結ばれた姉妹の巻
「……派手にやりましたな。ドラゴンかオークが襲ってきましたか?」
「いや、ははは………」
天井や窓、床に開いたいくつもの大穴。マキの大暴れの爪痕は凄まじく、兵士のシュスイさんが駆けつける事態になった。
「皆さんの貸し切りだったからよかったものの……」
修理費と迷惑料をたっぷり払うことで『宿屋破壊事件』はひとまず決着した。宿屋の主人からは、「大聖女様や将来の国王様からお金は取れません。どうせそろそろ改装する予定でした」と言われたけど、そういう立場だからこそしっかり誠意を見せないといけない。
「一応無事な部屋はありますから、とりあえずそこで寝ましょう」
「今日はマキナ様とお二人でお休みください」
マキはだいぶ落ち着いたとはいえ、もう少し慰めるための時間が必要だ。同じベッドでいっしょに寝るだけでいい。
「総督と会うんですよね?こんな揉め事は勘弁してくださいよ。巻き込まれたくないんでね」
「何もない………と思いますよ」
シュスイさんは帰っていった。明日も警備として駆り出されているようで、事件が起これば大忙しになる。まあ私たちが気をつけていればその心配はない。
「私たちも部屋に戻りましょう。明日はおそらくアーク地方での最終日、そして最も長い一日になるでしょう」
用事が全て終わればダイが持ってきた道具で転移魔法を使い、一瞬で帰る。もし誰かに命を狙われそうになっても、これで逃げれば絶対に追いつかれない。
「あまり夜ふかしは……と言いたいところですが」
「………」
それはマキ次第だ。とはいえ一睡もできなかったとしても、アークの大物たちとの会議は午後からだ。最悪の事態にはならない。
「お姉ちゃんのおっぱい………柔らかくて落ち着くね」
がっちりと抱きつきながら胸に顔を埋めてくるマキ。その声はとても幸せそうだった。
「すっかり元気だね。よかった」
「いや……まだまだ足りないよ。やっぱり直接いっちゃおうかな……失礼しま〜す!」
服の中に入ってきた。リラックスして寝るための余裕がある服だから、簡単に潜入を許した。私との赤ちゃんの夢がお預けになったからって、まさか自分が赤ちゃんみたいになるとは……さすがマキだ。
「ちゅっちゅっ……」
「よしよし、いい子だね」
マキの頭を優しく撫でる。この笑顔を守っていこうと改めて誓った。
「お姉ちゃん………んむっ!?」
突然マキが飛び跳ねた。息も荒くなっている。
「マキ!?急にどうしたの?」
「………どうしたのって……え?わかってないの?」
逆に聞かれてしまった。わからないから心配になっているのに、私に聞かれても……。
「………あっ………」
私の右手はマキの頭を撫でている。しかし左手は無意識のうちにお尻を撫でていた。
「ちょっと前にも同じようなこと、あったよね。わたしのお尻……好きなの?」
「う―――ん………まあ……はい、そうです」
「うふふ!お姉ちゃんもわたしと同じだね!」
怒られるかと思ったら、マキは喜んでいた。そして一度私から離れると、勢いよく飛びついてきた。
「でも……お尻だけじゃなくて、わたしのぜんぶを愛してほしいな。身も心も……何もかも」
「………そんなことをしなくても伝わってるはずだけど………愛してるって教えてあげるよ」
朝になった。みんなでおいしいパンとスープを楽しむと、近くにある有名な温泉に案内された。
「この街どころか王国の未来を左右するかもしれない大事な会議の前です。顔も髪も身体も最高のコンディションにしてください」
この温泉のことは知っていたけど、いつも人が多くて混んでいるから行かなかった。でも今日は地元の人たちが会議を成功させるためにと、貸し切りの時間を作ってくれた。
「ここに入らずに帰るのはもったいないのでぜひ!」
「ありがとうございます。堪能させてもらいます」
温泉の名所であるダブジェ島にも負けないほどの名湯との噂で、これは楽しみだ。のんびりしすぎないように気をつけよう。
「あんなに熱心にどうぞって言われたら断るわけにはいかないよね。でも今の私は髪も整ってるし身体も……臭くないはず。改めてきれいにする必要もなさそうだけどね」
「ふふっ……お姉ちゃんとわたしから感じたんじゃないのかな?『エッチな匂い』が!そのままだとお姉ちゃんが魅力的すぎて話し合いにならないから落としてこいってことかもよ」
そんなはずはない……と思いたい。目に見えない、鼻でわからない何かが簡単にわかるほど鋭い人はほとんどいない。これは偶然だ。
「なるほど……確かに素晴らしいところですね」
「でも満員だったらここまでくつろげないよ。逆に疲れちゃう」
どこにでも温泉があるダブジェ島とは違い、この近くには片手で数えるほどしかないのも混んでしまう原因だ。掘ればもっと温泉が出るのはわかっているようだけど、そのためのお金が足りないらしい。
「ジャッキーさんが王様になったら、アーク地方で最初に手をつけるのはこれにしますか?」
「そうだね。温泉街にして盛り上げれば景気もよくなる。そのためにお金をどんどん出そう」
食べ物や水がとてもおいしいのだから、うまくやればもっと外から人が来る。街が元気になれば犯罪も減る。温泉改革でアークを元気にしよう。
(あっ!いけないいけない、つい……)
私は王様にはならないと決めているのに、変なことを考えてしまった。ゲンキ・アントニオ国王とナーカ・タリュー総督を後ろから支援する立場を越えてはいけない。今のままでもできることはたくさんある。
「さて……そろそろ身体を洗おうか、ジャッキー!」
「私たちが全身を丁寧に流しますから……」
みんなの目つきが変わった。獲物を狙う目だ。
「いや、今はしゃぎすぎたら会議が……」
「平気ですよ。なんとかなりますって」
「いざとなれば私たちが話し合いをする」
これはまずい。頼れるのは………。
「マキ!みんなを止めて!」
昨日の夜あれだけ遊んだのだから、もう満足しているだろう。私を独占しようという気持ちも強いだろうし、止めてくれるはずだと期待していた。ところが、
「……………」
「え?マキ?」
「……少しくらいはお姉ちゃんを貸してあげないと。わたしが子どもを産めるようになるまで待ってくれた恩があるからね」
「……うっ!!」
まさかの答えだ。マキの成長を喜びつつも、私の味方は完全にいなくなった。
「それに……わたしもまだまだお姉ちゃんと楽しみたいんだ。さ、きれいにしようね!」
「………!!」
結局足の指の先から大事な場所まで余すところなく洗われて、『仕上がった』状態で会議を迎えることになった。
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