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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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平和のためにの巻

「今度はわたくしから質問があります」


「ん?ルリか……まあいいだろう、言え」


 暗殺者絡みの話が終わると、ルリさんが手を上げた。ノア・タイガーがそれに応じると、総督たちも耳を傾ける構えになった。



「先日競馬場でレースを楽しむ機会があったのですが……信じ難い事件が起こりました」


 まさか競馬の話題をするとは思わなかった。ルリさんはかなり熱くなった末に大負けして、もう賭け事はやらないと誓っている。


「あらかじめ着順が決まっている八百長レース……当然暴動になりました。主催者はあなた方アークの支配者たちですが、まさかあの茶番を仕組んだのはあなた方ではありませんか?」


 スタートと同時に怪しい落馬、なぜかゴールが近づいても馬に気合いを入れない騎手、不自然な配当金……ダイが偶然当てていなければ私たちも大損害だった。


「馬券の売り上げ金も配当金もあなた方が独占したとなれば犯罪です。前科もあるのでは?」


 自分が負けた恨みもあるのか、厳しい声で追及する。もし不正が当たり前になっていたら私たちはただただお金を吸い取られるだけだ。



「……我々は関与していません。あれは馬の調教師や騎手たちがやったことです」


 総督はすぐに否定した。認めてしまえばもう総督ではいられなくなるから、こう言うしかないだろう。


「もし我々が八百長から利益を得ていたと明らかになれば、人々は競馬場に行かなくなります。目の前の金に夢中でもっと大きなものを失う愚は犯しませんよ」


「なるほど。いくらお金を奪い合う関係とはいえ、ある程度の信頼がなければ賭け事は成立しませんね」


「すでに八百長に関わった者たちは処分しています。そのうち数人は競馬の世界から永久追放、二度と戻れないようにしました。ですから皆様も機会があればぜひまた足を運んでください。しかし熱くなりすぎないように、楽しい遊びの範囲で……」


 ありがたい忠告までもらってこの話は終わった。八百長の黒幕が誰だとしても、嫌なら馬券を買わなければいいだけのことだ。そもそもルリさんとサキーはあの大敗した日に、二度と賭け事はしないと約束した。競馬がこの先どうなるとしても関係ない。




 その後も様々な話題で会議は進み、アーク地方の発展のためにたくさん意見の交換ができた。私は相槌を打っているだけで、ほとんど発言していない。


「この件についてどう思われますか?」 


「えっ?ああ……いいと思います」


 真面目に聞いてはいるけれど、話のレベルと速さについていけなかった。例えば軍事関係はサキー、食糧問題はフランシーヌ、魔法に関わることはマーキュリーとマキシーが対応してくれる。それぞれ得意分野があり、チーム・ジャッキーは盤石だ。



「いやいや……皆様、まだお若いのに素晴らしい。ここまで有意義な話し合いができるとは……」


 総督たちも驚いていた。アークの代表者側の提案に対し、私たちはそれを上回る改善案を出す。その時の反応を見れば、総督の言葉もお世辞ではなく本心からだというのがわかる。


「ジャクリーン・ビューティ様を王とし、周りの皆様が要職に就けば……ジェイピー王国は今よりも遥かに素晴らしい国となるでしょうね」


 場の空気が変わった。どこかでくると思っていた、この会議の本題だ。


「民衆は新たな王を望んでいます。ジャクリーン・ビューティ様……もしあなたがその気なら、我々はぜひ力になりたいと思っています。アントニオ家を倒しあなたが王国を統治する意志があるのか、今後のためにこの場で明確にしていただきたいのですが……」


 私の思いは最初から決まっている。アークの革命家や街の人に加え、仲間たちからも背中を押されている。それでも答えは変わらなかった。



「……私が目指しているのは平和な世界です。昨日、その決意を強める出来事もありました」


「お姉ちゃん……」


 マキを大聖女の宿命から自由にして、幸せにする。それが私にとって最も大事なことだ。


「もし私が強引に王座を狙ったら……王国は平和ではなくなります。このアーク地方でもたくさんの血が流されるでしょうし、混乱の隙を突いて他の国や魔界が攻めてくるかもしれません」


「………」 「………」


「私は王様にはなりません。暴力的な方法を使って王権を奪うなんてことは絶対にしません」


 

 私が革命に手を貸さないとはっきりしたら、アークの大物たちは失望し、敵意を向けるようになるだろうと思っていた。後ろにいる兵士たちを使って攻撃してくるかもしれないから、いつでも反撃できるように身構えていた。


「………そうですか、わかりました。そこまで否定されては説得しても仕方がなさそうです。諦めましょう」


「もっと別のやり方で王国を豊かで強くできるように、考え直しますよ」


 あっさり引き下がってくれたのは意外だった。嬉しい誤算ではあるけど、逆に怪しい。



「話は変わりますが、近頃このあたり全域で病気の牛が増えています。私たちでは原因がわからないので専門の学者を連れてきてほしいのですが……」


「……た、確かお城にいたような気がしますが……牛たちの様子を具体的に聞かせてもらえますか?」


 そのまま牛の話題になり、私が発言する機会はなくなった。しかもさっきより話に熱を感じる。


(王家を滅ぼす革命よりも……牛のほうが大事?)


 人々の生活に直接関係することだから、大事なことなのは間違いない。間違いないけど、これはおかしい。私たちを困惑させたまま会議は終わった。






「……あいつら、そこまで本気じゃなかったのか?」


「ザワから聞いていた話とはだいぶ違ったよね」


 私たちが出てくると、ちょうど名前が出たばかりのザワが入口に立っていた。手下を数人連れていて、全員揃って私を睨みつけている。


「オ――――――イ!ジャクリーン・ビューティ!おれたちを騙しやがってお前コノヤロ―――!結局国王の犬だったんだなゴミカスが!」


「……えっ!?」


 会議の内容が外に漏れていた。私たちが最初に部屋を出て、アークの代表者や兵士はまだ料理店の中だ。



「タツ・ヨシが魔法を使って教えてくれたんだよ!あんたらは革命に反対し、おれたちの敵になるとな!」


 あの場で静かだったのは、こうして手を打っていたからか。やはりそのまま帰してはくれなかった。


「そのうちあんたらとは戦争になるだろうが……今すぐやってやるよ。ジャクリーン・ビューティ……おれが愛するアークのために、お前を消してやる」

 シュンスカイウォーカー敗北!ベルトを失いました。EVILも敗北!外敵に優勝を奪われました。どちらもヒールが負けたのにバッドエンドというあまり見ない結末に。

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