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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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アークへの山道の巻

「結界……!じゃあここから歩いていくしか!」


「この景色、見覚えがあります。目的の場所までおそらく一日くらいかかりますね」


 ルリさんが数年前にこの道を通っているという。食べ物や水は用意しているから、歩いて一日ならこのまま行ける。


「いざとなったら転移魔法でビューティ家に飛べばいい。いつでも撤退できる」


「……それなら私は城に戻ります。結界による予定外の徒歩の旅などを報告しておきます」


 聖女は一人で帰っていった。正真正銘、私たち11人の旅が始まる。



「ジャッキーを中心に、どこから攻撃が来ても対処できるようにしよう」


「隣には私がいるからね、ジャクちゃん!」


 みんなが私を囲んでいるだけでなく、盾としてダイがすぐそばにいる。背中の鎧でどんな攻撃も防げるから、私はダイの後ろに隠れていればいい。


(………まるで王様だな………)


 私を守る壁は強固だ。戦闘能力のないルリさんやラームと同じくらい大事にされている。確かに二人の次に私は弱いけど、さすがにやりすぎだと思う。



「山賊に魔物でしたっけ、闘魂軍の調査団を退けたのは?死角だらけですからいつどこで現れてもおかしくないですね」


「敵の数が多くても大聖女やマーキュリーの魔法で一掃できる。そこで倒しきれなくても私たちが直接叩く。打ち漏らしはないだろう」


 私たちの倍以上の人数だった闘魂軍が撤退を強いられた。山賊や魔物はそれ以上の数で襲ってくるかもしれない。


「久々ですね。リングの上ではない戦いは。ルールなんてありませんし、生きるか死ぬかの殺し合いです」


 審判はいない。反則はない。正々堂々の精神、カウント、魔法と武器の威力制限……それらも全てない。まさに『究極の実戦』だ。




「……早速か」 「はい。一度止まりましょう」


 先頭を歩くサキーとトゥーツヴァイが合図を出す。敵の気配を感じ取ったようだ。しかし二人が合図を出す前に全体が止まり、いつでも戦える態勢になっていた。


(え?全然わからないんだけど………)


 私は全く異変に気がつかなかった。変化を感じ取ることができていない。



「人間ですか?それとも魔物?」


「これは魔物の群れだな。敵意があるかは知らないが、近づいてくるのは確かだ」


 戦闘要員の数に入っていないラームとルリさんはわからなくても仕方がない。私はそれじゃだめだ。


「えっ!?魔物の群れ!?ジャ…ジャクちゃん、とりあえず私の後ろに隠れて!」


 魔物の血が流れているダイも気配を感じることができないでいた。この鈍さも私と同じか。


(まあ……半分以上が頼りになるならいいか)


 私の無能ぶりを補って余りある最強のチームだ。戦いに負けることはもちろん、誰かが重傷を負う事態にもならないはずだ。



「……あれだ!一角獣の群れだ!」


「こっちへ……来なかったね」


 向きを変えて森の深くに次々と走り去っていった。私たちと戦う気はなかったようだ。



「ファイヤーフラワーだ!火を飛ばしてくる!」


「……枯れてるよ。全部死んでる」


 生きていれば強敵だったけど、死んでしまったらただの雑草だ。



「巨大な魔鳥が降りてきます!」


「………あそこに巣があっただけか………」


 頻繁に人を襲う魔鳥でも、疲れていれば帰って休む。知性が低いぶん本能に忠実だった。


「冒険者の仕事で魔鳥の卵を取りに行ったことがあったよね。あの時も戦わずに終わった」


「親鳥がずっと留守でしたからね。しかしあのころのサキーさんは尖ってましたね」


 思い出話をする余裕もできた。このまま平和な旅になってくれたらよかったけど、やはりそうはいかなかった。





「……あっちから何人か来る。旅人のようだ」


 黒い服を着た男の人たちだ。荷物は少なめで、この距離から確認できるほど大きな武器は持っていない。商人や冒険家には見えなかった。


「アーク地方がどうなっているのか、聞いてみようか?」


「結界を張ってまで何かを隠していますからね……正直に話してくれるかどうか……」


 仮にあの人たちが悲惨な現状を訴えたいと思っていたとしても、口封じされていてできないということもありえる。私たちのせいで人が死ぬことがないように、慎重に行動しよう。




「こんにちは!」


「こんにちは……」


 先頭の人が挨拶を返してくれた。これなら世間話程度はできそうな雰囲気だ。しかしみんなは私が前に出ることを許さなかった。


「話がしたければ私たちがやる。そこにいろ」


 警戒を続けている。何かあってからでは遅いのは確かだけど、そんな態度だと相手も心を許してくれない。情報収集は失敗に終わりそうだ。



「我々は家具職人で、材料の仕入れのために長旅だ。今は手ぶらだが帰りは大荷物で山越えだよ」


 職人の中には自分の目で選んだ材料しか使わない人もいる。手間をかけてでも納得の一品の完成にこだわり、だから値段は高くてもいいものが完成する。


「で、あんたらは?なかなかの大人数だが」


「私たちは……」


 適当な理由を作ろうとしていた時だった。突然サキーたちと話していた人の右手あたりが光った。そういえばポケットに手を入れていたような……。



「危ないっ!ナイフだ!」


「うおっ!こいつ!」


 心臓へ一直線の突きをサキーが寸前で避けた。奇襲攻撃が失敗すると相手は後ろに下がり、全員がナイフや飛び道具を手にした。


「……お前らが噂の山賊どもだったか!」


「俺たちと違い大荷物で旅行か。当然金目の物もあるだろ?その荷物は全て置いていけ。服を脱いで装飾品も残らず外せ。命だけは助けてやるぞ」


 最初にナイフに気がついたのは私だった。でもそれはちょうどいい距離にいたからだ。もし先頭に出て話をしていたら、家具職人だと信じていた相手の一突きで即死だった。危ないと誰かが叫んでも、サキーと違ってあんな華麗な避け方はできない。



「魔物よりも怖いのは人間か……」


「ジャクちゃん、私の後ろに!」


 私の修行も旅の目的の一つなのだから、私だけで山賊たちを全滅させるくらいのことはしてもいいはずだ。しかしチーム・ジャッキーのみんなは私を一番安全な位置に下げて、戦いに参加させない構えだった。

 横浜DeNAベイスターズ、いつになったら本気を出してくれるのかな?

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