ジュエルの正体の巻
「飲め飲め!踊れ踊れ!」
「まだまだ始まったばかりだぞ!」
剣術大会が終わると大きな宴会が始まった。街の人々の盛り上がりを見ると、こっちがメインだった?と聞きたくなる。
「まさか勇者に勝っちまうとは……あんた、凄い剣士だったんだな!」
「………いや……」
「あなたの実力を疑ってすいませんでした。これからはもっといい仕事をお願いできそうです。受けてもらえますよね?」
優勝したマダラは大人気だ。猫のジュエルも食べ物をたくさんもらって満足そうだ。
「婿殿の弱さには呆れ果てました。まあ今に始まったことでもありませんが」
「まあまあ母上。帰る前に新しい服でも見ていきましょう。ほら、あの人が隠していた金貨!庭に埋めているのを持ってきました」
シュスイさんががっくりと項垂れる姿が簡単に想像できる。大会で上位に入ってお金を稼いでも、この二人に差し出すことになっただろうから気の毒だ。真面目に戦う気がなかったのも仕方ないか。
「試合もその後の宴も最近はあまり盛り上がらなかったから、今回は久々に大成功と言えるだろう。ザワ、お前があの方々を連れてきてくれたおかげだよ」
「真の革命には何かが足りない……そう思っていた時にあいつらが来たんだ。見えない大きな力がおれたちの背中を押していると感じたね」
私たちがアーク地方に来て数日、少なくともオナードの街は変わった。熱気と活力に満ち、未来への希望によって明るくなった。
「おれたちの組織もついに計画を実行に移せる。同じ改革派のリョーマが率いるジャスト・ア・ローニンもそろそろ大きなことをやりそうな雰囲気だしな」
残念ながらその革命を止めに来たのが私たちだ。リョーマはそれを見抜いていたし、ザワは私たちをうまく利用しようと企んでいる。できれば誰の血も流れない結末を迎えたい。
「サキーはやっぱりいないね……」
「優勝して当然の大会で敗退……相当ショックでしょうね。もう宿に戻ってしまったのでは?」
真っ向勝負で負けたわけではないとはいえ、勇者サキーの名前に傷がついてしまった。怒り、悲しみ、悔しさ……それ以外にもいろんな悪い感情に襲われているだろう。
「心配だからサキーのところに行ってくるよ」
「それがいいですね。最高の薬になるでしょう」
どう慰めていいかわからないけど、そばにいるだけでサキーを癒やせるはず。お酒と食べ物を持って宿屋に向かった。
「猫のこと、サキーに教えてあげられたら……いや、結果は同じか。猫を使って戦うわけではないし……」
私がどう頑張ってもサキーを勝たせるのは難しかった。サキーたちが試合中に見たと主張する猫の謎は最後までわからないまま……のはずだった。
「ん?入口に誰かいる……」
ところがその秘密はここで明らかになることになった。宿屋の入口で私を待っていた、白髪の美人な女の人によって。
「ジャクリーン・ビューティさん……」
「えっと………どなたですか?」
その人は優しく微笑む。着ている薄手の服も真っ白で、天使のようだった。
「私ですよ、ジュエルです。信じられないかもしれませんが、さっきもお会いしたあの白猫ですよ」
「………え?」
「どちらの姿の私も本物の私。マダラさんの前ではこの姿になることはありませんがね」
ジュエルは普通の猫ではなかった。私の頭はその衝撃についていけず、しばらくまともに働かなかった。
「私が魔物なのか神獣なのか、そんなものはどうでもいい問題です。自由に二つの身体を使い分けることの他にも、煙のように移動できる能力がある……それをあなたにだけは話しておかなければと思い、ここに来ました」
「煙のように移動………なるほど」
マダラの服の中に猫がいたというサキーたちの訴えは正しかった。マダラも気がつかないほど僅かな瞬間だけ中に入り、相手を驚かせたらすぐに出ていく。証拠は何も残らない。
「マダラさんはいつも私に優しくしてくれます。いつか恩返しをと思い、こんなことをしてしまったというわけです。直接お礼を言えないので……」
「人間……ではないか。とにかくその姿でマダラといっしょにいればいいんじゃない?」
「ただの猫だからマダラさんは私をそばに置き、愛を注いでくれるのです。とっても恥ずかしがりで人見知りですからね。私の正体を知ればどこかへいなくなってしまうかもしれません」
私はマダラたちと今日初めて会ったから、無責任なことは言えない。それでもこのままではいけないとジュエルもわかっているはずだ。
「どうして私だけに教えようと?」
「一回戦のサクマア、準決勝のサリーは私が余計なことをしなくても勝っていたでしょう。しかし決勝だけは普通に戦えば負けていた……だから彼女の仲間であるあなたには話す必要があると思いました」
わざわざそのために私たちの宿屋を探してきたのだから、反則をしたとはいえジュエルは誠実だ。黙っていれば誰もわからなかったというのに。
「それともう一つ……今のうちに謝っておかなければ、ジャクリーンさんが王権を手にされた時にマダラさんの身が危うくなるかもと怖くなったからです。悪いのは私で、あの人は何も知りません。どうか……」
猫という生き物はもっと自由気ままで、自分を犠牲にしてまで人間を愛することはないというイメージを持っていた。普通の猫ではないのだから違うのは当たり前とはいえ、これなら応援できる。
「まずありえないことだけど、もし私が王様になったら……二人でお城に来てよ。サキーに勝ったんだから、それにふさわしい待遇を用意して待ってるね」
「ジャクリーンさん……!」
「ただし飼い主と飼い猫ではだめだね。猫になる時間があってもいいけど、ちゃんと『二人』で!」
「………わかりました。私が勇気を出すことがマダラさんのためになるのなら………背中を押してくれてありがとうございます」
ジュエルは姿を消した。愛するマダラのところへすぐに戻るためには能力を出し惜しまなかった。
「さて………ここからが本番だ」
宿に入り、サキーがいる部屋に案内してもらう。部屋の扉を開ける前から空気が重く、とても淀んでいるのがわかった。
セ・リーグもついに指名打者制導入!数年前ならその恩恵を最大限に受けるのは横浜でしたが、再来年のことは誰にもわかりません。




