二対二の戦いの巻
『この地域を支配しようと乱入した魔物たちが現れ急遽予定変更!魔物コンビを倒すのは我らが英雄、S級中のS級冒険者サキー様!あっ、ついでにおまけもいます』
「コラ―――!ジャッキーをおまけとは何だ、悪徳ギルドマスターのサンシーロ!覚えとけよ!」
お父さんの声が響いている。審判兼実況のサンシーロさんとこの試合後にリングで戦いそうな勢いだ。
(そんなことより……)
外で見守る私はどうするのが最善か、対戦相手から勉強しよう。何もしなくてもサキーなら優位に試合を進めるだろうけど、力になれることはあるはずだ。
「こいつでパワーアップだ、ウミ!」
「……ハナ!ありがたい!」
巨大な大男の魔物二人組、リングで戦っているほうが『ウミ』で、外で控えているほうが『ハナ』か。よく見ると似ているし、兄弟なのかもしれない。今日初めてタッグを組んだ私たちよりこの戦いに慣れていると考えていい。
サキーのスピードについていくのは諦めて、素早さを犠牲にする代わりに筋力を大きく強化する魔法を使ってきた。一撃が重くなるから要注意だ。
(戦いに手を出せなくても魔法で援護できる!それなら私も!)
こっちはスピードアップだ。相手の強烈な攻撃は空振り続き、サキーの剣技が魔物の体力と気力を削っていく試合にしたい。弱い魔法しか使えないけど、ほんの少しの後押しでサキーは勝てる。
「サキー!スピードで圧倒しよう!」
「ああ、助かる………あれ?」
速力上昇の魔法を発動した。ところが無事に発動したのが私の限界で、魔力の波はサキーに真っ直ぐ向かうことはなく………。
「………ああっ!」 「げっ!!」
「おっ!?少し体が軽くなったぞ!」
『なんてことだ!大聖女の姉だというのに無能すぎる!自分の魔法をコントロールできずに相手を助けてしまった――――――っ!』
最悪だ。ウミの弱点がなくなった。
「……ジャッキー。何かしてもらいたい時は私から言う。それまでは待機してくれ」
「わ、わかった。ごめん………」
サキーの邪魔をしないように大人しくしていよう。取り返しのつかないミスを……と嘆いていると、不幸中の幸いと呼べることが起きた。
「うーむ……マジでほんの少しだけだ。こんなのもらったところで意味ないぜ!」
「くそっ!ぬか喜びさせやがって!」
貧弱すぎてほとんど影響はないなんて、喜んでいいのか悲しむべきなのか。皆で脱力した。
「はっ!タァ!」
「ぐぐ………つ、強い!」
『サキー様が華麗な剣さばきで圧倒!戦いを支配しているぞ!無尽蔵のスタミナと異次元のパワーを誇る魔物がかなり消耗している!』
ウミのダメージが蓄積する一方で、サキーはいまだ無傷。力の差は歴然だ。
「くそっ!これ以上好きにさせるか!」
『劣勢に痺れを切らしたハナがリングに入る!しかしこれはいけない、タッチをして交代するのが正式なルール!二人がかりの攻撃は反則だ!』
邪魔者を排除するのが私の役割だ。直前の試合でも、交代をせずにリングに入ろうとした敵をテンゲンさんがカットして外に落とした。
(ハナの相手は私がやる!サキーには目の前のウミに専念してもらう!)
「うおおおお――――――っ!!」
『バカ……いや、ジャッキーもリングに入った!』
私がハナを無力化させることができればそのうちウミはギブアップする。全力で足止めだ。
「ぐっ……ぬぬぬ」
『片手で止められた!弱い!弱すぎる!』
頭を掴まれた。体格とパワーの差を実感させられる。
「………」
「うわっ………」
『あまりの手応えのなさにハナ、無表情のままジャッキーを投げ捨てる!あっと、リング下に転がり落ちた!』
リングから落ちた時に腰を痛打した。しばらくは立ち上がれそうにない。
「ジャッキー様!」 「ジャッキーさん!」
「ううう………」
『役立たずが完全に戦線離脱!リング上はサキー様一人に対し魔物は二人、これはまずいぞっ!』
サキーが孤立した。魔物たちがますます大きく見える。
「お前はずっと一人で戦っているが俺たちは自由に交代できる!タッチだ!」
「よし、少し休ませてもらうぜ」
「………」
疲れたらもう一人と代わって立て直してくる。ずっと優勢でも押し切れず、一対二で戦い続けるサキー。異変が見えたのは試合が始まって15分くらい経過した時だった。
「ぐ、こいつ………」
「どうした、でかいだけの能なしチーム!そろそろ決めるとするか……」
「な…何言ってやがる。そろそろ終わるのはお前のほうだ。そのスピード、だいぶついていけるようになったぜ!」
サキーは相手のパンチやキックを全て回避し、確実に攻撃を当てていく。魔物たちの限界は近いはずなのに、決定打が出る前に動きが鈍くなった。
「………ちっ!」
『サキー様の攻撃が外れた!これは………』
この好機を逃さなかったのは魔物コンビだ。一発食らわせたら勝ち、その思いで戦っていた二人が動いた。
「俺たちは双子!合体技なら誰にも負けない!」
「………!」
ウミがサキーを捕まえて肩車する形になった。どうにか逃げようと不安定な体勢から頭を殴ってもウミは動じず、自分たちの陣営へ歩いていく。
「くっ……動けない!」
「もう遅い!俺たちの必殺技でお前は破滅だっ!」
ハナがロープを支える鉄柱に上がっていた。そしてウミの足が止まる。
「くらえっ!破滅の一撃――――――っ!!」
「サキ――――――っ!」
鉄柱からハナがサキー目がけて飛ぶ。大木のように太い右腕でサキーの喉を振り抜いた。
「……かっ………」
『サ……サキー様がやられてしまった!体当たりではなく腕を叩きつける激しい打撃!た、立ち上がれるのか!?』
魔物兄弟の前にサキーがうつ伏せで倒れる。絶体絶命だった。
藤の花と藤の海、あれだけ強くても十両にすら上がれないとは……相撲は厳しいですね。この二人のように元力士がプロレスラーになることは最近でもありますが、幕内クラスが転向というのは全くなくなりましたね。




