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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第五章 アーク地方での冒険編
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僅かな情報の巻

「なんと!アーク地方に行っただと!?どんな用事であんな場所へ?」


「反乱の動きはあったか!?」


 王様たちに迫られてもルリさんは平然としている。秘密や後ろめたいことがない表れだ。



「わたくしは家族と共にアーク地方のいくつかの街へ馬車で向かいました。わたくしの兄だったノア・タイガーがあの地で商売をしているので、その付き添いを兼ねた旅行です」


 私の元婚約者でありタイガー家の長男、ノア。ビューティ家とタイガー家はすでに交流を絶っていて、タイガー家を見限ったルリさんは家族との縁を切った。だから「兄だった」と言ったのだろう。


「どの街もこの首都と同じくらい治安はよく、楽しく過ごしました。王家を脅かす活動も見られませんでしたが、わたくしがアーク地方に滞在したのは僅かな期間……それも数年前のことです」


「そうか……しかし今や訓練された兵士たちですら近づけなくなっている。たった数年でどんな変化が起きたのか、やはり調べるしかなさそうだ」


 外からの人間を拒むのは見せたくない何かがあるからだ。その理由の候補をいくつか挙げるとしたら、圧政や不正で民衆が苦しんでいる、怪しい魔法や技術を研究している、王国を乗っ取る準備をしている……どれも放ってはおけない。



「実際に行った人間がいるのなら話は早い。行ったことがある場所まで一瞬で移動できる魔法ですぐに到着だ」


「物騒な山道を飛び越えられるのは大きいな。兵士たちも山で襲われたと言っていた。山賊や人の姿をした魔物が行く手を阻んでいるらしい」


 のんびり景色を楽しみながら旅をするのもいいけど、今回はそんな余裕はないようだ。


「山賊や魔物が旅の邪魔をするのだとしたら、それで話は終わりだ。革命の動きを隠すためによそ者を遠ざけるというのは考えすぎだ」


「しかしそうなると別の問題もありますね。悪人や魔物が放置されているのはその地が荒れている証拠です。捕まえる力がないか、無法地帯になっているとしたら……かなり危ない場所でしょうね」


 山道以上に人の住む街が危険なんてことになれば、悪い評判が私たちのところまでもっと届くはずだ。やはりアーク地方に行き、見て回って確かめるべきだ。



「もし目に余る悪党どもがいれば、その場で捕まえていい。大聖女にはその権利がある」


 大聖女であるマキは多くの特権が与えられている。もし悪人がその特権を持っていたら一人で王国を半壊させられるほどだ。


「……大聖女が死に値すると判断した者が激しく抵抗してくるとしたら……その時は命を奪うことになっても仕方がない。極力殺さない、それは言うまでもないがいざとなればやむを得ない」


「そうだね。お姉ちゃんに手を出すようなやつはその場で死刑にしちゃうよ」


 マキは本気だ。危ない目に遭った時は私が自分で戦わないと修行にならないのに、マキが全部片づけてくれそうだ。


(それならそれでいいか………)


 マキが私を守ってくれるなら、私がマキを守ればいい。互いのピンチを助け合う、これが理想の形……ということにしておこう。



「ジャッキーよ、アークの中心街『オナード』には必ず行くように。すぐわかる大きな道場があるから、私の名前を出せば必ず道場長に会える」


「あれ?お父さんも行ったことがあったの?」


「ルリ嬢よりさらに昔だがな。そこの道場長と私は友人で、最近は直接会っていないが手紙のやり取りは続いている。あいつに指導を受ければ必ず強くなれるぞ」


 お父さんの知り合いがいるのか。魔法でいきなり知らない土地に飛んでもこれなら安心だ。


「ただ一つ問題があるとすれば……あいつは女癖が悪いんだ。指導中に身体を触るのは朝飯前、それ以上のことをして大変な騒動になった時もある。だから辺境に退くしかなかった………そこだけ気をつけろ」


 そういうタイプの人か。まさか友だちの娘にひどいことをするはずはないだろうけど、お父さんがわざわざ警告するくらいだ。無視はできない。



「お父さん。もしそいつがお姉ちゃんに何かしたら……潰しちゃっていい?」


「……なるべく殺さないでくれ」


 マキは『殺る気』満々だ。チーム・ジャッキーのみんなも、止めるどころか攻撃に加わるに違いない。悩みの種が増えてしまった。




「よし、旅の支度が整い次第、早速出発してもらう!日数に限りはない。アーク地方の調査が終わっても、納得のいくまで修行を積むがいい!」


「大丈夫ですか?私はともかく、マキやサキーがいない間に魔王軍が攻めてくる可能性も……」


「いや……おそらくそれはない。魔王の最大の狙いはジャクリーン・ビューティ、お前だ。お前を倒してからでなければ大々的な侵攻には出ないだろう。我々が魔界を攻めなければ相手も大人しくしているはずだ」


 魔王はそこまで私にこだわっているだろうか。私たちが旅を終えて帰ってきたら魔族に支配されていた、なんてことは起きないでほしい。


「仮にやつらが攻めてきたとしても私や息子たちがいる!地の利はこちらにあるのだから、返り討ちにしてやろう!ワッハッハ!」


(あっ……ダメそうだな、これは)


 とても失礼なことだけど、ついそう思ってしまった。全盛期を過ぎた王様と実力不足の王子様たちではとても………。いや、何事もやってみなければわからないか。できればその機会は訪れないでほしい。




「料理がおいしければいいんだけど……」


「どうでしょうね……そもそも食べる物が満足に手に入らないこともありえます。念のため多めに持っていったほうが無難です」


 現地のものを楽しむ、そんな考えは甘いか。一応今回の旅の主役のはずなのに、一番緊張感が薄いのが私だ。これはただの旅行ではなく重要な任務、みんなの足を引っ張らないように気をつけないと。

 下位相手に弱い者いじめするのは得意なのに、上位との戦いだと子犬になるチームが横浜にあります。そんなんじゃいつまでたってもリーグ優勝できないですよ。

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