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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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一番大切なものの巻

「そんな格好でどうしたの?寒くない?」


「ジャッキー様……!ぼくがジャッキー様にあげるのは、『ぼくの一番大切なもの』です!」


「………っ!」


 下着しか着ていないほど薄着だったのに、それすら脱いだラームは生まれたままの姿になった。

 


「これがぼくの気持ちです。どうですか……他の人たちにも負けてませんよね?」


「この子の覚悟、まさか無駄にはしませんよね?」


 トゥーツヴァイもラームを後押しして、私に迫る。突然のことに、心の準備が全くできていない。



「ラーム……そんなことをしなくても私たちは家族、一生を共にすると誓ったはずだよ」


「……こんな子どもの身体に魅力はありませんか?」


「そんなことない!むしろそれがいいんだから!いろんな問題がなければ今すぐにでも………」


 慌てて自分の口を塞いだ。いざという時に本心は隠せず、思っていることをそのまま言ってしまう。大失態を悔やんでもすでに時遅しだ。


「ジャッキー様……!うれしいです!さあ、早速ベッドに行きましょう!」


 ラームは幻滅するどころか、大喜びで私の腕を引いてベッドに連れて行こうとする。いよいよ逃げ道はなくなった。



「……前にも似たようなことがあったね。あれは……」


 闘技大会の決勝前夜のことだ。私に命を預けてほしいと頼んだら、ラームはマユといっしょに服を脱ぎ始めた。『命にも等しい大切なものを捧げる』つもりだった二人を慌てて止めて、事なきを得た。


「あの夜は惜しくもごまかされてしまいましたが、ずっと狙っていましたから……ジャッキー様と一つになる時を」


 今のラームはとても色っぽくて、とても子どもには見えない。私の理性は完全に失われそうになった。

 

「温泉や祝勝会で皆さんといっしょに軽い悪ふざけをしたことはありましたが、今日はいよいよ本番を……」


「………!」



 私の服も脱がそうと、ラームの手が伸びる。ところがその手は掴まれ、寸前のところで阻止された。


「ど、どうして邪魔を……」


「そこまでです、ラーム」


 流されかけていた私は動けずにいた。そしてこの部屋には三人しかいないのだから、ラームを止められるのはトゥーツヴァイだけだ。ラームの背中を押していたはずの彼女が意外な行動に出た。



「……今夜が正真正銘初めての日ではなかったのですか?聞いていた話と違いますね」


「あはは……は、初めてですよ。これまで何度か試してみたけど失敗してますから」


「何度も試してみた……?そんな軽々しい気持ちで乙女の証を捧げようとしたのですか?一生に一度のことだというのに!」


 ラームとトゥーツヴァイが揉め始めた。トゥーツヴァイの怒りの理由は、ラームが自分を大切にしていないというところにあるらしい。


「ぼくだってちゃんと考えました!ジャッキー様はそれに値する方だとわかったからこそ……」


「あなたの決意は勢いだけです。あなたはまだ幼く、これは人生を大きく左右する決定になるのですから、もう一度よく考えなさい」



 ラームはオードリー族にとってとても重要な存在で、雑な生き方をされたら困るのはわかる。ラームが何度も私に迫っていることを知り、どこまで本気なのかを疑っているようだ。


「ジャッキー様を愛しているからこそ、繰り返し誘惑するんじゃないか!いつかうまくいくと信じているし、現に今!お前が止めなければ成功したのに!」


「半端な気持ちでは二人とも後悔します。時間はまだたくさんあるのですから……」


 敬語が消えるほど熱くなっているラームに対し、トゥーツヴァイはいつも通りだ。落ち着いているトゥーツヴァイのほうが正しいように見えるけど、実は違う。


 ラームの思いが本物なのは私が一番よくわかっている。もはやじっくり考え直す必要はない。誰の目から見てもそれは明らかなはずで、トゥーツヴァイは過剰に干渉している。ラームのためを思っているとしても、心配しすぎだ。



「あーもう!いい加減にしろ!別にぼくのお母さんってわけじゃないんだからさ、好きにさせてよ!」


(おおっ、いろいろな感触が……)


 しばらく言い争いが続いた末に、とうとうラームがトゥーツヴァイを突き放した。私の腕に抱きついたラームは何も着ていないから、なかなか刺激的だ。



「………はい。そう……ですね。私はあなたの親ではありません。私の姉夫婦が遺したあなたを見守っているだけなのに、出過ぎた真似を………」


「……ん?」 「そ…そんなに落ち込まなくても」


 ここまでトゥーツヴァイが沈んでしまうとは私もラームも予想外だ。そんなにショックだったのか。



「もう二度と……このような愚かなことはしません。あなたが望むなら……今すぐ目の前から消えましょう」


「いやいや、もう怒ってないから!これからもいっしょにジャッキー様にお仕えしようよ、ねっ?」


 トゥーツヴァイは本気だと思ったのか、すぐに態度を変えて仲直りしようとするラーム。お父さんやお母さんとの口論中にこんな感じになったら、やっぱりこっちが折れるしかないのは私も経験済みだ。


「ラームだってそう言ってますし、三人で寝ましょう。明日にはいつも通り仲よしですよ」


「……ありがとうございます。ジャクリーンさんとラームの優しさのおかげで救われました」


 一つのベッドに三人で入り、のんびりと話をしながら眠る。ラームが『一番大切なもの』を差し出すのも今日はとりあえずお預けとなった。


(……この配置でいいのかな?)


 ラームが真ん中にいるべきなのに、なぜか私を中心にして寝る気だ。まあ二人がそれでよければと、私は何も言わなかった。




「ふぅ…ふぅ」


(ラームの熱が……呼吸が……心臓の音まで!)


 ラームは裸のままだ。それなのに正面から抱きついてきて、グイグイくる。


「ジャッキーしゃま………んっ」


 そして何度も繰り返されるキス。私は服を着ているから、ぎりぎり最後の一線は越えなかった。



(………そしてこっちも………)


 前だけでなく、後ろからも抱きつかれている。気がつくとトゥーツヴァイも何も身に着けていなかった。私の背中に顔を埋めながらトゥーツヴァイは小声で呟いている。


「ラーム……母ではなく女としての喜びを選んだ私を許してください………」


(たまに息が耳に当たるんだよな……)


 トゥーツヴァイが実のお姉さんの代わりにラームを産んだなんて当然私は知らない。トゥーツヴァイの言葉の意味を考える余裕はなく、前後から与えられる刺激に興奮しながら眠れない夜を過ごした。

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