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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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拳の王、コンゴーの巻

「……あいつか?洞窟から出てきた」


「あの洞窟が金山でしょうね。魔物がいなくならないと、目の前に金があっても指をくわえて見ているしかありません」


 ついに姿を表した魔物はそこまで大きくなかった。しかし全身が真っ赤に輝き、普通の身体ではないことがわかる。


「光り輝いている……ダイヤモンドかな?」


「ダイヤじゃなかったとしてもかなり高級な宝石ですね。全身でどれくらいの値段になるのでしょう……」


 この魔物を倒したら、確実に身体を砕いて再利用するだろう。金山を掘るよりも楽に大金が手に入る。


 人々がほんとうに困っているから退治してほしいのか、お金目当てなのか、ますます判断が難しくなってきた。その真実を見極めることができるか、国王になる者としての資質が試されている。いや、私はならないから関係ないけど。



「ああ?今日はやけに人間どもがたくさんいるな。しかもクソヤローばかりだ」


「人の言葉を使えるのか……」


 辺鄙な場所にいる魔物だから知性は低いと決めつけていた。先入観が命取りになることもある。


「久々に楽しめそうだな。俺の趣味は人間を嬲り殺しにして食ってやることだからな!」


 しかしこの様子なら、悪い魔物と決めつけてよさそうだ。生きるために仕方ないならまだしも、趣味で人間を殺して食べるというのなら退治されても文句は言えない。



「お前たちの肉を食べて俺の身体はますます硬くなる。お前たちの血を飲むことで更に美しく赤くなる!この俺『コンゴー』の生贄になれ!」


 圧倒的な人数差にも関わらずコンゴーは堂々としている。自分の強さに絶対の自信を持ち、負けるとは少しも考えていない。


「若い女は特に美味だ。さあ来い、まとめて殺してやる!」


「フン、お前なんか私一人で倒せる。いくぞ!勇者の力を味わってみるがいい!」



 サキーが私たちを制し、一対一の戦いが始まった。コンゴーは武器を持たず、魔法を使う気配もない。


「フン!ハァッ!!」


 力任せではなく、拳法のような動きで攻撃してくる。見た目や性格とは真逆で技巧派のようだ。


「……………」


 鋭いパンチの連打やキックをサキーは難なく避けていく。表情を変えることもなく、これは楽勝だと思った。



「ぐあっ!!」


「………え!?」


 ところが突然サキーが吹っ飛ばされた。たまたま攻撃が入ってしまったようだ。


「うぐ………こいつ、強い!」


「どうしました?馬車の中で遊びすぎたんじゃないですか?ここは私が!」


 サキーに代わってマユが戦う。打撃が中心の敵ならマユは簡単に処理してくれるだろう。



「ううっ……!」


「………あ?」


 しかしマユも苦戦している。コンゴーの手数に押されて全く反撃できない。


「こうなったら私たちが組んで……」


 マキシー、フランシーヌ、そしてマーキュリーが三人で戦おうとした。ところが先にコンゴーの前に立ったのは、なんとマキだった。


「マキ!」


「あんな雑魚相手に苦戦してちゃだめでしょ。もうわたしがやるよ。大聖女のマキナ・ビューティが戦えば何の問題もない!」


 自分が大聖女だとマキがアピールするのは珍しい。大聖女の存在は知っていても、マキの顔や名前を知らなかった観客たちは騒然とした。


「大聖女様だと!?本物の大聖女様がこんな場所に来るのか!?」


「俺たちが苦しんでいることを聞いてわざわざ首都から足を運んでくださったに違いない!あの魔物以外にもたくさんの問題があるからな、今は……」


 人々の期待にマキは必ず応え、皆がマキを讃え、崇める。素晴らしい結末が約束されていた。



「あぐっ……!」


「……??は………??」

 

 コンゴーのパンチを食らったマキが片膝をつく。大聖女の劣勢を目にした観客たちの輪から悲鳴が響いた。


「そんな……大聖女様ですら………」


「コンゴーには勝てそうにないのか!?」


 誰もマキの代わりに戦おうはしなかった。マキがだめなら他の誰が行っても無理だからだ。



(マキ………何が目的なんだろう?)


 マキを初めて見る人たちとは違い、私はわかっていた。マキはやられているふりをしているだけで、実はノーダメージだ。かなり手を抜いて戦っている。


「わたしでも厳しいな……しょうがない!ジェイピー王国最強の戦士に戦ってもらうしかない!」


「そうだな!」 「お願いしましょう!」


 そういえばサキーとマユも動きが怪しかった。わざと苦戦を演じているのだとしたら、全てが繋がる。



「わたしのお姉ちゃん、ジャクリーン・ビューティに!」


 あっさりと謎が解けた。コンゴーはおそらくかなり弱い。私が戦っても無傷で勝てるくらいに。そのコンゴー相手にマキたちが芝居をしたのは、私の勝利の価値を上げるためだった。大聖女や勇者が勝てない魔物をジャクリーン・ビューティは倒してしまった、観客たちにそう思わせるのが目的だ。


「……あいつの胴体を思いっきり殴れば終わるよ。あの身体、意外と脆いから」


「……そうなの?それなら……」


 小声で攻略のヒントをくれた。倒し方までわかっているのにわざわざ私に任せるのだから、マキたちも私を王様にしようという思いが強いらしい。




「次から次へと……しかもお前は特に弱そうだ。雑魚の肉なんか食ったところで大して栄養にならないが……死に方くらい選ばせてやる!」


 ここまでの戦いを見ていて、コンゴーの得意技は三つあることがわかった。拳を握って放たれるパンチ、指二本で目潰しを狙う突き、強力な張り手だ。どれもまともに受けなければ問題ない。


「ふんっ!!」


「ごぼぉっ!?」


 強化魔法を使うのを忘れていたのに、一発でコンゴーの身体を破壊した。大きくへこませて、そこから全身に亀裂が入っている。まさに先手必勝だ。



「バカな……!この俺様が………」


「てやぁ――――――っ!!」


 コンゴーを抱え上げながらジャンプ、そして大きな岩目がけて放り投げた。


「ゴハッ………」


 あっさり粉々になり勝負は終わった。マキが真面目に戦えばもっと簡単に勝てたに決まっている。




「や……やった!あのコンゴーを倒したぞ!」


「ジャクリーン様を讃えよう!新たなる王だ!」


「この方こそ救世主、我らを救う英雄!」


 地鳴りのような歓声が響く。みんなの思い通りに進みすぎている気がして、落とし穴がないか逆に不安になった。


 いや、うまくいっていたとしてもよくない。王様の地位を狙う反逆者、王家の敵になってしまう。どちらに転んでもろくなことにならず、困った。

 コンゴーの必殺技……拳王ジャンケン。

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