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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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崩壊の幕開けの巻

「ふぅ………朝か。全然眠れなかった」


 前からはラーム、後ろからはトゥーツヴァイに抱きつかれて、私はサンドイッチの中身のようだった。しかも二人はずっと裸で、柔らかい肌や甘い息を直に感じたのだから眠れるはずがない。


「おはようございます!いい朝ですね!」


「今日も頑張っていきましょう」


 二人はとても元気だった。いろいろ吸い取られた気分だ。



「お楽しみはまた今度に取っておくとして……ジャッキー様、これを受け取ってください」


「この紙は……契約書?」


「ぼくはジャッキー様の奴隷としてビューティ家の一員になりました。死ぬまでジャッキー様に仕え、愛する主人のご要求がどんなものであろうと必ず応えることをここに誓います!」


 これまで何度もラームは私のそばを離れないと宣言している。今さらこんな紙は必要ないと思うけど、正式な形にしておきたかったのだろう。


「わかった。それならありがたく受け取っておくよ。もしいつか考えが変わったとしても、そう簡単に撤回できなくなるけど……それでいいね?」


「もちろん!そんなことはありえませんけどね!」



 命が続く限り私たちはいっしょだ。ラームは何百年も生きるオードリー族だから、私のほうが確実に先にいなくなる。一年もしないうちに魔王に負けてそうなるか、数十年後に寿命を全うしてそうなるかは私次第だ。


「まずはこの任務を無事に終えることだね」


「ええ。いつ状況が急変するかわかりません。私たちも全力であなたを守ります」


 アーク地方での私たちは今のところ英雄扱いだ。しかし私が王様になる気がないとわかったらどうなるだろう。もし危険が迫ったら、どれだけ格好悪いとしてもみんなで生き残る道を選ぶ。



「昨夜は止めてしまいましたが、ラームの覚悟がわかったのでもはや私は応援するだけです。ジャクリーンさんとラームの子どもこそ神や魔王を凌ぐ存在になれるという考えは変わっていません」


「ぼくたちの子どもか……今から楽しみですね!」


 私の顔や首、胸もとにはラームがつけた口づけのしるしがたくさん残っていた。虫刺されと勘違いする人はいないくらい、完璧につけられている。


「フフ……世界を救うのはあなたたちの子ですが、私とジャクリーンさんの子もきっと重要な役割を担うことになるでしょう」


「………むっ!」


「安心してください、ラーム。あなたからジャクリーンさんを奪おうとはしません。あなたが正妻、私は二番目以降で構いませんから……今のところはね」


 どうやら私の背中や首の裏側にもしるしがいっぱいついているようだ。普段は控えめで賢いトゥーツヴァイが、ラームのように積極的に、情熱に身を任せていた。




「さあ、行きましょう。人々はジャクリーンさんの右と左にいるのは誰なのかを知るでしょう」


「えへへ…離しませんよ!」


 この二人、あえてみんなに見せるためにつけたのか。まるで本物の親子のような息の合った動きだった。



「おはよう、お姉ちゃん。ついでに横の二人も」


「うっ」 「い…妹様……」


 しかし私たちが最初に会ったのは、ラームとトゥーツヴァイにとって一番の強敵、マキ。いきなり出鼻を挫かれることになった。


「……………」


「ど、どうされました?」


 私の肌を確認してから、ラームとトゥーツヴァイをちらりと見る。二人がしたことを知って怒るだろうと思いきや、マキはにやにやしていた。そして……。



「あは……あはっ……あはははははっ!!」


 突然大声で笑い始めるマキ。おかしくて仕方がないといった様子だ。


「残念だったね二人とも。お姉ちゃんを自分のものにしようと頑張っても、結局一方的に愛しただけ……惨めだね」


「………」 「………」


「そもそもどうしてチームを組んでるのかな?お姉ちゃんの一番は一人だけなんだよ?」


 何が起きたのか、ひと目見ただけでわかったようだ。同じベッドで寝たけどそれ以上のことはなかったと、マキは全て見抜いた。



「それでもわたしには勝てないみたい。産まれる前からお姉ちゃんと結ばれているわたしには全く届かない」


 大きな声を聞いて、みんなも私たちのところに来た。マキは構わずに話を続ける。


「昨日の夜だけじゃない。お姉ちゃんに迫るみんなの汚い策略……わたしはいくらでも邪魔できたんだよ。でもそうしなかった………その理由がわかるかな?」


「………?」 「だ、大聖女としての慈悲……とか?」


「無駄な努力だからだよ!わざわざ止めなくても大したことにはならない……放っておいていいと思ったし、その通りだったよね!」



 あ然とするみんなを置き去りにして、マキは私の手を引いて進んでいく。ずっと笑顔のまま、無邪気に歩く。


「お姉ちゃん……わたしからもプレゼントがあるから、楽しみに待っててね。今日の夜、最高の贈り物をあげる」


「マキのプレゼント!嬉しいね……何をくれるの?」


「夜まで秘密だよ。でも、お姉ちゃんは絶対に喜んでくれる……それは約束する」


 マキは自信たっぷりに胸を張る。マキが持つ大聖女の力をもらうのは以前に断っているし、全く思いつかない。



「競馬場で買ったお揃いの指輪……わたしたちがただの姉妹じゃないって証になっているけど、それ以上のものをあげるよ……」


 指輪以上となると、かなり大きな品物だ。言われた通り、夜を待とう。





「今日も道場で訓練するの?」


「特に予定もないし……ん?」


 宿屋を出ると、大勢の人たちが道を塞ぐようにして横に並んでいる。私たちを待っていたのだろう。



「ジャッキー、下がれ。敵かもしれないぞ。鍛えているようには見えないし武器も持っていないが、やつらの正体がわかるまでは私たちの後ろにいろ」


「魔法や道具を使ってくることもありますからね。まずは様子を……」


 謎の集団を前に、私たちはいつでも戦える構えでいた。しかしその奥からザワが出てきて、ちょうど中間に立った。そして私たちに説明を始めた。


「警戒しなくていい!こいつらはアーク地方の各地から新たな王の噂を聞いてやってきただけで、戦闘力はない。人が集まる街から田舎の農村や漁村まで、その地の支配者やその使者たちがあんたらを見に来たんだ」


 私たちの噂が広まり、それが正しいのかを確かめるために来た人たちだという。今のところは味方であるザワが私たちを騙すとは考えにくく、ここは信じることにした。



「そうだ、今日は大物がいっしょにいるんだ。この地域のあらゆる場所で商売を成功させている大富豪であり、リングでの戦いを広める活動もしている……ああ、紹介しなくてもあんたらはもう知っていたな。そこにルリ・タイガーがいるのだから」


「……わたくしとどのような関係が?」


 ザワが手招きすると、その人物が私たちの前に出てきた。確かに私たちがよく知っている人だった。



「これはこれは……お久しぶりです。こんな場所でお会いできるなんて幸運です」


「ノア・タイガー………」


 ルリさんの兄であり、私の元婚約者だ。ノア・タイガーとの再会は、アーク地方を襲う波乱の扉を開くきっかけになった。

 EVILはやっぱりEVILでした。それでいいんだよ。

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