フランシーヌの燃える愛情の巻
(この感覚……!同じだ!)
フランシーヌも自分の力を私に分け与えようとしていた。手がとても熱くなっているけど、火傷などのダメージが残る心配はない。
これまでの三人とフランシーヌが違うのは、二人きりではない空間でやっていることだ。隠す気が全くない。
「……元に戻っていく……」
「無事に力が入っていったようですね。限定的ではありますが、ジャクリーンさんも太陽を出せるようになりました」
私もあの強力な技が使える、それだけでわくわくする。遠くにいる相手に有効打がない私にとって、とても貴重だ。
「うれしいね。でも……限定的?」
「はい。ジャクリーンさんの太陽は外に出すことができません。目に見えない身体の内部……使用方法も防御に限られます」
「え?そうなの?」
守備だけがどんどん強化されていく。我慢比べの持久戦をするためには豊富なスタミナが必要不可欠で、これからのトレーニングはそこが中心になりそうだ。
「太陽の熱はどんな汚れも許しません。毒や麻痺といった身体を蝕むものをすぐに消滅させます。即死効果のある毒に対しても、その僅かな時間すら与えません」
「おおっ、さすが太陽パワー!強い!」
攻撃に使えなくてちょっと残念、そんな気持ちはすぐに撤回した。これならどんな種類の毒にも怯えずに前に出られる。防御を固めることが攻撃力アップに繋がった。
「ん?そんな使い方ができるならお前も毒は怖くないはずだろ。ハチのムサシの麻痺に苦しめられていたり、その妹のトメ相手にも安全が確認できるまで防戦一方だったが……」
「太陽は東から昇り、西に沈みます。一日中空にいることはありません。ですからこの太陽も身体の外部と内部、どちらかにしか出せません」
とても強力なぶん、範囲が狭いのも納得だ。強すぎる力を無限に使えるのはマキのような例外だけだ。
「ですからジャクリーンさんに力を分けたところで、私が弱くなることはないです。使えなかったものをあげただけです、遠慮なくどうぞ」
「そうなんだ……それならありがたくもらうよ!」
腐らせていた能力の有効活用、それを聞いて安心した。私のために自分の持つ全てを渡したなんて言われたら、申し訳なくてとても使えない。
「ジャクリーンさん……あなたは私だけでなくこの世界に生きる全ての者の太陽です」
「ははは……そんな大袈裟な」
「そんなあなたに負けない熱さを私も………」
フランシーヌが私の肩を掴む。まさかみんながいる馬車の中で………そう思った時にはすでに遅かった。
「むっ!?」
一瞬で唇を奪われ、その勢いのまま舌が入ってきた。私の口の中で暴れ回っている。
(すごい……焼けるどころか………溶ける!)
「ぷはっ……ぷはぁっ………」
あえてみんなに見せつけるためにここを選んだのか。フランシーヌの愛の炎、確かに受け取った。
「何をやってる!?くそ、負けてられるか!」
「えっ!?ちょ、ちょっと待った!」
フランシーヌの熱いキスに、みんなは悔しがる時間すら惜しんで次は自分だと私に殺到してきた。こんな事態になってしまうのはフランシーヌも計算外だったようだ。
「み、皆さん!落ち着いて……」
「うるさい!お前が仕掛けた戦いだろう!」
馬車の外からも次々と参戦、もみくちゃにされた。汗だくになるほど暑くなって、幌があるのに太陽の光を直接受けているかのように感じるほどだった。
「………おいおい、全員中に入っちまったよ。何かあったらおれが一人でどうにかしなきゃいけないのか?」
取り残されたザワは一人で馬を扱う羽目になった。しかし真の革命には私たちの力が絶対に必要だと彼女は考えているようで、誰も呼び戻さずに移動を続けた。
(これくらいどうってことはない。こいつらを逃がしたらこんなチャンスはもう来ないかもしれないからな)
「………仕事はこれからなのにもう疲れた………」
みんなをまとめて相手にするのはさすがにしんどい。でもいろいろあったおかげで二日酔いは治っていた。
(いつ最後の一線を越えちゃってもおかしくないな。その時は………誰と?)
もちろん私は抵抗する。やはりそこは正式に結婚をしてからという思いがあるからだ。しかし流されやすい私だから、あっさり負けても不思議ではない。
「おい!そろそろ着くぞ!いつ魔物が襲ってきてもおかしくない、準備しておいてくれ!」
「えっ?わ…わかった……」
フランシーヌに太陽の力をもらい、休む間もなくみんなに飲み込まれた。なんで馬車に乗っているのか忘れかけていた。
「いくつか目撃情報も聞きましたが、微妙なズレがありましたね。同じ魔物のことを言っているはずですが……」
「似たようなやつが複数体いるのかもな。それに目撃者どもは全員戦わずに逃げたんだろ?参考にするな」
戦っていたら無事に帰ってくることはなかっただろうと言われている。遠くからちらりと見ただけで逃げたのなら、情報が役に立たないのも納得だ。
「行きましょう。ジャッキーさんは馬車に残って……」
「いや、そうもいかなくなったみたいだ。見ろ」
魔物退治の話を聞いた人たちがたくさん集まっていた。私たちが噂通りの実力を持っているか、自分の目で確かめに来たようだ。
「ジャッキーが直接戦うかは別として、チームの中心にいる必要がある」
「誰が王になるべき人物なのか、肝心の人物がいなければ人々は勘違いしてしまうでしょう」
(どんな敵が出てくるかで私の出番が決まるな)
私でも楽勝できるとみんなが判断すれば私を戦わせて強さをアピール、私が傷つく可能性があれば後方に下げてリーダーとしての働きに注目させる……どちらでも構わないというわけだ。敵が複数なら一番弱い相手と戦わせてくれるだろう。
しかし私がどこにいたところで、みんなの戦いっぷりを見れば観客たちの興味はそっちに移るはずだ。私を王様にしようとは思わなくなる。
(強そうなのが出てきて私は戦わない、その魔物をマキが瞬殺して誰もがマキを讃える……これが最高の展開だな)
私の願いは叶うのか………魔物の登場が迫っていた。
セ・リーグの灯は消えた。ピッチャーフライをお見合いするようなチームに優勝する資格などなかった。




