死闘の果てに…の巻
魔物の兄弟は二人とも動けない。激闘の末にリングに立っているのは私とサキーだった。
「これで決着……かな?」
「ああ……審判が連中を戦闘不能と判断するかだが……おい!サンシーロ!」
お父さんとサンシーロさんの戦いはまだ続いていた。机や客席の椅子まで持ち出してかなりの熱戦で、一対一のはずなのに互いに数が増えていた。
『ん……ああっ!そっちの試合は……おお!サキー様とマヌケが勝っている!我がギルドが平和を守った!ギルドチームの勝ち………いてっ!やりやがったなコラ!』
サンシーロさんが鐘を何度も叩いて試合終了の合図が響き渡った。これで正式に私たちの勝ちだ!お父さんたちの勝負はまだ続くみたいだけど好きにやらせよう。
「やった――――――っ!さすがジャッキー様!」
「ハラハラしましたけど勝ってよかったです!」
ラームとマユがリングに上がって私たちを祝福する。バリアも解除されたようで、ルリさんも大喜びで私たちのところにやってきた。
「ジャクリーン様!素晴らしい勝利でしたっ!」
「ありがとう。私はあまり役に立たなかったけどね」
「そんなことはありません!ですが仰る通りサキー様の活躍も見事でした。サキー様、あなたはきっとわたくしのライバルなのでしょう。しかし戦いの場でジャクリーン様と肩を並べて立つことはわたくしにはできません……その特権はお譲りしますよ」
「フン……私は欲張りだからな、全てもらうつもりだ。あんたの魔法も私とジャッキーのために……いや、正式に結婚するまではそういうのはなしだけどな」
サキーとルリさんが何を話しているのか私には聞こえなかった。ラームとマユによって二人から引き離されていたからだ。
「ジャッキー様が神々しい光に包まれるのをぼくたちは確かに見ました。スライムの集落での回復魔法、失敗したと思っているようですがあれも実は……」
「ちゃんと発動していたんじゃないですか?あの薬草が特別なわけじゃなくて、ジャッキーさんの魔法で薬草に奇跡の回復力を与えたんですよ!」
それはわからない。今回は偶然うまくいっただけ、サキーと回復魔法の相性がよかっただけと考えることもできる。事実サキーを過剰に回復させたのは一歩間違えたら事故に繋がっていた。
「ハハハ……これでサンシーロや観客たちもわかったはずだ。ジャッキーはただの無能ではない、そして剣聖を凌ぐ戦士と大聖女以上の大物が組めば敵はいないとな」
サキーは上機嫌で語り、私の腰に手を回す。即席タッグのはずなのに、何年も苦楽を共にした相棒のように思えた。
さて、私の実力を観客たちはどう評価したかというと、残念すぎる結末が待っていた。
「……あれ?リングの試合、もう終わっちゃってる。いつの間にか冒険者コンビが逆転していたようだ」
「俺も見てなかったよ。下の戦いのほうが面白くてな……みんなそうなんじゃないか?」
お父さんとサンシーロさんの戦いはあまりにも大激戦になって、皆の視線はそっちに奪われていた。お母さんやギルドの先輩たちも参戦する大乱闘になって、客席まで巻き込んで盛り上がったそうだ。
「なんか歓声がズレてると思ったら……」
「わたくしの周りの方々もリング上よりお義父様やお義母様の戦いぶりを楽しんでいましたね。お酒を飲みながら飛び入り参加してギルドマスターを殴ったり……」
大事なところでやってくれたよ。まあこれまで何年も私のことを我慢してくれたのだから、たった一度の過ちをあれこれ言うつもりはない。
「ぐぐっ……」 「ううう……」
双子の魔物が意識を取り戻した。戦闘不能になるダメージを与えたけど、しばらくすれば立ち上がり動けるようになる。
「……やられたぜ。お前たちのほうが強かった、そう認めるしかないな」
「この辺りのボスになれたら毎日美味いものを好きなだけ食えると思い勝負に出たが……俺たちは敗者だ、お前たちの好きにしてくれ」
弱っているうちにとどめを刺す、王国に引き渡す、魔物を扱う奴隷商人に売る……いろんな選択肢がある。でも私はこの双子をどうするか、すでに決めていた。
「何もしないよ。あなたたちの好きにすればいい」
「………え!?」
「人も物も被害はない、ただ試合をしただけだよ。それも正々堂々とね」
裁かれる理由が何もない。それなのにどうして捕まえたり殺したりできるのか。
「そういえばこいつら、最初から正式な試合のスタイルにこだわってましたね。悪質な反則もほとんどなかった」
「審判がいなくなった時に戸惑っていたくらいだからな。危なくなったら試合を止める役が消えたことを心配していた」
バリアを用意したのも正解だった。場外乱闘にあれだけ熱心になっているのだから、バリアがなければサキーを助けようと乱入者が続出してまともな試合なんかできなかっただろう。この二人は公平で公正な戦いをして勝利と栄光を掴みたかったんだ。
「お腹いっぱいに食べたいんだったらいい方法がある。私たちのギルドの一員になるのはどう?」
「な………」 「俺たちが!?」
「いろんな種族の人がいるからすぐに馴染めるよ。そのパワーならできる仕事は多いだろうし、あっという間に私なんか追い越されちゃうかもね」
報酬の高い仕事を選べばお金は貯まるはずだ。正攻法で戦うことを望む二人なら、力ずくで人から奪うよりも真面目に働いたほうが食事の時間も幸せだろう。
「いやいやジャッキー、いくらなんでも優しすぎないか?こいつらは今日のイベントをぶち壊しに……」
「ギルドに入りたいと思う人を増やすための時間だったんだからいいと思うけどね。最初の目的と何も変わらないよ」
「………フッ、そうだった。お前が正しい。この点でもお前は大聖女以上だ」
双子はそのうちまた来ると言って帰っていった。私の言葉は提案であって強制ではない。あの二人が決めるべきことだ。
私たちもいまだに暴れている乱闘集団を制圧してから家に帰った。サキーは今日も泊まっていくようで、このまま我が家の一人になるのも近そうだ。
次回から新シリーズ突入です。




