コーンド、トッシー、オギダの巻
ニュー・セレクションの五人組との戦いはすぐに終わった。魔法で相手の動きを封じ、そこからは一方的に痛めつけるだけ。お店の壁やテーブルに傷がつかないように気をつけながら戦う余裕すらあった。
「ぐぐっ……!こいつら……何者だ!?」
「リーダーと仲間に連絡を………ぬんっ!」
援軍を求める魔法が使えるようだ。私たちがあえて止めなかったのは、ここでニュー・セレクションを壊滅させるためだ。全員連れてきてもらえたら完璧だ。
「俺たちはただの構成員……これからここに来る方々の強さはお前らが気の毒になるくらいだ。きっと大聖女ですらその剣の前に倒れるだろうよ……ヘヘッ」
ぼろぼろにやられるまで私たちとの実力差がわからなかった時点で、この五人はまるでだめだ。ニュー・セレクションの本隊との戦いはこんな楽な勝負になるはずがなく、気合いを入れ直した。
「……来たようだな。人数も多そうだし、店の中で戦うのは無理だ。出よう」
お店の外に出てみると、すでに50人くらいは集まっていた。全員同じ服装をしていて、いつでも斬りかかってきそうな殺気を放っていた。
「リーダーが来たぞ!側近のお二人もいる!」
「道を開けろ!偉大なる方々だ!」
ニュー・セレクションのトップに立つ三人がゆっくりとやってくる。やっつけた構成員たちの言う通り、確かに強そうだ。
「話はすでに聞いている。お前たちだな、我らニュー・セレクションに歯向かうのは。この『コーンド』がそんな真似を許すと思っているのか!」
「俺の名は『トッシー』。ニュー・セレクションがなぜ特別なのか、周りの連中にも教えてやろう」
「久々に遠慮なく人が斬れるな………街が美しく血に染まるんだ、この僕、『オギダ』の剣でね」
三人が私たちに近づくと、数十人の部下たちがそれに続く。屋根の上や狭い路地に向かう男たちもいて、あらゆる角度から攻撃を仕掛けてくることは明らかだ。
「いくぞ!我らの力、思い知らせてやれ!全てはこの国の美しい未来のために!」
「殺せ―――っ!!」 「うお――――――っ!!」
ラームとルリさんをダイの後ろに避難させて、私も戦いの輪に加わろうとした。ところが、
「ジャクリーン。私たちのそばにいるように」
「あれ?マーキュリー?ダイも………」
二人が私の壁になり、参戦を許さなかった。山賊との戦いで私は見学させられたから今回こそはと思っていたのに、またしてもか。
「……私の独断ではない。皆の総意」
「いやいや、私もそろそろ……」
ダイのほうをちらりと見る。私にも無敵の鎧があることをダイは知っている。マーキュリーを説得してくれるだろうと期待した。
「……………」
ところがまさかの見て見ぬふりだ。丸くなれば全身を守れるダイと違い、私はひと欠片ぶんの鎧しかない。大人数相手の乱戦では危ないと判断したようだ。
(……私も入らないと今回の敵は……)
チーム・ジャッキーは11人、ザワを含めたら12人。しかしマーキュリーとダイが私たちの護衛に回っている。対するニュー・セレクションはどんどん増援が来て、すでに100人以上いる。ラームとルリさんは当然守られるべきだけど、私は前に出ないといけない立場だ。すぐに動けるように準備はしておこう。
「ギャ――――――ッ!!」
「ぐえっ!!」 「ほげっ!!」
たった数分で勝負はほぼ決した。私の心配は的外れもいいところで、危ないと思った場面すらなかった。
「こいつら、山賊たちより弱くないですか?」
「弱い者いじめに夢中で訓練を怠っていたのでしょう。死角から襲ってきても動きが鈍すぎていくらでも対処できますね」
相手の数が減ることで、ますます私たちの勢いが増す。ここから戦況が一変する展開はもはやありえない。
「な、なぜこんなことに………ん!?その顔、まさか大聖女様………ぶがっ!!」
「弱すぎでしょ」
リーダーのコーンドはマキに指一本で吹っ飛ばされた。大柄で筋骨隆々だろうがマキには関係なかった。
「こいつ……!この俺をナメるなゲボォッ!!」
「………」
サキーは剣を使うことなくトッシーを倒した。得意というわけでもない蹴り技だけで圧倒できたのだから、かなり楽な相手だったということだ。
「こうなったら雑魚だけでも僕が……!」
オギダが私を狙って突進してきた。しかしその前に立ちはだかるマーキュリーとダイの壁は高く、厚い。
「くらえ……あ、あれ!?」
弱そうに見えるダイから狙ったものの、鉄壁の背中を傷つけることはできない。
「それならこっちを……ぐっ!」
「………」
マーキュリーにも通用するはずがない。氷の身体になったマーキュリーを斬りつけても無駄だ。
「き、斬れない……あっ!?」
「あ、危ないっ!!」
とうとう剣が折れた。私たちの完勝だと喜んでいたら、折れた切先が勢いよく飛んできた。マーキュリーとダイの僅かな隙間を抜け、目の前に迫ってくる。
「………!」
顔に刺さるか斬れる……そう思った瞬間、私の顔が丸ごと鎧で覆われた。防御しようと考える前にガードしてくれる力は、ダイの背中を離れても健在だった。
「まさかそんな……ごはっ!!」
「うわっ!血!?」
危機が去って顔が元に戻った瞬間、オギダがいきなり大量の血を吐いた。私たちは誰も手を出していないから、持病を抱えているのかもしれない。
「びっくりした……避けきれなかったな」
少しだけ血がついてしまった。ただの血だから特に問題はないとはいえ、早めに落とそう。
「………ジャクリーン?」
私がほっぺたについた血を落とそうとしている姿を見て、マーキュリーは大きな勘違いをした。折れた剣の切先が私の目を傷つけ、そこから出血しているように見えたようだ。
「ジャッキー様!お怪我は!?」
「ノーダメージだよ。これはあいつの血だから……」
無傷の顔を見せてみんなを安心させた。しかし私が重傷を負ったと思い込んでいるマーキュリーには届いていなかった。
「ジャクリーン……!許せない………絶対に」
マーキュリーが闇のオーラを身に纏う。今のマーキュリーは闇の力を操るというよりも、闇そのものに見えた。
OZAWA、王座陥落!(ついでに拳王も半日天下)これで年末の忖度大賞は誰が獲るのかわからなくなってきました。




