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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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ルリ・タイガーの魔法の巻

 マキがとうとう私たちの目の前に立った。私の後ろに皆が隠れている。


「ただいま、マキ。今日はゲストがいるよ」


「ああ、そっちの………まあどうでもいいや。それよりそこのどうしようもない家から来たダニ!お姉ちゃんがそこにいると駆除できないからちょっと避けてくれないかな?」


 タイガー家への怒りが我慢の限界を超えたようだ。聖女ではなかった私との婚約を破棄したかと思えば、マキがビューティ家に持ってきた大金と地位を目当てに破棄をなかったことにしようとする。タイガー家であれば誰であっても許せないんだろう。



「……お待ちください!大聖女マキナ様!わたくしの話をどうか聞いてください!わたくしは父や兄によって遣わされた者ではありません!」


 私がマキをなだめようとする前にルリさんが動いた。その場にひれ伏してマキへの敬意を示した。


「我がタイガー家の恥知らずな行為の数々、わたくしも許し難く思い家を飛び出しました!もはやわたくしはあの家の娘でありたいとは思いません!」


「ふ〜ん。だったら何しに来たの?」


「兄ではなくわたくしがジャクリーン様の伴侶となりたい、この方と一生を共にしたいと以前から強く願っておりました。まずは奴隷の身分からで構いません、どうかビューティ家の一人にしていただけませんか?」



 家を捨てて来たという。ルリさんが嘘をついていないのはわかるけど、その思いをタイガー家に利用されている可能性がある。そうでなくてもこのまま奴隷にしたら大問題になる。


「………とりあえず今日のところは帰ってもらったらどうだ?そいつがどこまで真剣なのかわからない」


「結局両家の話し合いが必要になるでしょうからね。ジャッキーさん一人で決められることじゃないですよ」


 怒りの表情を崩さないマキ。この話に関係ないはずのサキーとマユもルリさんを家に帰そうとする。そうするのが最善なのは確かだ。


 でも追い返したとしてもルリさんは家には戻らない気がする。お金を持っているようには見えないし、馬もいない。私はこの人を突き放せなかった。



「いや……せっかくだし少しだけ中に入ってもらってもいいんじゃないかな。みんなでお茶でも飲もうよ」


「ジャ、ジャクリーン様っ!」


「………はぁ?お姉ちゃん、お人好しすぎるよ」


 誰も私に賛成しない。マキですら呆れている。

 

「ジャッキー様、さすがにそれはどうでしょう。仮にタイガー家の罠ではないとしても、決して世継ぎが産まれない結婚が受け入れられるとは思えません」


「……あっ」



 ラームの言葉で肝心な、そして当たり前なことに気がついた。私とルリさんじゃ絶対に子どもはできない。マキが王家に入る以上、ビューティ家が残るかどうかは私にかかっている。


 いくら私のことが好きだとしても絶対に結婚できないのならルリさんも諦めるしかない。そのはずだったのに、全てを覆すとんでもない物によって状況は一変した。



「……実はわたくし、魔法の研究をしているのですが……戦闘で使う魔法ではなく日常生活に役立つものや社会を発展させる魔法の専門なのです」


「ふ〜ん……」 「それで?」


「つい先日、とうとう完成したのです。真に愛し合う二人なら性別など関係なく新たな生命を授かることができる魔法が!」



 もしほんとうにこんな魔法があるのなら世界が変わる。ルリさんは私なんかに嫁ぐレベルの人じゃない。


「す、すごいね………」


「それだけではありません。種族や体格の違いが障害にならず、さらに血が近い者同士でも健康な子どもが産まれるようになる素晴らしい魔法です。私以外はまだ誰も知らないことですが……」


 これがあればこの王国どころか世界の支配者になれると断言できる。あらゆるところからこの魔法を求める人がやってきて、お金や権力をルリさんに授ける。壮大な話すぎて私には背負いきれない。やっぱり私たちの結婚は無理で、ルリさんは別の場所に行くべきだ。



(女同士で……つまり私とジャッキーの子どもが!)


(小さなぼくでもジャッキー様の子を授かれる!)


(種族が違っても?人とスライムのハーフ誕生だ!)


(わたしがお姉ちゃんの……うふ、うふふふっ!)



 ところが四人は私と全く違うことを考えていた。これまでの態度とは変わり、急にルリさんに優しくし始めた。


「ジャッキー様!この方はぼくたちがお守りするべきです!ビューティ家の皆さんにもお願いしましょう!」


「………へ?」


「ああ、それがいい。そんな魔法があると明らかになれば命を狙われることもありえる。タイガー家の力では無理だ。本人の望み通りここで保護しよう」


 確かにそうだ。ルリさんを無理やり攫って革命的な魔法の利益を自分のものにしようとする国や組織が出てくるかもしれない。もしくはそんな魔法認められないと過激な手段でルリさんを除き去ろうとする動きがあることも考えられる。



「ビューティ家の人たちはみんな優しいですからきっと家族の一員にしてくれます。さあ、行きましょう!」


「わたしからもお父さんとお母さんにお願いするからだいじょうぶだよ!魔法の研究も地下を使ってどんどん進めていいからね!」


「そ、そうですか?ではありがたく……」


 さっきまでは『駆除』とか言っていたマキですらこれだ。この魔法一つで歴史や人々の常識すら変わる。この反応は当然か。



(………ジャッキーとの未来のために彼女とはよい関係を保っておかねば……)


(最終的にお姉ちゃんと結ばれるのはわたしだとしても………ね)


 

 みんなすっかり興奮しているけど、私たちはまだ魔法を見せてもらっていない。私だけは冷静でいようと決めた。

 ルリさんがジャッキーのことを『血まみれの天使』と呼ぶシーンはおそらくありません。

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