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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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ルリの新たな名前の巻

「ノア・タイガー……この人がジャクちゃんの元婚約者!でも聞いていた話とはかなりイメージが……」


「思っていたより太っている。それなりに強いらしいが、あの身体で戦えるのだろうか?」


 ダイとマーキュリーが小さな声でこそこそ話している。私やルリさんの話とはまるで違う外見に首を傾げていたのも当然で、この人をよく知っている私たちのほうがその変化に戸惑っているほどだ。



「ハハハ……最近はこちらに腰を据えて仕事をしていましてね。私が何かをすれば面白いように金が集まるので身体を動かす時間はなく、美味い飯ばかりを食べていたせいですっかり別人でしょう?」


 着ている服も以前より豪華だった。全盛期の勢いはないとはいえタイガー家はかなりのお金持ちだ。しかしそれ以上にこの土地でたくさん稼いでいるようで、すっかり大商人だ。


「………」


「おお、ルリか。お前が家を出てしばらく経つが、まだ戻らないのか?俺もなかなか帰れないから父さんは寂しがっている。せめて顔だけは見せてやれ」


「………」


 ルリさんはタイガー家と縁を切って私のところへ来た。しかしノアさんの問いかけに一言も返さないのはよくない。視線すら合わせていないから、せめてそこだけは直すように言おうとした、その時だった。



「ところでルリ……もうジャクリーン様とヤッたのか?いや、お前からはまだガキの匂いがする……大人の女になれていないのがわかるぜ」


「………え?」 「はぁ?」


 場が凍りついた。元々この人にあまりいい印象は持っていなかったけど、まさかこんなことを言うとは思わなかった。しかもこの大人数の前で。


「ジャクリーン様!あなたからも同じ匂いがしますよ!どうせ女同士では限界があるのですから、私ともう一度婚約しませんか?激しくしてあげますよ!」


 この誘い方で成功すると本気で思っているのだろうか。もしノア・タイガー流の冗談だとしたら、ただ不快になるだけの笑えない冗談だ。



「……見た目だけじゃなくて中身も変わった?」


「いいえ、あれがあの男の本性です。下劣で品がない、腐臭を撒き散らすだけの存在です」


 もし私が何事もなく聖女になっていたら、予定通りこの人と結婚していた。恐ろしい未来だ。



「スーパー闘技大会で優勝したあなたと私が手を組めば世界が手に入ります。大会の賞金をどれだけ稼ごうが、たかが知れている……私といっしょになれば毎日贅沢の限りを尽くし、遊んで暮らせますよ?」


 今度はお金を使って誘惑か。嫌われようと狙ってもなかなかここまではできない。チーム・ジャッキーどころかザワや各地の町長、村長たちも渋い顔になっていた。しかしアーク地方に住むザワたちはノアさんに嫌われるとまずいことになる。


「そ、そろそろよろしいのでは?」


「またの機会ということにして、まずは……」


 周りはどうにか話を終わらせようとする。しかし朝から絶好調のノアさんは止まらなかった。



「あなただけではなく大聖女様も大歓迎ですよ!私の財力で大聖女様の歩みを盤石のものとするお手伝いをさせていただきます!」


 マキにまで手を伸ばした。誰でもいいのだろう。


「大聖女様の小さな身体で私の『アレ』を受け入れるのは、最初はきついかもしれません。しかしそのうち慣れるでしょうから、何も心配せず愛し合いましょう!」


「………あ~~~?」 「こいつ……酔っているのか?」


 お酒の匂いはしない。顔の色や呂律も普通で、どうやら自分の成功に酔っているようだ。今の自分なら誰とでも結婚できるし、公の場でもやりたい放題言いたい放題が許されると信じて疑わない。



「お姉ちゃん……どうしようか?あいつのことは前からずっと殺したかったけど、いい機会なんじゃない?」


「いやいや、そこまでしなくても……」


 さすがにやりすぎだ。無視するだけでいい。マキを止めるのに必死だった私は、激怒しているもう一人の動きを気にしていなかった。



「私の妻になれば最高の贅沢と快楽が……ぶごっ!!」


「黙りなさい、悪臭しかしない豚め」


 ルリさんがそのへんに置いてあった誰かの杖を使い、ノアさんの頭を上から殴打した。遠慮も躊躇もない、強烈な一撃だった。


「うぐぐ………ルリ、お前!何をやったかわかってるのか!?女は男に絶対服従、年長の者には逆らわないというタイガー家の教えを一気に二つも破りやがって!」 


「さあ?わたくしはすでにタイガー家の人間ではありませんから。あなたのことを兄とも思っていませんし、その教えとやらを守る必要はないでしょう」



 言葉と行動で示した、完全なる決別だ。そしてタイガー家を正式に捨てたルリさんが次にするべきことは、新しい名前での自己紹介だ。


「皆様!もはやわたくしはルリ・タイガーではありません!今日からは『ルリ・ビューティ』と呼んでください!」


「ルリ……ビューティ!」


 たくさんの証人がいる。無事に改名が完了した。


「………ハッハッハ!そうか、我々はもう家族ではない。よくわかったよ。私は他人を傷つけることを何とも思わない……その愚かな決定、近いうちに必ず後悔させてやろう!」


「………」


 危険な脅しにもルリさんは全く動じず、堂々としていた。ルリさんはもちろん、私たちもしばらくは攻撃に備えていないと危ない。特にこのアーク地方はノア・タイガーの本拠地で、私たちを攻める方法はいくらでもある。



「わたくしの言葉の意味……ジャクリーン様ならおわかりですよね?」


「う……うん」


 ここで鈍感なふりをするのはあまりにも不誠実だ。ルリさんの思いに応えよう。


「あんな男の顔を見てしまい、今日は最悪の日だと嘆いていましたが……最高の日になりました。末永くよろしくお願いいたします」


 ルリさんの瞳は潤んでいた。私の命が続く限りこの人を絶対に守っていこう。






「……あんな出来事が起きたばかりだから、あなたは来ないものだと……」


「あれとこれとは話が別だ。仕事だからな」


 私たちが道場で練習する姿を、各地の代表者たちの輪に混ざってノア・タイガーも見ていた。


「………あいつらを消すつもりか?」


「まさか!そんなことをしたら私がもっと上の方々に殺される。感情任せに好き勝手していたら商売はうまくいかない」


 彼の独断では私たちに手を出せないと知って安心した。『もっと上』の人たちが私たちの前に現れてからが真の勝負だ。

 横浜DeNAベイスターズ、投球と守備と走塁と得点圏での打撃と采配と指導と編成が弱すぎる。

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