釣り大会の波乱の巻
「じゃあ……釣り大会、始めるぞ!」
ザワの案内で川に到着し、釣り竿を借りた。すると誰かが「せっかくやるのだから勝負をしたほうが面白い」と言い出し、みんなもその気になった。
「魚の大きさや珍しさ、店に売ればどのくらいの値がつくかを総合的に判断する!」
食べられる魚を釣ればその場で焼いて食べてもいいという。もちろん持ち帰りも認められている。
「時間は二時間……始めっ!!」
二時間もあれば全員一匹は釣れるだろうとザワは言う。お金がない人たちがその日食べるものを確保するために来る場所でもあり、質はともかく数は多いという。
「よーし、優勝狙っちゃうぞ!」
「大物を釣りたいです!」
どうしても魚が欲しければ川に潜ったほうが早い。私たちは遊びで楽しむだけだから釣った数だけで順位を競うことにしている。
「優勝者には何かご褒美があるといいですね。例えば今日こそジャッキー様と二人部屋とか……」
「最下位には罰があっても面白いかもな。転移魔法で一人だけ城に強制帰還……いや、それはきつすぎるか」
罰はなしにして、ご褒美だけでいい。釣りをしながら何がいいか考えよう。
「………」 「………」 「………」
一時間が過ぎた。ちょうどここから後半戦だ。
「………全然釣れないな。餌が悪いのか?」
「まさかクズ魚すら来ないなんて……」
全く釣れる兆しがなく、盛り上がらない。食べられない魚、値段がつかない魚でもいいのに、一匹も釣れていない。私だけではなく、全員が。
「話が違うぞ。どうなっている?」
「おれが聞きたいぐらいだ!こんなの初めてだ!」
みんなに睨まれたザワが焦っている。私たちの機嫌を取るつもりでここに案内したのに、空気は最悪だからだ。
「逆に考えよう。一匹釣れば優勝だよ!」
「……優勝したらジャッキーと二人部屋、しかも絶対に邪魔が入らないようにする……それならやる気も出るんだが」
サキーがぽつりと小声で呟く。私以外誰も聞いていなければいいなと思ったけど、現実は甘くなかった。
「おお!それは素晴らしい!やりましょう!ついに私もジャッキー様の手で大人の女にしてもらう日が!」
「今日こそジャクちゃんと……ふふふっ」
ラームとダイがこの呟きを拾い、そこからみんなに広がっていき………大変なことになった。今日はマキシーとフランシーヌが夜の見張りだ。この二人以外が優勝したら、二日連続で徹夜が確定する。
(………私が優勝しないと!)
自分の身を守るために勝つ。刺激的なことが続いているから、ゆっくり眠らないと身体が持たない。私とみんなの大勝負が始まった。
「………くっ!全然来ない!」
「何かいそうな気配はするのに……」
やる気を出しても同じことだった。このまま終了時間になれば全員引き分けだ。それならそれでと内心ほっとしていた時だった。
「………うわっ!きた!きたっ!」
「な、何ぃ!?」 「嘘でしょ!?」
ついにあたりがきた。他でもない私の竿に。
「お……重い!動かない!」
「岩か木に引っかかってるだけじゃないのか?」
いや、これは大物だ。まるでこっちが獲物として釣られているように感じるほどだ。でもこの最初で最後のチャンス、逃すわけには………。
「だめだ………うわあっ!!」
「ジャッキー様!?」 「お姉ちゃん!」
魚との力比べに負けた。しかも意地になって竿を握ったままだったから、川の中に引きずりこまれた。
「私が助けに行く!水中なら私に任せろ!」
マキシーが私を追って飛び込んだ。マキシーはピラニアのモンスター人間だから、魚相手でも互角に泳げる。みんなもここはマキシーに託すしかなかった。
(……あれか!確かにでかい!)
魚の後ろ姿が見えた。私の数倍以上の大きさを誇る巨体は、魚というより獣だ。
(え―――っと……どうすればいいんだろう)
この川はなかなか広くて深い。釣り竿を掴み続けて魚の力に頼らないと溺れてしまう。しかしいつまでもそうしていたら息が続かない。どこかで決断するしかなかった。
「おい!さっさと釣り竿を捨てろ!」
(マキシー!)
ものすごいスピードでマキシーが近づいてきた。水中でも声が通るのはマキシーの能力だろう。
「私が受け止めるから心配ない!上がれる場所があるのも確認済みだ!」
マキシーを信じて言う通りにすると、すぐに抱き抱えられて水上に出た。私たちが元々いた場所からどれくらい離れているのか、まだわからない。
「……よし、上陸!ここで少し休むぞ」
「ありがとう………助かったよ」
危うく釣りで命を落とすところだった。溺れて死ぬか、大魚に食べられて死ぬか、水中の岩に頭をぶつけて死ぬか……死に方は選び放題だ。
「手応えでわからなかったか?諦めるべきだって」
「あんな大きい魚だなんて思わなかったんだよ。それにこの釣り大会は全く盛り上がらなかった。せめて最後に一匹だけでも釣れたらと……」
勝ち負けも大事だったけど、『終わりよければ全てよし』にしたかった。横になりながら釣りをしているのはまだましで、何人かは途中で寝ていた。それほど動きがなかった。
「あいつが川の魚をほとんど食っちまったんだろうな。魔物かもしれないな」
「普通の魚じゃないのは確かだね。でも私たちのそばにいたならもっと早く出てきてもよかったような……」
残り時間はあと数分というところで登場した。まだ序盤だったら私も無理はしなかった。
「お前の妹……大聖女が釣りに飽きて眠ったのが影響していると私は思う。あれは悪い魔物だから、大聖女の力が働いているうちは近寄れなかったってわけだ」
チーム・ジャッキーの中でもマキシーは賢いほうだ。この読みもきっと正確だ。
「……あまり無茶な真似はするなよ。スーパー闘技大会の覇者がこんなクソみたいな場所でくだらない死に方をしたら、歴史に残る大事件になる」
「そうだね………気をつけるよ」
「お前はジェイピー王国の王になるべき人間だ。アントニオ家の連中をぶっ飛ばして、世界を変えてやろうぜ」
頭がいいはずなのに、時々とんでもない馬鹿になる。マキシーも私を王様にしようと本気で考えていた。
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