真の革命の巻
大聖女の救いを待つよりも私が王様になるほうがいいとザワは言う。それがアーク地方を救う道だと。
「アークの権力者たちはどいつもこいつも揃って野心がない。アントニオ家を倒せたとしても、自分たちが代わりにジェイピー王国を支配しようなんて気持ちはこれっぽっちも持っていないんだ」
「だから私?いやいや、ありえないでしょ」
「いや、あんたがいい。大聖女の能力は妹が持っているが、大聖女の精神はあんたの中にあると耳にした。あんたが王なら苦しむ民衆を絶対に無視しないし、妹はもっと人々のために働きあんたを支えるだろう」
私がいい王様になれるかは疑問だけど、今よりもマキが大聖女の仕事に熱心になるのは同意できる。マキが活躍することで王としての私の評判が上がるなら、やる気に溢れるはずだ。
「ゲンキ・アントニオだってたくさんの血を流して王権を奪い取った。自分が同じことをされても文句は言えないだろう!おれたちとあんたらが手を組めば大して時間はかからない……真の革命だ!」
ここにいるチーム・ジャッキーのメンバーだけでも圧倒的な戦力がある。カササさんとブーンさん、異世界から来た勇者と大賢者、ダブジェ島の冒険者たちやオードリー族も私の味方になってくれるはず。さらにスライム族やゴブリン族も協力してくれたら、王権を手に入れるのは簡単かもしれない。
「できる力があったとしても私はやらないよ。私は革命を起こしたいと思うほど王家に不満はないし、魔王との戦いが迫っている今、戦う相手を間違っちゃいけない」
きっぱり断った。そもそも私は国王になりたいと全く思っていない。スーパー闘技大会で勝ち取った王座すら重荷に感じているほどだ。
「そうなのか……残念だ。しかしあんたはそうでもあんたの仲間たちは違うみたいだ」
まさかと思いみんなを見る。すると……。
「ジャッキー様が王様に……素晴らしいですね」
「歴史上最も素晴らしい王になるだろうな」
ザワに唆されていた。危険な目をしている。
「アークの支配者たちから話だけは聞いてみてもいいのでは?噂の真相もはっきりするでしょう」
「そ…そうだね。元々それが旅の目的だった」
計画に賛同したふりをして近づくのもありか。そこで見聞きしたことを丸々報告すればいい。
「お姉ちゃんが王様なら、わたしは王妃ってことになるね」
「ジャクちゃんなら魔界との和平もできるよ」
冷静なトゥーツヴァイ以外は私が王様になった世界の想像で頭がいっぱいになっていた。しばらく歩けば元に戻ってくれると期待するしかない。
「よし!転移魔法を妨げる壁は一時的に取り除いた。こんな山道はさっさとおさらばして、中心街オナードに行こうじゃないか!」
みんなが打倒王家に燃えているうちに移動する気か。ザワは抜け目がない。
「う〜ん……その街に行くならまずは道場に寄りたいな。お父さんの友だちが道場長で、鍛えてもらう予定なんだ」
「……いいよ。あの道場に飛ぶようにする。未来の国王のリクエストだ、当然受けるよ」
ザワはすぐにでも偉い人の前に私たちを連れていきたいだろうに、あっさりと寄り道を認めた。急いでいるのかいないのか、大胆なのか慎重なのか、掴みどころがない。山賊数人をまとめて葬った動きを見る限り、とても強いのは確かだ。
「無事に転移成功だ!」
「この道場です。わたくしが数年前に訪れた時と変わっていません」
アーク地方の中心街、オナード。人が多くて活気もあるけど、以前はもっと栄えていたとサワは言う。
「一番の街でこんなもんだ……田舎はもう悲惨だよ。おれは用事があるから、あんたらだけで道場に行ってくれ。しばらくしたら様子を見に来る」
暗躍を続けるザワは忙しいらしい。私たちが勝手にいなくなるという心配はしていないようで、見張りすらつけずに去っていこうとした。
「もう聞いているかもしれないが、そこの道場長は若い女に目がない。指導を理由にベタベタ触ってくるから気をつけろ!」
「わかってる。何かあったら反撃するよ」
マキやサキーが怒ったら恐ろしいことになる。反撃なんて生温いものでは終わらないだろう。
「失礼します!」
扉を開けるといきなり広い練習場がお出迎えで、立派なリングもあった。一番近くで上半身を鍛えていた男の人が二人、その手を止めて近づいてきた。
「ようこそ。皆さん入門希望ですか?」
「まずは見学していってください。このあたりでは一番の訓練施設ですよ」
私たちが誰なのかわからないようだ。ザワのような一部の人間にしか知られていないのなら、騒がれることなく旅を楽しめそうだ。
「あのリングを使った戦いが世界で主流になっているようで、我々も乗り遅れないように訓練しています!」
「いつかは王国の首都へ出ていった偉大な先輩たちのように、自分たちも闘技大会に出たいです!有名になってたくさん稼いで……夢がありますよ!」
最近の闘技大会の上位進出者の中にアーク地方出身の選手は残念ながらいなかったはずだ。それでも私が知らないだけで、闘魂軍の兵士や高ランクの冒険者になっている人はいるかもしれない。
「今日は道場長さんに用事があって来ました。もしかしたらそのまま稽古を受けるかもしれません」
「ああ、『シラヌイ』さんなら奥の部屋にいます。案内しますよ」
お父さんとほぼ同い年だというシラヌイさんなら私をパワーアップさせることができるという。
「ちょっと困ったところがある人ですが指導力は本物です。もちろん選手としてもまだまだ衰えてはいません」
「そうか……しかしジャッキーに手を出した瞬間、現役を引退することになるだろう。最初に注意しておかないとな」
サキーは現役引退まで追い込む気のようだ。そうなるともっと私への愛が重いマキは、人生を引退させるつもりで痛めつけてもおかしくない。取り返しのつかないことになる前に、私からもしっかり説明しよう。
「こちらです、どうぞお入りください。シラヌイさん、お客様です………」
「お忙しいところ失礼します。私たちは………」
すでに大事件が起きていた。深く椅子に座っているシラヌイさんの首から大量の血が流れ、机は血の池になっていた。
「こいつがシラヌイか!?し、死んでるぞっ!!」
「ど……道場長がっ!!兵士を呼べ、早く!!」
すでに息絶えていた。身体のごく一部でも生きていれば全回復させられるマキでも、全てが死んでしまった人間を復活させることはできない。大変なことになってしまった。
シラヌイ……ジャッキーの父親と知り合いで、道場のトップを務める実力者だったのだが……。名前の元になったレスラーと某ゴールデンスターのメインが大ゴケしてノアは終わったと思われたが、一年後の元旦でアレが起きるのだからプロレスはわからないし面白い。




