公開練習の巻
コンゴーを倒した私たちは街の中心に帰ってきた。すでに私たちが話題の中心になっていて、これまでのように自由に行動するのは難しい。
「この国を……世界を変えてください!救い主様!」
「ジャクリーン・ビューティに栄光あれ!」
とてもまずいことになっている。アントニオ家の支配を脅かす動きがあるかを調べるためにアーク地方に来たのに、気がつけば私がその先頭に立っていた。
(……もう手遅れ?いや、まだ……)
いつか自分で否定すれば騒ぎも収まると思っていた。しかしこんなに燃え上がった炎を消すのはかなり苦労しそうだ。
「………そうか。いよいよ来るな、おれたちの時代が」
ザワが革命軍の仲間と何かを話している。その内容を隠すことなく、すぐに私たちに教えた。
「あんたらの活躍は遠くの地、つまりおれたちと同じ信念を持つ方々に届いた!」
「……どういうこと?」
「アーク地方の支配者が数日もしたらここに来る!おれたちのボスもいっしょにな!こっちから足を運んであんたらを紹介しようと思ったが、わざわざむこうが来るんだ!時代が動くぞ!」
今回の旅で最も重要な日になりそうだ。王国の平和を守るために、失敗は許されない。
「シラヌイ殺しの犯人はまだ捕まらないが、道場は再開している。顔を出してみるか?」
「いいね。リングがあるし、少し汗を流していこう」
戦闘になっても参加させてもらえず、ついに戦えると思ったら相手の魔物は弱すぎた。そろそろ練習しないと腕が鈍る。
「おれも行こうかな。ムカつくシラヌイは死んだし、辞めるきっかけになったクズどももいなくなったみたいだからな」
「指導が厳しすぎるとか言っていたな」
「思い出すだけでもイライラするぜ!『ペラピー』に『キタミ』……ま、あいつらもすでにこの世には………おっと、喋りすぎちゃったかな?」
やはりザワはシラヌイさんの死に何らかの形で関わっている。共に過ごすうちに距離が近くなったように思えても、要注意人物であることに変わりはない。
「リングでの戦いをこの地域に広めるためには、チャンピオンが先頭に立ってアピールすべきだ。観客をたくさん入れよう」
「これが普及すれば道端でのルールなんてない殺し合いは減るでしょう。首都のリングに上がることができればたくさんお金ももらえますし……」
「夢があっていいですね。力を持て余して悪事に走る者たちも生き方を変えるかもしれませんよ」
アーク地方の不景気と治安の悪さを一気に解決できれば素晴らしい。しかしすぐに成果が出ることはなく、早くても数年はかかる。それまで革命を食い止めることができるだろうか。
「さっきはお前に花を持たせたが、道場では容赦しないぞ。訓練にならないからな」
「しっかり鍛えましょう!」
ほんの数日サボった分を取り返すために、かなりの時間が必要だ。しばらくはこの道場を使わせてもらおう。
「タァ―――ッ!」
「フン!ハッ!ハッ!」
道場を自由に使わせてもらえることになった。その代わりに練習生たちの指導もする。
「そこで休むな!自分が苦しくなるぞ!」
「ロープまで逃げて!腕を伸ばして!」
今すぐに闘技大会で活躍できそうな人は当然いない。じっくりと育成して伸ばしていきたい。
「どこまで成長できるかはわかりませんが、闘魂軍の試験に合格するレベルには確実に到達できますよ」
待遇がいいから入団試験を受ける人は多い。人数だけを考えれば狭き門に思えるけど、実は闘魂軍の質はかなり低い。ある程度の強さと頭脳があれば問題なく合格できる。
「安定して稼ぐならそっちのほうがいいかもな。闘技場の戦士や冒険者はいつ死んでも文句は言えない……」
「兵士だって楽じゃないよ。アーク地方の調査に行ったきり帰ってこない人たちもいるくらいだから」
私たちの話を聞き、練習生たちの顔が強張る。決して脅しているわけではなく、事実を知ってもらいたいだけだ。夢を追って首都に出てきても、楽に稼げるおいしい仕事はほとんどない。
「う〜ん……やっぱり細々と畑を耕しているのが向いているのかな?もう少し考えてみよう……」
「いや、私はやりますよ。この街にいたって明るい未来はない。国王を護衛できるほどの立場を目指して訓練を続けます」
反応は様々だ。同じように練習に取り組むとしても、成長のスピードに明らかな差が出るだろう。確かな目標や夢があるほうが強くなれる。
「……いいな、それ。国王のそばで働けるなら……暗殺のチャンスもあるってわけか!」
「………」
それが悪い動機だとしても、その願いが強ければどんどん実力をつけてしまう。すでに闘魂軍にいる兵士たちも全員が正義の心を持っているわけではないはずで、いつ何が起こってもおかしくない危うさは常にある。
「次は達人たちの戦いを見て学んでもらおう!」
「闘技大会の上位選手たちが目の前で戦うんだ、じっくり見ておけよ!」
いよいよ私たちの公開練習が始まった。リングは一つしかないから、順番に上がる。私の出番は最後だ。
「スーパー闘技大会準優勝のマーキュリー、その相手は二大会連続3位の勇者サキー!なんて豪華な練習だ!」
私たちの名前だけでなく、闘技大会での活躍も広まっていた。シュスイさんやザワしか知らなかった王国の中心での出来事が人々に伝わり、街の空気は明らかに変わっている。
「れ、練習にしては激しすぎないか?死んじまうぞ」
「いいえ。あれでも二人とも手加減していますよ」
ニュー・セレクションやコンゴー程度の力でも最強の座を手にするレベルだから、サキーたちの動きを見ればびっくりしてしまうだろう。そのぶんこれからまだまだ発展できる、将来が楽しみな土地だ。
「おお!大聖女様、指一本で投げた!?」
たくさん観客を入れたからか、みんなは派手な技やわかりやすい攻防を選んでいる。これなら初めてリングでの試合を見る人でも楽しめる。
「最後は主役の登場だ!スーパー闘技大会のチャンピオンであり、金山を占拠するコンゴーを粉砕したジャクリーン・ビューティ!国王になるべきお方だ!」
「ジャクリーン!」 「ジャクリーン!」
大きな拍手を背にリングに上がる。観客たちの期待が伝わってくるけど、私がマキやサキーよりも面白いものを見せられるとは思えない。
「ジャクリーンさん!よろしくお願いします!」
しかも相手は堅実に攻めるタイプのマユだ。派手で豪快な内容にはならないだろう。
ペラピー、キタミ……道場でザワと揉めた連中。元ネタのレスラーたちも、OZAWAの憎悪の対象だった。




