疑惑のレースの巻
『第4競走、注目はエスペランサーとハッスルハッスル!この二頭のマッチレースとなるでしょう!』
全10頭で行われる未勝利馬たちのレース。エスペランサーとハッスルハッスルは2着や3着を続けていて、いつ勝ってもいい状態だった。残りの馬たちは大敗続きで勝機は薄い。
「二頭の馬連に突っ込んで取り返す!これを当てたらプラスになるはずだ!」
「いい形で締めくくりましょう!」
サキーとルリさんだけでなく、みんなも本命の二頭にかなりの額を投資していた。馬券を買う列には、兵士のシュスイさんもいる。
(欲望って目に見えるものだったっけ?)
濁ったオーラが集まり、醜悪な顔をした悪魔が笑っているようだった。欲の力というものは本当に恐ろしい。
『投票を締め切りました!第4競走、間もなく発走です!』
私とマキは参加せず、遠くから見ている側に回った。できればみんなが笑顔で競馬場を後にすることになってほしいけど、はたしてどうなるのか………。
『10頭全馬の準備が整い、スタートの合図を待つだけです!』
誰もが実力上位の二頭による決着を確信していた。しかしその期待はスタートと同時に打ち砕かれた。
『スタート!ああっと!?1番のエスペランサー、落馬しています!競走中止です!』
「あ―――――――――っ!?」 「な!何ぃっ!?」
場内に悲鳴がこだました。最初のレースで私がいいなと思った馬と同じように、1秒で終わってしまった。しかも今回は優勝の最有力候補だ。
「……お……終わった………」
「金貨二枚いったのに………あああ………」
その場に崩れ落ち、倒れ込む人たちもいる中で、私とマキは気がついていた。馬券を買わずに冷静な目で見ていたからわかったことだ。
「さっきとは違う!今の騎手……」
「わざと落ちたよね。自分から飛んだ」
レースの前からこうすると決めていたかのようなダイブだった。どうしてこんなことをしたのかわからないけど、わざとやったという証拠もないから追及のしようがなかった。
そして異変はこれだけでは終わらなかった。ゴールが迫ると騎手たちは手綱を押し、馬をムチで叩く。
『先頭はモンスタードシー!モトヤチョップも粘る!ハッスルハッスルは……伸びを欠いているぞ!』
「なあ、あれ………」 「追い方がおかしいよな」
ハッスルハッスルの騎手は左手にムチを持ち、馬に気合いを入れる。しかし右手ではなぜか手綱を引いているように見えた。これではムチで叩いてもスピードは上がらない。
『外からアールジーだ!一気に差し切ってゴール!勝ったのはアールジー!2着にモンスタードシー、3着はモトヤチョップ!その後ろはアンジョー、ハッスルハッスルと入っています!』
普通に追えばおそらくハッスルハッスルが勝っていた。スタート直後の落馬に続いて変なことが起きているなと思っていたら、ますます怪しい事態になった。
「配当が出たぞ!アールジーの単勝は……230倍!最低人気だったかもな」
「こうなると三連単の配当はすごいことに……あれ?240倍!?他も大したことないぞ!?」
1着だけを当てればいい単勝と、1着2着3着を順番通り当てる必要がある三連単で配当がほとんど変わらない。それ以外の買い方では単勝よりも安くなっているほどだった。
「本命の二頭が負けたのに……まさか!八百長か!?」
このレースの結果はあらかじめ決まっていて、知っている人が大儲けする……それが八百長だ。
「アーク地方の偉い人たちが作った組織が主催者!売り上げどころか配当まで総取りか!」
「許せん!不自然に勝った怪しいやつを探せ!」
暴動寸前だ。みんなも止めようとするどころかその輪に加わろうとしていて、大混乱は避けられそうになかった。
「いたぞ!あいつが怪しい!捕まえろ!」
主催者と繋がっている人はどんな顔をしているのか……近づいてみると、まさかの人物がそこにいた。
「あっ!!ダイ!?」
「や、やったよジャクちゃん!大金貨が30枚!4連勝で有終の美を飾っちゃった!『ビギナーズラック』にしてもこんなに勝っちゃうなんて!」
ここまで来たらもう本物だろう。アールジーの単勝にこれまで勝ったお金を全て賭けられるのだから、ダイには勝負師としての才能がある。みんなの負け分を補っても圧倒的大勝利だ。でも今はまずい。
「逃がすな!襲いかかれ――――――っ!!」
「そんな冴えない連中がインチキなしで今のレースを当てられるわけがない!殺しちまえ!」
怒り狂った観客たちが津波のように迫ってきた。普通の人たちと戦うわけにもいかないから、ここは逃げるしかない。
「おい!お前らやめろ……駄目だ、抑えきれん!」
「こっちだ!応援の兵士たちが来たぞ!」
オワダさんやシュスイさんの手も借りて、どうにか競馬場から脱出できた。全員無事だ。
「しばらくここには来ないほうがいいな。まさかこんな騒ぎになるなんて……連れてきたおれが悪かった」
悪いのは下手な八百長に関わった集団だ。あれさえなければ観客たちも怒らなかった。
「ダイ以外……特にサキーとルリさんは二度と競馬はしないこと。競馬だけじゃないね。ギャンブルはどんな種類のものでも!」
「………はい」 「………わかりました」
収穫はあった。今日痛い目に遭ったことで、これからは賭け事で無駄な浪費をしないとみんなが誓ってくれた。
「闘技大会のジャッキー様のように、確実に勝てる勝負なら賭けてもいいと思いますが……」
「私?いやいや、マキに賭けなよ」
この世に絶対があるとすればマキだけだ。皆の期待に必ず応えてくれる。
「ダイには何かご褒美をあげなくちゃね………希望はある?」
ダイがいなかったら大損害だった。負けたみんなも救われたし、わがままを言っても許される立場だ。
「………それなら今日の夜は私とダイちゃんの二人部屋がいいな。他に邪魔が入らないように………」
「あ?」 「ほう………」 「は〜〜〜?」
勝った直後だからか、大胆な要求だった。
第4レースの馬たち……ハッスルとは何だったのか。
八百長レース……八百長が見たければ笠松や金沢に行け!ただし交流重賞やウマ娘コラボで観客が多いと真剣勝負が増える。




