まで飛ばされて、ザワを見上げる形になった。



「へへ……どうだ!これがおれの力だ!」


「……な、何やってんだ、あいつ!?」


 追撃してくる素振りを見せたと思ったら、リングでダンスを披露し始めた。激しさと軽快さを兼ね揃えた見事な動きだ。



「おお〜〜〜………上手だ」


「感心している場合じゃありませんよ、ジャッキー様!馬鹿にされているんですよ!」


 ここで怒ったら試合の流れは完全にザワが掴む。それなら私も楽しんでやればいい。


「意外と冷静だな。もっと単純だと思ったぜ」


「ふふっ……そんなことじゃ私は怒らないよ」


 私は何を言われても気にしない。そんな私を愛してくれるみんなを貶されたらきっと頭にきていた。ただしあまりに露骨だと落ち着いて対処できるはずだ。



「やっと戻ってきたか」


「そろそろ私もいいところを見せないと……ねっ!」


「何がいいところだ……ぐおっ!?」


 肘打ちで攻撃すると、ザワは大きくよろけた。この程度でここまでダメージが入るのだから、かなり打たれ弱い。


「ぐぐぐ……」


(チャンス!一気に……)


 いい試合をする必要はない。短い時間で終わらせてしまおうと前に出たその時だった。



「うあっ!!」


 両目に爪を立てられて、勢いよく引っ掻かれた。いきなりの攻撃に防御が間に合わず、視界を奪われた。


「へへへ……騙されたな、バーカ!だが最初におれたちを騙したのはお前なんだから、自業自得だな」


 身体能力や戦いのセンスが光っていても、ザワの一番の持ち味はこの汚い攻撃だった。無法な乱暴者の生き方がそのまま反映されている。



「おおっ!ザワが……」


「ジャクリーン・ビューティを担ぎ上げたぞ!」


 眼球は傷ついていない。しかし痛みに気を取られて無防備になった瞬間を突かれた。


「ハハハ!終わりだ!」


「うっ……身動きが……」

 OZAWAのYouTubeチャンネルはやる気のない動画が5本あるだけですが、癖になるものばかりです。

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