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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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アークの代表者たちの巻

「ジャクリーン・ビューティ……彼女が王になればわしらの生活も少しは楽になるのか?」


「今は金が一部に集中し過ぎている……それも不正な方法でな。あの方なら正してくれるだろう」


 私への期待は大きくなっていく一方だ。町長や村長でも着ている服や身体を見れば苦しい暮らしをしていることがわかる。誰かに現状を変えてほしいとたくさんの人が強く願っている。


「フム……実力は文句なしか。それに仲間たちも。あの方々に報告しなければ……」


 その中でノア・タイガーは光り輝く装飾品をたくさん着けて、豪華な上着でもだらしないお腹を隠しきれない。自分のお金が貧しい人たちに流れてしまう展開になりそうなら、必死に抵抗するだろう。



「さっきからあいつが言っている、あの方々って誰のことなんだ?」


「知らなかったのか?アーク地方を統治している総督とその配下たちだ。国王直々に指名したそうだ」


 王様に信頼されているから総督という重要な地位を与えられた。そんな人が噂通り王家を攻撃しようと企んでいるとしたら、大きな心変わりだ。


「明日にはこのオナードに来るらしい。ジャクリーン・ビューティと何を話すのか……我々の未来を左右する会議になるな」


 この旅の終わりが見えてきた。アークの頂点にいる人たちの考えを知ることができれば私たちの任務は完了だ。国家転覆を目指して動いていたらすぐに戻り報告、その後は王様と闘魂軍に任せる。


 もし総督たちにその気がなければ、革命が起こる可能性は薄い。ザワやリョーマが計画を進めても、王国の中心に届く前にアークの中で潰されて終わるから脅威にはならない。



「会議には当然私たちも同席する。言いづらいことがあれば代わりに話してやるから緊張するな」


「ジャクちゃんはどっしりと構えていればいいよ。私たちに任せて!」


 頭を使うのは苦手だからみんなに任せるのが正解だ。でもサキーやダイも得意そうじゃないから、トゥーツヴァイやフランシーヌにお願いしたい……なんてことは言えなかった。励ましてくれる二人に対して失礼すぎる。


「こいつらは口だけだよ、お姉ちゃん。わたしがうまく話し合ってあげるからね」


「わたくしも力になります!」


 私以上に向いていない二人が来た。マキは私を馬鹿にされたらすぐに襲いかかるだろうし、ルリさんもさっきのやり取りを見ていると、意外と手が出るのが早い。会議に同席させるのも迷っているほどだ。




「いよいよだな!明日の会議であんたらとアークのトップが手を組めばアントニオ家なんか簡単に潰せる!王国はこれで救われるぜ!」


 ザワが笑顔で近づいてきた。ザワと仲間でいられるのも明日までか。


「真の革命が起こりこの世は救われるんだ!あんたらを連れてきたおれも歴史書に名前が残るんだろうな……今から緊張してきた」


 その未来は残念ながらやってこない。仮に私たちがアントニオ家との戦いに協力して勝ったとしても、この世は救われるどころかますます混乱する。このオナードの街もどうなるかわからない。



「総督の名前は『ナーカ・タリュー』。確かあんたの父親バーバ・ビューティと共に戦っていたとか……」


「そういえば名前だけは聞いたことがあるね」


 お父さんの昔話に何度か出てきた人だ。でも詳しく語られたことはないし、会ったこともない。


「タリュー総督といっしょに来るのは総督に次ぐ権力を持つ女大臣『タマミ・オダワラ』、それからおれたちのボス……タツ・ヨシだ」


「タツ・ヨシ?ノア・タイガーだけでなくそいつもアークにいたのか!しかも革命軍のボス?」


「ジャッキー様の挑戦者候補として名前が挙がっていたうちの一人ですよね」


 相手の代表者は四人。タリュー総督、オダワラ大臣、そしてノア・タイガーとタツ・ヨシ。革命軍のボスが総督や大商人と共にいるのだから、これはもう答えが出ている。



「今さら驚くようなことでもありません。山道を封鎖していた山賊たちの背後には総督がいた……最初からそれはわかっていた話です」


「アークの正規軍と革命軍が力を合わせて闘魂軍と戦うんだ。そこにあんたらも加われば、結果はわかるだろ?」


 山賊が闘魂軍の小隊を全滅させたほどだ。ザワが自信満々なのもわかる。しかし本当に戦争になれば戦力の差は明らかだ。



「おれは明日の会議に参加できる身分じゃない。しかし始まるまではあんたらのそばにいるから、知りたいことがあれば早いうちに聞いてくれ」


「う〜ん……とりあえず今はいいや」


 疑問に思うことはいろいろあるけど、きっとその答えはザワにもわからない。どうせ明日になれば全て終わる。無謀な計画も、果てしない野望も。





 練習や各地の代表者たちとの交流を終え、宿屋に戻った。ここに泊まるのも今日が最後になるかもしれない。


「……あれ?今日は宴会はなし?」


「はい。お酒は控えてもらいます」


 料理の顔ぶれも昨日までとは違い、味よりも栄養を重視したものになっていた。これならすぐにお腹いっぱいになるだろうから、こっちのほうが身体にいいのは言うまでもない。



「やっぱり明日は大事な話し合いがあるから?」


「それもありますが……まずは今日です」


「今日?もう食べて寝るだけじゃ……あっ!」


 夜になったらマキが特別なプレゼントをくれる、そのことを思い出した。酔って寝てしまうわけにはいかない。


「私だけでいいと思うけど、みんなも?」


「………はい。全員で立ち会うことになりましたので。その必要がある、とても重要な時間になります」


「えっ………」


 どうやらみんなはマキのプレゼントの中身をすでに知っている。しかし私はその時のお楽しみだと言われているから、一人だけ何もわからないままだった。


 とても静かに夕食の時間は終わった。これまでは毎日盛り上がっていたのに、ほとんど誰も喋らない緊張した空気が流れていた。





「身体も洗ったし……マキのところに行こうかな」


 マキだけでなくみんなもいる。わざわざみんなで見届ける必要があるほどのものとは……。

 ナーカ・タリュー……アーク地方の総督。かつては国の中心で働いていた。元ネタになった男は、解説するのも嫌になるほどの屑。


 タマミ・オダワラ……アーク地方のナンバー2。元ネタになった女は、NOAHの巨額詐欺事件に関与した屑。

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