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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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マユの抗議の巻

 私とマユの練習試合が今日最後、つまりメインとなる一戦だ。マユはスライムボディを使った関節技や回避からの反撃を得意とする技巧派で、私の攻撃はなかなか当たらない。


(盛り上がらないだろうな……)


 普通の練習なら盛り上がりなんかどうでもいい。でも今は街の人たちをたくさん招待していて、リングを使った戦いを楽しいと思ってもらうためにやっている。


「やっぱりマキの試合をラストにしたほうがよかったんじゃ……」


「何を言っているんですか。この観客たちは全員ジャッキーさんを見るために来たんですよ?派手な動きがなくても平気ですよ」


 マユが励ましてくれる。しかし冷静に考えてみると、私の人気が落ちたとしてもむしろ喜ぶべきことだ。私を王様にしようとする話が消えて、ジェイピー王国の平和が守られる。


 私ではなくマキやサキーの強さに憧れてリングに興味を持ってもらえたらいい。仮に今日この場はうまくごまかせたとしても、いつかは誰が本物なのかはっきりする。



「私もしっかりやりますよ。大勢の観客たちの前で見せたいものもありますからね……」


「……えっ?ああ、うん。頑張ろうね」


 マユが見せた謎の笑み。その意味を理解できないまま練習試合は始まった。



「ふんっ!てやっ!」


「ふふふ……」


 私の攻撃は全て寸前で避けられる。深追いするとすぐに腕や腰に巻きつかれて劣勢になるから、攻め続けるのは難しい。


「今度は私から……」 


「おっと危ない!油断できないね」


 今のマユは普通の人間とほとんど同じ外見をしている。そのせいでスライムボディのことを時々忘れてしまい、人間ならできない動きに翻弄されることもある。



「あの少女のほうが余裕を持って戦っているように見える。胸を貸していると言うべきか……」


「ジャクリーン・ビューティ……調子が悪いのか?」


 予想通りの反応だ。初めて観戦する人たちでもわかるほどマユが優勢だった。



「……しまった。つい私ばかり……ジャクリーンさん、そろそろ反撃してください!うまくやりますから!」


 マユが焦っている。私の評価を落とせば、どんなにいい試合をしてもマユにとって大失敗の結果だ。


「いや、このままやろう。不自然な動きはすぐにわかる。これまでの全てがインチキ扱いされちゃうよ。ニュー・セレクションやコンゴーに勝ったのも実は仕組まれていたと思われて……」


「……なるほど。今日はたまたま、ということにしたほうがいいですね。では!」


 ニュー・セレクションは死人が出たし、コンゴーは粉々になった。あれが台本のある戦いだと考える人はいないだろう。しかし今のマユは平常心を失っているから私にうまく騙されてしまった。



「………はっ!?」


 私が敗北を受け入れたと勘違いしたマユは、技の始動が鈍かった。隙だらけのところを丸め込み、逃げられないように捕まえた。


「カウント!」


「あ…ああ!ワン!ツー!スリー!」


 電光石火の3カウントが入り、私の勝ち。内容が悪く、勝ち方としては最低だ。観客たちはがっかりするだろうと思っていた。



「なるほど……あえて弟子に気分よく攻めさせていたのか。これは練習だ、受けに回っていたのだな」


「余計な力を使わず一瞬で逆転勝利!技や能力を見せつけるだけが真の強さではない……流石だな」


 私の苦し紛れは『円熟』や『貫禄』、『達人』という言葉で称賛されてしまった。目が肥えている観客ならこんな反応はしない。


「頭脳は優秀、後進の育成にも積極的……これ以上王にふさわしい人間がいるだろうか!いや、いない!」


「アントニオ・ゲンキなどという無能クズを早く追い出し、この方を王にしろ!」


 開始数秒で瞬殺、もしくは明らかな無気力試合でもない限り、この流れを変えることはできない。しかしチーム・ジャッキーのみんなも私を王様にしたいと思っているのだから、そんな試合には協力してくれないだろう。




「ちょっと待ってください!納得できませんよ、こんな終わり方!」


「あれ?マユ?」


「ジャクリーンさん!騙し討ちも同然の勝利に何の価値があるのですか!あなたほどの人が……」


 ところがマユはこの展開を受け入れようとせず、猛烈に抗議し始めた。確かに怒りたくなる結末ではあるけどこれは練習だ。しかも街の人たちが私を褒め称えている最中にそれを遮っているのだから驚きだ。


「……マユさん?急にどうしました?」


「いい雰囲気だったのに……何を考えている?」


 みんなもマユの抗議に困惑している。自分から和を乱すようなことはまずしないマユが突然暴走した。



「道場にお集まりの皆さん!ジャクリーンさんは私に不覚を取る寸前でした!私なんかに苦戦している人がこの国の王?無理でしょう!」


 マユは止まらない。流されやすい観客たちはマユの言葉に頷き、私を疑い始めた。


(まさかマユ、私のために……!)


 王様になりたくない私の気持ちを尊重して、わざと私を下げるようなことを……と喜んでいたら、話は思わぬ方向に進んでいった。



「ですからそのために必要な力を……私がこの方に渡します。皆さん、ぜひご覧ください!」


「えっ?」


 マユは私の目の前に立つと、スライムボディを伸ばして足を長くした。私と全く同じ目線になった。



「人間と結婚したスライムは長い歴史の中でも僅かしかいません。年齢や性別は様々で、私のような人型もいれば言葉を話さず地を這う者もいました」


「………どうしてそんな話を?」


「しかしその者たちは結婚の前に必ず同じ儀式をしています。それは……」


 マユが両手で私の肩を掴む。この流れ、アーク地方に来てからもう何度目だろう。何度味わっても興奮する、愛する人からの………。



「相手の人間にもスライムになってもらうことです!さあ、ジャクリーンさんも!」


「!?」


 唇を合わせるところまでは想定内だったけど、そこから先がとんでもなかった。マユの口からゼリーがたくさん流れてきて、どんどん送り込まれてくる。


「むぐ!?むぐ――――――っ!!」


 これはマユの身体の一部なのだろうか。それを私に飲ませ、体内に入れることで『スライムになってもらう』つもりのようだ。

 【悲報】横浜DeNAベイスターズ、弱い

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