山賊のリーダーの巻
「ギャアア――――――ッ!!」
「クソアマどもがぁ……ぴぎゃっ!!」
山賊たちの断末魔が小さくなっていく。数が減っている証だ。
「こんなのに負けちゃった闘魂軍、弱すぎでしょ」
チーム・ジャッキーが強すぎると言ったほうが正しい。全員かすり傷一つない完全勝利が目前だった。
「さて……あれだけいたのに残りは数人か」
「……ひっ!待ってくれ!俺たちの負けだ!」
仲間がどんどんやられて、気がついたら私たちの半分以下まで減っているとなれば降参も当然か。
「判断が遅かったですね……しかしいいでしょう。これからいくつか質問をします。正直に答えれば命は容赦しますよ」
「……!し、知っていることは話すよ」
この感じだと答えられない質問もありそうだ。マキが言ったように、話せば死んでしまうほどの秘密がアーク地方には存在するのだろうか。
「あなたたちがここで旅人を襲っている理由は?」
「金のため……それ以外にあるわけないだろ!」
「まあそうですよね。しかし王国の兵団まで襲うとは、お金以外にも何か目的があるのでは?」
「……あいつらの防具が高く売れそうだと思っただけだ!そのまま俺たちが使うこともできるしな」
今のは少し怪しかったな。ただの強盗ではなく、ここから先に行かせないために道を塞いでいる役割もあるような気がする。
「では……あなたたちのリーダーを教えていただけますか?」
「リーダー?それは俺のこと……」
「違います。あなたたちに命令を出している黒幕、真のリーダーを聞いています」
トゥーツヴァイの質問の真意を山賊たちは理解したようだ。よそからの人間を誰もアーク地方の中心に近づかせないようにするために、本来彼らを捕まえるべき人たちが悪事を見逃している。見逃すどころかどんどんやれと背中を押していることすら考えられる。
「なるほど。やはりアークの支配者たちは王家への反逆を企んでいて……」
「山賊と手を組んででも隠そうとしているのですね。その計画や使用する武器、兵隊を……」
私たちの鋭い読みに山賊たちの顔が真っ青になった。もし背後にいる人物、もしくは組織のことが明らかになれば命はない。私たちに寝返ったとしてもいつか必ず殺される、そんな恐怖の表情だ。
「私たちの言う通りにすれば必ず助ける。これまでの悪事を償ってもらうことにはなるけど……」
「いや……駄目だ。もはや残された道は……!」
山賊たちが背を向けて逃げ出した。森の中ではなく道を走っているから追えば捕まえられるかもしれない。
「この距離からでも届くよ。あいつらの足が遅くなる魔法が………」
マキの魔法は発動しなかった。唱える前にその意味がなくなってしまったからだ。
「ぎゃあっ!!」 「うげ!!」
あっという間だった。山賊たちは全員まとめて薙ぎ払われ、その場に倒れた。杖を一振りした攻撃に見えたけど、大事なのはそこではない。
「……さっきの!」
遠くから戦いを見ていた女の子だった。黒い短髪の彼女は私より少しだけ年下に見える。しかしその目つきはとても険しく、強い怒りや憎しみを秘めているようだった。
「あ〜……まあ使い捨てならこんなものか。でもいいか、あんたらの実力はこれでわかった!」
「お前は何者だ?なぜ仲間を殺した?」
「おれの名前は『ザワ』。こいつらを攻撃したのは逃げたから、それだけ。あんたらからもおれからも逃げるような連中、生きてたって仕方ないじゃん?」
ザワはへらへら笑っている。彼女にとってこの山賊の群れは真の仲間ではなかったのだ。
「仕事を忘れて逃げ出すようなやつらは反省しなさい!反省!反省!」
本気なのかふざけているのか、足元に倒れる男たちの顔を何度も踏みつける。すでに全員事切れているので、全く意味のない行動だ。
「返事はないがこいつらもしっかり反省したようだし、おれは帰るとするか!」
「待て!実行犯ではないがお前は山賊の一員だ。このまま帰れると思っているのか?」
「思っているよ。なぜならおれは必ず無罪になる!あんたらの地元で裁判なら証拠不十分、アークだったらすぐにお偉いサンが介入して釈放される!あんたらが睨んでいる通り、おれたちは共謀者だからな」
捕まえても無駄だと笑っている。アーク地方の支配者たちと繋がっていることも隠さなかった。
「それに……あんたたちなら最後はおれたちの仲間になってくれる気がする。ジャクリーン・ビューティがジェイピー王国の王になれるとしたら……大歓迎だろ?」
「………え?私?」
いきなり話の主役にされた。本気でこんなことを言っているのか、私たちを油断させたいだけなのか、まだわからない。
「アークはジェイピー王国の領土でも端の端だ。栄える王国の恩恵をほとんど受けられないのに税金は高いから、庶民どころか上の連中も貧しいんだ。そのせいで病気や犯罪も多い……最悪だ」
「現状に不満があるから国家転覆を狙っているってこと?過激すぎない?」
「すでにこっちのトップが何度もゲンキ・アントニオとは話し合ったと聞いている。しかしますます事態は悪くなるばかり……私腹を肥やすことしか興味がないアントニオ家の統治は終わらせないと駄目だ。多少手荒になってもな」
王様はアークについてほとんど何も知らないと言っていた。最近不穏な噂が聞こえるようになった、私たちに教えたのはそれだけだ。
(何から何まで話す必要はないとしても……)
私たちが間違った行動をしないためにも、情報があるなら隠さないでほしかった。アーク地方に住むたくさんの人たちの未来が私たちのせいで潰されることだってありえる。
「ま……あんなクソどもには最初からそんなに期待していない。大事なのは大聖女だ。数百年に一度現れるという大聖女は生きているだけで世界を平和に、幸福にするという」
私たちのことも大聖女の伝説も知っているザワは、他の山賊たちとはやはり違う。今のところは敵意を感じないし、その話を信頼してもよさそうだ。
「だが完全な平和には数十年かかる。大聖女が老いて死ぬまでに成就し、いなくなればまた世界は徐々に荒れていく……それが歴史によって証明されている」
「そうだよ。マキの力を信じて、今は耐えて……」
「おれたちの土地はもう体力がない!悠長に待つなんてことはできない!だからジャクリーン・ビューティ、あんたが王になるべきなんだ!」
ザワ……山賊グループのリーダー。ジャッキーよりも年下の少女だが、チーム・ジャッキーの前に一人で立ってもまるで物怖じしていない大物。
名前の元になったのはノアの救世主『The Real Rebel』。この男が現れてノアは絶頂期を迎えた。しかしそこまでの拳王や清宮の頑張りがあったからこそ、この盛り上がりがあることをファンはちゃんとわかっている。




