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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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正妻アピールの巻

(どんどん入って……ん、けっこう甘い……)


 強制的に口移しで流し込まれるゼリー。おそらくマユの身体と思われるこの物体を飲み続けたらどうなってしまうだろう。呑気に甘いとか考えている場合ではない。


「こいつ!ジャッキーから離れろ!」


「お姉ちゃん!今すぐそいつを殺すから……」


 マユの暴走を止めようと、みんながリングに上がってきた。私とマユがくっついた状態では手出しできないから、まずは引き離すことからだ。



「………」


「ぶはっ!!げほっ………」


 みんなが迫ってくるとマユは私を解放した。しかしみんなから逃げるためではなく、すでに『スライムになってもらう』ための行為を終えていたからだった。


「ジャッキーに何をした!」


「スライムにするとか言っていましたが……?」


 今のところ私の身体に変化はなく、違和感や気分の悪さもない。あれはただのおいしいゼリーだったのかもとすら思った。



「……ジャッキーさんには私の身体の一部を受け取ってもらいました。あらかじめコップに入れたものを飲んでもらうこともできましたが……せっかくですからキスしながら……」


「必要ないんだったらやめろよ!そもそもどうしてこんなに人を集めたリングの上で……」


「今回の旅ですでに数人の方がジャッキーさんに能力を分け与えていると聞き、私も負けていられないという気持ちが強くなり……この舞台を利用させていただきました!」


 最初から狙っていたようだ。私があんな勝ち方をしなくても、適当な理由をつけてこうしていたに違いない。


「ジャッキーさんの何が変わったのか、ちょっと組んでみればわかります。皆さん、一度下がってください」


「………」 「………」


 今のマユには勢いがある。その一言でみんなが大人しく戻っていった。私の身体に何が起きたのかを確かめたいというのもあるようだ。



「試合をやり直すことはしません。ですがジャッキーさんの新たな力を知ってもらうために……まずは私に技をかけられてもそのままでいてください」


 マユの技ということは、きっと関節技だ。極められたら脱出不可能だからその状態にならないようにする必要があるけど、ここは言われた通りにしよう。


「わかった。ここからどうするの?」


「こうします……てやっ!」


 私の右腕に全身を使って巻きついてきた。一点集中の破壊技で、マユがその気なら簡単にへし折られてしまう。助かる方法はギブアップだけだ。



「こんなところから脱出なんて……いだだだっ!?」


 形だけだと思ったら、マユは本気だ。


「できます!さあ!」


「う……うお――――――っ!」


 できるできないではなく、やるしかない。絶体絶命のピンチから全身全霊で抜け出してみせる!自分のため、何よりマユのために。



「うおりゃ―――――――――っ!!」


「こ、これは………!」


 私の腕がぐにゃりとなった。骨が折れたわけではなく、骨がなくなったような感じだ。まさにこれは……。


「よしっ!抜けたっ!」


「いや、ジャッキー様!その腕は………」


 紛れもなくスライムボディだ。ありえない方向に曲がり、技をかけるのも抜け出すのも自在な柔らかい腕になっていた。



「わ……私もスライムに………あれ?」


 気がついたら普通の腕になっていた。ダイがくれた鎧のように、役目を終えたら元通りになるらしい。


「これで必要な時にはジャッキーさんもスライムボディになれます。全身というわけにはいきませんが、チャンピオンの座はますます安泰でしょう」


「ありがとう……大事に使わせてもらうよ」


 関節技や寝技が得意な相手を苦手にしていただけに、スライムボディがあればかなり助かる。ほとんどの技はこれで対処可能だ。




「おお!王になるお方がますます強くなったぞ」


「この感じからすると……正妻は彼女なのか?」


 見守っていた観客たちから祝福の歓声が起こる。これがマユの一番の狙いだった。皆の前で堂々とキスをする仲だというアピールは大成功だ。


「……後で……いや、やっぱり今殺そうかな」


「お、落ち着いて!マキ!」


 マキ以外のみんなもリングに上がり、『マユだけが王の特別ではない』、『自分のほうが……』などと主張し始めた。最終的にどうにか仲間割れは避けられたものの、戦いはますます激しくなりそうだ。






「なるほど。今のジャッキー様はまさに鉄壁、余程のことがない限り倒れないと……」


 物理攻撃、魔法、状態異常……さらに関節技や闇の力まで防げる。ビューティ家の家宝と呼べる防具すら、もういらないかもしれない。


「守りは強固になればなるだけよいものです。やりすぎということはない……」


「魔王の攻撃も耐えられそうな気がしてきたよ」


 魔王に一度も攻撃させずに勝つのは絶対に無理だ。これくらいの防御力があってようやくまともな勝負になる。



「魔王?まずはゲンキ・アントニオとその手下どもだろう。あいつらを一掃して王国を自分のものにすればますます万全になるぜ」


 アントニオ家との対決を重視するようにとザワは言う。魔王に負けたら誰が王様でも同じことで、魔族に支配権を奪われる。お城のそばも遠く離れたアーク地方も同じように暗黒の時代が始まってしまう。


「いや、魔王との戦いに専念すべきだ。同じ国の人間同士で争っている場合じゃない」


「どうかな……あいつはあんたを恐れているはずだ。自分よりも優秀な仲間を集め、民に愛され、強くなっていくあんたに王座を奪われるかも……とね」


 ビューティ家と王様の関係は確かにあまりよくない。現役時代からライバルだったお父さんはお母さんといっしょになって挑発を重ね、マキはマッチョ王子との婚約が破棄されるレベルで目に余る行動を続けた。



「……あんたらを亡き者にするために魔王と手を組むこともありえる!確かに忠告しておくぞ。金と権力に固執した年寄りは何でもやるからな」


 ザワがこんなことを言うのは、私たちに疑いの心を植えつけるためだ。いくら王様がビューティ家とチーム・ジャッキーを嫌っているとしても、それはない。


「まさか……冗談が過ぎるよ」


「そうだな。今はまだ何もないかもしれない。この先どうなるかはわからないが」


 みんなもザワの口車に乗らなかった。ただし全てを退けたわけではなく、不穏の種は残ってしまった。

 弱すぎるチームの選手は価値がなく、応援するファンも意味がない。キッズたちにその現実を教えるだけの試合が続く横浜DeNAベイスターズの未来は暗く………。

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