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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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アーク地方のお楽しみの巻

 アーク地方での最初の夜。食事の時間はちょっとした宴会になっていた。


「おおっ……これは!?」


「生の魚がこんなにおいしいなんて!」


 ザワの勧め通り値段の高い宿屋を選んだところ、大成功だった。部屋はきれいで快適、料理も最高だ。


「ルリさんは前に来た時に食べなかったの?」


「火を通していない魚はわたくしも家族も怖くて……無難な食事に逃げていました。挑戦する心が大切だと改めて教えられました」


 

 料理だけでなくお酒のレベルも高い。とても上品な味で、少し飲んだだけでいい気分になれる。


「今日はもう外に出なくてもいいかな。夜の街がどんな感じなのか見てみたい気はするけど……このまま寝ちゃおう」


「そうですね。明日に備えて休みましょう」


 みんなお腹いっぱいで、今からおいしそうな食べ物を見つけてもあまり入らない。先の長い旅だから機会はまだある。楽しみを残しておこう。




「………この街の夜は……娼館だらけです。まさかジャクリーン様が利用するはずはないでしょうが……」


「行かせるわけにはいかないな」


 みんなは私より先に街の実態を知っていた。治安も昼間よりずっと悪くなるようだし、やはり夜は大人しくしているのがベストだ。






「約束通り来てくれたな!早速行こう!」


 二日目の朝、宿屋を出て待ち合わせの場所に行くとすでにザワがいた。その隣にはザワよりも身体がひと回り大きく、鍛えられた上半身の筋肉が目立つ女性が立っている。


「先に紹介しとくよ。この人はおれの仲間、『オワダ』さん!オワダさんは強いから、あんたたちの命を狙うアホがいても一人でぶっ潰してくれる!」


「………ヨロシク」


 お喋りなザワとは違い、口数の少ない人のようだ。確実に仕事をしてくれそうな安心感がある。


「敵の尾行や襲撃はオワダさんに任せて、あんたたちはたっぷり遊んでくれ!」


 今のところはこの二人は味方だ。しかし私が王国を守るために革命を抑える側になるとはっきりした瞬間から敵になる。弱点が見つからないように気をつけたい。




「よし、着いた。真の勝負師たちが集う、熱気溢れる場所だ。あんたたちも熱くなれるだろう」


 街の中心以上に活気を感じる。いや、この熱は強欲や野望といった種類のものだ。


「ここは……」


「『競馬場』さ。馬のレースに皆で金を賭けるんだ。貧乏な庶民が夢と希望を求めて馬に全てを託す……当たれば天国、外れたら文字通り地獄行き!」


 馬車を引いて重い荷物を運んだり、兵士を乗せて長距離を走ったりするのではなく、レースに勝つために育てられた馬たちだ。出番を待っている馬を見てみると、確かに速そうだった。



「私たちは別にお金に困ってないけど……」


「だからこそ勝てるかもしれませんよ。資金に余裕があり、負けても構わない人間のほうが平常心でいられます」


 使っちゃいけないお金で勝負、負けたら命が危ない……そこまで追い込まれたらまともな予想はできない。遊びとして楽しむのがよさそうだ。


「闘技大会の優勝者を当てるくじだって同じですよ。あれで大儲けしようとした連中は全員酷い目に遭っています。一発大逆転なんて……」


「お父さんたちくらいだろうね。そんな勝負を成功させたのは」


 残り少ないビューティ家の全財産を私の優勝に賭けて突っ込み、莫大な配当金を手にした。賭け事絡みの運はこれで一生分使い切っただろうから、もう二度と勝つことはないと思っている。



「魔法や武器を使って他の馬や騎手を妨害するのは禁止だ。純粋な競走で順位を決める」


「なるほど。運試しにやってみるか」


 1着になる馬を当てるだけの賭け方もあれば、1着から3着まで順番通り的中させないと当たりにならない難しいものもある。もちろん難しいぶん当たれば大きい。


「勝てば昨日よりも豪華な夕食だ。仮に金が減ったとしても旅の日程を短くすればいいだけのこと……よし、私もやるぞ!」


 マキシーはやる気満々、サキーもそれに続いた。少し遊ぶくらいならいいかと最後には全員で予想を始めた。



(負けてもいい、その精神でいけば……)


 最悪なのはみんなで負け続けてお金を使い果たすことだ。そうなっても転移魔法で家に飛んで、旅の資金を調達して再びアークに戻ってくればいい。転移魔法を妨害するバリアをその時だけ解除してくれるようにザワに頼めばすぐに帰れる。


(……やる前から負けることを考えてたらだめだ!)


 心にゆとりを持つべきだとしても、あまり緩くなりすぎると予想は適当になって外れる。締めるところはちゃんと締めよう。ただし熱くなりすぎない程度に。




「私は5番の馬にします。最初ですから銅貨一枚にしましょう」


「ぼくは7番と9番、二頭の組み合わせで」


 みんなは馬を一通り見ると、すぐに決めて『馬券』を買っている。遊びだからあまり考えずに決めるのも気楽でいいかもしれない。


「全通り買えば当たることは当たるけど……」


「やめたほうがいい。きっと損する」


 たくさん買われる本命は当然配当が安く、ほとんど誰も買わない大穴は確率が低いぶん来たらすごいことになる。その仕組みは闘技大会のくじと同じだ。


 違うのは、投票を締め切ったと同時に全ての買い方の配当率が出るところだ。魔法の力で一瞬のうちに計算を終えて、当たればどれくらい返ってくるかがすぐにわかる。



「わたしは……あれとあれと……あれっ!」


「えっ……1→8→10!?もしこれで来たら1万倍は確実に超えるっ!」

 

 マキは超大穴狙いだ。馬の様子や最近の成績、騎手の力を考えたら絶対に上位には入れなさそうな馬ばかりだ。


(常人とは何もかも違うマキなら……激走する馬を見つけるくらいは簡単なのかな?)


 マキを信じてその予想に乗るべきか悩む。私が買ってみようと思った馬は別にいる。どうしようか………。



『第1競走、馬券の発売を締め切りました!』


「あ………えっ?」


 悩んでいるうちにまさかの時間切れで、勝負に参加すらできなかった。それもまあ私らしいか。

 オワダ……ザワの仲間。元になったレスラーはあの『夜露死苦BAD BOY』。どこかでOZAWAに反抗するかと思いきや、今のところ動きなし。その間にヘラクレスが抜けたりゴッドファーザーが加入したりした。

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