トゥーツヴァイの確信の巻
「どんな感じで発動するのかその時になってみないとわからない?命が危うい場面でそんな不確定なもの、怖くてとても頼れませんよ!」
「ぐっ……しかしこれで命を救われたという実例がいくつもある」
互いの手のひらを傷つけて特別な契約を結び、ライバルたちを出し抜いたはずのサキーを待っていたのは大誤算の嵐だった。傷はほとんど見えなくなり、私がどう強化されたのかもわからないままだ。
「それは正式に剣聖や聖女と認められた二人が結んだ契約の話でしょう?今回は違いますよね」
「ただの真似事に過ぎないのでは?」
サキーは何も言い返せない。成功を証明できないのだから、強気になれる材料は一つもない。
「………くそ〜~~っ!!」
床を叩いて悔しがる。サキーの左手も何かが起きる気配はなく、今日は諦めるしかなかった。
「次は私とやりましょう。この力のことは忘れて、それ以外の能力を磨いていくべきです」
「能力を使わない戦い方の練習も疎かにはできません。私たちがジャクリーンさんに合わせますよ」
みんなは短い時間で交代しながら私の相手をしてくれる。私の体力が切れるまで豪華な模擬戦が続く。
「それっ!まだまだ!」
「今度は私が相手だ!いくぞっ!」
レベルの高い仲間たちとの練習は、疲れるけど楽しい時間だ。内容の濃い一日になった。
「ひ〜~~っ……もうだめ………」
「まだいけます!あとひと踏ん張りできます!」
普段は過保護なみんなが、私に楽をさせようとしない。命がけの戦いと練習の違いだろう。
「………」
リングの下からラームがじっと私たちを見つめていることに気がつかなかった。熱い空間の輪に入れず、ラームの心は沈んでいた。
(ぼくがジャッキー様にあげられるものは………)
道場から宿屋に戻り、今日もたくさん食べて飲んだ。このまま早く寝て明日に備えようと考えていた。
「……失礼します。少しお時間よろしいですか?」
トゥーツヴァイに誘われて、彼女の部屋に向かうことになった。最近の流れからすると、もしかしたらトゥーツヴァイも私に能力を渡すつもりなのだろうか?
(あれ?でも確か………)
オードリー族は自分の能力を他人に渡すことはできないと昼間に言っていた。別の用事があるのかもしれない。
(ラームのことかも。悩んでいたようだし)
部屋に入ると、トゥーツヴァイはすぐに扉を閉めた。私以外には見せたくないもの、聞かれたくないものがあるような感じだった。
「うっ!眩しい!」
「………」
突然トゥーツヴァイの両手が眩しく光った。すぐに腕でガードしながら目を閉じたけど、視界がおかしくなった。
「と、突然何を!?」
「申し訳ありません、ジャクリーンさん。あなたに危害を加える気はなかったのですが、加減ができずにこうなってしまいました」
トゥーツヴァイが頭を下げているのがぼんやりと見える。奇襲攻撃というわけではなかったらしい。
「この光そのものに意味はありません。身体には無害で、すぐにあなたの目は元に戻ります」
「そうなの?よかった……」
「これから私がジャクリーンさんに与えるパワーが溢れてしまっただけです。あなたの高みを目指す歩み……私にも手伝わせてください!」
トゥーツヴァイが光った両手で私の腕を掴むと、そこから何かを私の中に流し込んできた。
「おおおっ!?これは!?」
「私の能力はオードリー族としてのものではなく、自分で修行を重ねて得ました。この力をそのまま渡すことはできませんが、必ずジャクリーンさんの役に立つでしょう!」
必ず一つは特殊な能力を持つオードリー族でありながら、トゥーツヴァイは何も使えないまま大人になった。それを補うために仲間たちの数倍は鍛錬し、高い戦闘力を手にしていた。
そしてついに他者の能力を無効化する力を身につけた。生まれつき持っている能力や加護を封じ、互いに自分が努力して得た技術や魔法、パワーやスピードだけを頼りに戦う勝負を強いる。トゥーツヴァイのためにあるような能力だった。
「おそらくこれがなければ魔王には勝てず、ラームの眼前であなたは死にます。あの子の悲しむ姿、何より私の愛するあなたの死を見たくない!」
「………!!」
トゥーツヴァイの思いが詰まった謎の力が私の中で満たされていき、完全に身体の一部になった。
「……流れが止まった………」
「説明しましょう。これでジャクリーンさんは能力を無効化する力を無効化できるようになりました。それが今、私が渡した能力です」
「………??つまり?」
私の頭が悪いせいなのか、理解できなかった。『能力を無効化する能力を無効化する能力』……同じ単語が何回も繰り返されて、言葉遊びのようだ。
「私の能力はジャクリーンさんに効かなくなったということです。あなたの中に眠る大聖女の力を使えないようにする様々な術から完全に守られると思ってください」
「私の大聖女の力か……100あるうちの98か99はマキが持っていて、私はその残りしかないけどね」
「その1か2が運命を分けることもあるでしょう。特に魔王との戦いでは必ずそうなると、長く生きている私から忠告させてもらいますよ」
私が試合を決める必殺技を使う時、大聖女の力が働いている。だからこの力を封じられたら困るのは確かだけど、必殺技を出せる段階までいくほど魔王相手に善戦できるのかは疑問だ。
「でも……こんな能力を私に渡すということは……」
「はい。私がジャクリーンさんに勝てる可能性はかなり低くなりました。ですがそれで構いません。オードリー族こそこの世で至高の存在だと信じていた私が認めたのです、ジャクリーン・ビューティこそ我が命を捧げるにふさわしい人物だと」
知らないうちにとても高い評価を受けていた。私のどこを見てそう思ってくれたのか気になるところだけど、聞かないほうがよさそうだ。冷静に考えてみたら別に……なんてことになったらお互い気まずくなる。
「そしてもう一つ、あなたならラームを幸せにしてくれると確信しました。あの子を託せるという信頼の証として、この能力を渡したのです」
「ラームを……」
「さあラーム、あなたが持つ最高のものを差し出す時が来ました」
トゥーツヴァイが手を叩くと、暗い部屋の奥から誰かが近づいてくる。その正体はもちろんラームだ。
「……………」
とても薄着で、顔を赤くしていた。そんなラームが私にあげようとしているものは………。
接戦の演出もあまりやりすぎると面白くないと教えてくれたのが今年のG1クライマックス。日程が後半になればなるほど勝敗が読めてしまう露骨な点数調整は見ていてシラケます。
一方で独走しすぎる存在がいても面白くないと教えてくれたのが今年のセ・リーグ。ここから阪神が8月全敗、DeNAが全勝となれば少しは楽しくなりそうですが。




