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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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種なしカボチャの巻

「金さえ貰えれば殺人も躊躇わない連中か……危険だな。シュスイ、そいつらを捕まえようとしているのか?」


「……調べてはいますがなかなか見つかりませんね」


 打倒王家を誓う革命派たちがその集団と手を組めば、マキやみんなの命を狙ってくるかもしれない。


「宿屋でも一人か二人は寝ないで見張っていたほうがいいでしょうね」


「そうだな……二人は必要だろう」


 ちょうど今日は私とダイの二人部屋にする予定だったから、そのまま私たちが最初の見張りに入ろう。安全そうな宿屋だとしても敵地の真ん中にいると考えて、万全を期してみんなを守る。



「それなら私が仲間たちに話をして、夜警の兵士を毎日何人か派遣しましょうか?」


「いや……私たちでやります。兵士の中にも革命派……もしくは殺人を仕事とする人間がいるかもしれませんからね」


 トゥーツヴァイがすぐに断った。完全に信頼できるのは私たちチーム・ジャッキーの仲間だけだ。みんなが寝ている夜は特に、知らない人たちを近づけることはできない。


「山賊と権力者が裏で手を組んでいるほどですから、知らない人は極力近づけたくないですね」


「わかりました。確かに……我々の内部に危険なやつがいる可能性は否定できません」


 真正面からぶつかる戦いなら私たちは負けない。怖いのは実力の差を簡単に覆す闇討ちや暗殺だ。特に夜はその危険が昼間の数倍かそれ以上になる。




「大聖女様の癒やしの力で婿殿の病気もどうにかなればよいのですが!」


「……病気?」


「いつになっても跡継ぎが誕生しないのは、この方が『種なしカボチャ』だからです!ほんっとうに何をやっても駄目なお方で………」


 シュスイさんの義理の母親『セツ』さんの愚痴が場の空気を重くする。どうしても子どもが産まれずに悩む夫婦は私たちのそばにもいる。大体の場合は養子を迎えて家を存続させていた。


「お義母さん、そんな話を大聖女様にするのは……」


「そうですよ母上!おやめください!」


「むう………」


 シュスイさんと『リン』さんが夫婦で止めると、セツさんは渋々黙った。まだまだ言い足りないという顔だった。



「……で、マキなら治せるの?」


「たぶんね。そっちの人に問題があれば、だけど」


 セツさんが『種なしカボチャ』だと決めつけているだけで、原因はリンさんにあるかもしれない。もしくはどちらにも原因はなく、時間がかかっているだけということもありえる。


「………皆さん。帰る前に私の部屋に来てください。大した時間は取らせませんから、決してあのババアに見つからないように」


 シュスイさんが小声で話しかけてきた。セツさんに知られたらまずい情報があるのだろう。


(せっかく知り合ったんだ。できる限りのことはしてあげたいな)





「……な、なるほど……確かに『種なし』だ」


「子どもができないのも納得ですね………」


 シュスイさんが髪を結わえる紐を取り、上着を脱ぐ。そこには美しい女性がいた。


「男装だったのか。言われてみれば顔つきも声も………しかし最初に男だと決めつけてしまったら疑う気にもならなかった」


「女兵士がこのあたりでは少ないんだ。ナメられないためにはこうしておくのが手っ取り早い」


 私たちが勝手に勘違いしただけだ。シュスイさんが女性だとしても私たちは何も困らないし態度を変えることもない。



「……まさかあのセツさんはあなたを男だと思い込んでいるのでは?そしてあなたもなぜか黙っているようで……」


「女同士では絶対に血が途絶える。あの妖怪が賛成するわけもない………だから男だと偽って結婚して、今日までうまく隠し通せている」


 嘘みたいな話だ。しかしそんな重大な秘密を抱えたまま生活していたら、我が家が気の休まらない場所になってしまうのも頷ける。


「今ではリンも親といっしょになって私のへそくりを漁り、無駄遣いばかりする金食い虫の一匹になっちまったが、真剣に愛し合っていたからこんな大胆なことができたんだ………おっと失礼、つい言葉遣いが……」


「構いませんよ。楽に話してください」


「それはどうも。まあそういうわけで、大聖女様の力があっても我が家の跡取りは誕生しないということだ。女房とババアは適当にごまかしておくさ」


 ルリさんの魔法が完成すれば女性同士でも子どもができる、そのことを話そうと思ったけどやめておいた。シュスイさんとリンさんの愛が少し冷えているように感じたからだ。心から互いを愛する心がなければ魔法の効果がないと言われている。

 


「『この愛は本物だ』、『何を犠牲にしてでも一生愛し続ける』……そんな思いは些細なことで簡単に消えてなくなる」

 

「………」


「ジャクリーン・ビューティさん、今ここにいる方々が数年後には何人減っていることやら……もしほとんどいなくなってしまったとしても、落ち込みすぎないように。それが人間ってものだ」


 ちょっとした言い争いで喧嘩別れ、きっかけはなくても時が過ぎることで熱が冷めていく……終わり方はいろいろある。私はみんなとどんな結末を迎えるのか、少し怖くなってきた。





「あのやる気のなさでは出世できなくて当たり前!何もしてあげる必要はありませんよ、ジャッキーさん」


「言われなくてもしないよ。自分の力で勝ち取ってもらわないと」


 任務を終えてお城に戻ったら、シュスイという兵士にお世話になったということは王様たちに伝えるだろう。でも偉くなれるように推薦することはない。昇進しても不真面目なままだったら私が怒られてしまう。


「そういえばマキ、競馬場でシュスイさんと会った時に「いやな臭いがする」って言ってたよね。奥に何かを隠していると……それが男装のことだったのかな?」


「違うよ。もっと危険な何かがある」


 確かに男装しているだけなら、いやな臭いなんて表現は使わないか。他人に興味のないマキがわざわざ触れるほどなのだから、要注意だ。

 金で殺人を請け負う連中……必殺!


 必殺シリーズも時代劇あるあるのお約束展開ばかりだが、スペシャル版はハジけた作品が多い。その中でも仕事人たちの子孫が現代に登場、中村主水が日米野球で兼任監督、藤田まことが中村主水になっていた……このあたりは特に面白い。

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