愛を知ったマキシーの巻
「マキシーは冷静に一歩下がったところから見てると思ったんだけどなぁ」
「何を言ってる?つい最近まで私は国家転覆を狙ってたんだぜ?大聖女を殺す気はもうないが、ゲンキ王とアントニオ家に退場してもらいたい気持ちはそのままだ」
そうだった。マキシーやフランシーヌは王家を崩壊させるためにマキの命を狙っていた。それを阻止しようと私は闘技大会に出場し、二人に勝った。
「お前が王になれば私も安心だ。ザワのやつも言っていたが、黒い金で私腹を肥やす、苦しむ民を見て見ぬふり……お前なら絶対ありえないことだからな」
王様ではなく下の人間たちが勝手に賄賂を受け取ってくる話はよく聞く。見て見ぬふりをするつもりはなくても、忙しくて全ての問題を解決できないせいでそう言われることだってある。
私が国王の座を手にしても、これまでとあまり変わらないだろう。アーク地方の革命家たちはそれをわかっていない。そしてマキシーも。
「……スーパー闘技大会が終わってから、私はお前らと行動を共にするようになった。最初は金の匂いに釣られただけだったが……」
「………」
「気がついたら私も他のやつらと同じになっていた。損得抜きでお前のそばにいたい、お前のためなら命を張れる……自然とそう思うようになったんだ」
鋭い歯を見せてマキシーが笑った。こうしてじっくり見るとマキシーもかなりかわいい。本人さえその気なら引く手数多だろう。
「……………ジャクリーン・ビューティ!」
すぐ隣に座っているのに突然大声で名前を呼ばれた。木から鳥たちが飛び去っていくほどの大きさだ。
「え?どうしたの………んっ!?」
「………」
マキシーの唇が一瞬だけ、私の唇に軽く触れた。歯はギザギザでも、唇はぷるんとしていた。
「………これでわかったか?私が本気だと。初めてだからこんなものだけど、次からは……」
「い、いやいや。そんな大事なものをどうも……」
「お前が照れてどうするんだよ。ま、お前らしくていいか。王ってのは何人も結婚相手がいるものだからな……私もその一人に加えてもらうとするか!」
どの国でも王様は複数の女性を妻とすることが勧められている。血の繋がった子どもを確実に残すためだ。普通の人には認められていない一夫多妻が王様なら堂々とできる。
(まさか………いや………)
みんなが私を王様にしたい理由、これが全てではないとしても………。
「いろんな意味でお前は私にとって特別な存在だ。王として、将来を誓い合う者として。だから………これを受け取ってもらう!」
ダイとマーキュリーのように自分の能力を分けてくれる流れだ。その儀式としてハグやキスを期待して待っていたら、激痛が走った。
「ぎゃっ!!」
マキシーのやり方はなんと得意技の噛みつき。私の肩に尖った歯が食い込んだ。
「いででっ!で、でも何かが……流れてくる!」
「………よし、完了!」
マキシーはピラニアの力を持つ。水中で自由に活動でき、鋭い歯がある。でも私がもらったのはマキシーのもう一つの顔、魔女としての能力だった。
「私の魔法は知っての通り、睡眠、混乱、幻覚……そんなタイプのやつばかりだ。便利ではあるがお前はパワーと根性で押すスタイル、変な小細工は使わないほうがいい」
「私の少ない魔力じゃ何度も使えないしね……」
「だから守備を強化することにした。お前はこういうのに弱いからな。その中でも特に危険な『洗脳系』を完全に防げるようにしておいた!」
ダイは物理攻撃から身を守る鎧、マーキュリーは闇への耐性、そしてマキシーは洗脳魔法を無効化する力をくれた。全員防御の能力で、私は守りが弱いから危なっかしいと思われているのかもしれない。
「洗脳……系?」
「いろいろあるさ。例えば記憶を操られて敵を味方、味方を敵と見るようになる。初めて会ったやつが恩人や恋人になっちまうことだってあるんだ」
それは恐ろしい。力は弱くても魔法で相手を言いなりにさせてしまう厄介な敵も必ず現れる。
「お前がどこかの下衆に奪われるなんて絶対にあってはならないことだ。魔王や神だったとしてもな」
精神攻撃に弱いとは我ながら思う。だからじっくり心を鍛えるべきなのに、手っ取り早くみんなに力をもらってパワーアップという反則技だ。誰かが言った、『人に愛されるのも才能』と考えておくしかないか。
「………あれ?意外と近かったね」
「そうだな。早く合流できてよかった………ん?」
私とマキシーがみんなのところに戻ると、大きな物体が転がっていた。真っ黒で、遠くからだとそれが何なのかわからなかった。
「あっ!お姉ちゃん!よかった……」
「ただいま。マキシーに助けられたよ。それは?」
「こいつでしょ?お姉ちゃんを川に落としたやつ。のこのこ戻ってきたから望み通り遊んであげたよ」
近くでよく見ると、あの大魚だった。マキの雷撃で黒焦げになっただけではなく、無数の斬られた傷や抉られた跡がある。これがどんな生き物だったのか、もう確かめるのは無理だ。
「ジャッキー様は失敗、ぼくたちも釣ったわけではありませんから……」
「全員ゼロで引き分け、終了ですね」
これはおいしくなさそうだ。今の私たちはお金に余裕があって、わざわざ冒険をする必要がない。このまま置いていくことにした。
「しっかり焼けているし、もしかしたらおいしいかもしれない……その可能性はかなり低いけど」
「こんなに大きいんだ。味よりも腹持ちを重視する連中からは喜ばれるだろう」
大人数で分けてもかなりの量を持ち帰れる。ただし味以前の問題で、食べたら体調を崩すこともありえるから、そこは自己責任だ。
「これは……なかなかいけるな。削って持ち帰ろう」
「首都から来た方々が恵んでくださったらしい。街で噂になっていた、次の王になると言われている方が中心にいるグループだ」
知らないところで私の評価が上がり続けていた。みんなに認めてもらおうと頑張っても空回りしていたのに、あまり目立ちたくない時に限ってこれだ。人生は難しい。
最近のGLEAT、外敵の中嶋勝彦と反GLEの河上シャーマン隆一しか話題を作れていないような気が(悪い意味で話題を作った奴はいましたが)。




