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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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鎧の中の楽園の巻

『ジャッキーがリング下でダウン!そして審判も逃げ遅れ倒れてしまっている!』


「あわわ……私はなんてことを」


 ダイは頭を抱えている。魔界の審判なら選手の技に巻き込まれるようなことはないそうだ。しかし私たちの用意する審判の身体能力は普通の人と変わらず、こういう事態も珍しくない。



『審判がいなければ勝利を認められることもありません!本来ならジャッキーが動けない今、王冠を取るチャンスだったのですが……』


 代わりの審判を連れてくることになった。その間は試合が止まり、私もゆっくりと回復できた。


「全快していないようですが、治癒魔法は使わないのですか?」


「……実はほとんど魔力が残ってないんだよ。試合を終えて帰ってきたみんなの傷を治したから、もうすっからかんだ」


 ダイが相手なら魔法はいらないと思っていた。その甘さが自分の首を締めているのだから私は間抜けだ。全ては早食い対決に負けたせいで、あそこでしっかり終わらせておけば………。



『ようやく二人目の審判が登場!仕切り直しです』


 審判がいなかったせいでダイは勝利を逃し、私もそこそこ回復してしまった。しかし審判を倒してしまったのはダイだし、それがなければ私がダメージを受けることもなかった。


「………」


 せっかく閃いた強力な技だったのに、審判を巻き込むようではもう使えない。ダイは落胆を隠さなかった。


(リングの外に逃げちゃえばいいのもわかったし……もっと改良しないとあの技は厳しいな)


 せめて片目は見えるようにしておくべきだろう。タッグ戦なら仲間が相手の場所を教えてくれるからいいとして、一人で戦う場合は現状だと欠陥が多い。



「ふんっ!ふんっ!」


 私が完全に回復する前に攻める気だ。狙いはいいけど、残念ながら非力すぎる。背中の鎧に頼らないとダイは厳しい。


「そろそろ私の番だね!たぁっ!」


「あうっ!」


 肘打ち一発でダイが仰向けに倒れた。今なら無防備な生身の身体を攻撃できる。



「今だ……おっと!」


「………」


 ダイは一瞬で丸まって完全防御の状態になった。攻撃が通用しないどころか反撃される危険もある鎧に包まれてしまっては、慌てて手を止めるしかない。


『物理攻撃は絶対に効きません!強力な魔法ならどうにかなるのでしょうか?』


『さあな……氷漬けにする、大量の水に沈める……そういう倒し方はあるだろうな。しかしリング上の王者にそんな芸当はできない』



 このままダイが丸くなっている限り、私に勝ち目はない。しかし引き分けではまずいのはダイのほうで、不利になるとわかっていても先に動くだろう。


「………」


 いつか必ず完全防御を解除する。脅威となる攻撃はあの転がる技だけで、今度は審判にぶつからないように私のいる場所を確認するはずだ。


「………」


 安全策を取るなら、いつでもリングから下りられる位置まで離れてしまえばいい。しかしここで勝負を決めるには、ダイが隙間を作る一瞬を逃さないように距離を詰める必要がある。王者として選ぶべきはもちろん後者だ。



「………えええっ!?」


「うお――――――っ!!」


 狭いところを無理やりこじ開けた。びっくりしたダイはどうしたらいいかわからなくなったのか、再び鎧に隠れるまで時間がかかった。


「あっ………!」


「お邪魔するよ。やっぱり狭いね」


 見事侵入成功、超接近戦の始まりだ。



「あわわ……!な、なかに入られちゃいました!」


「鎧はあんなに硬いのに、ここはとてもふわふわだね。それにいい匂いもする………」


 ダイの穏やかな性格とこの身体は、人を駄目にしそうだ。緩やかに溶けていって、思考が鈍る。


「ひゃっ!そんなところ触ったら……駄目です!」


「えっ?あ……ああ。ごめんね」


 違う意味で駄目な人間になっていた。しかしここまで狭いとその気がなくても変なことをしてしまう。


(どうやって戦えばいいんだ………?)


 私の作戦ミスだった。鎧の中に潜り込んでしまえば攻撃も通るだろうとしか考えていなかった。



「………出ようかな。これじゃ試合にならないよ」


 別の方法を探そう。私たちの姿が見えないまま時間切れで試合終了となったら観客が暴動を起こす。


「そうですね。いくら隠れてるとはいえ恥ずかしいですから……こういうことはまた改めて、誰もいないところでお願いします」


「!?」


「いい匂い、素敵な感触を楽しんだのは私も同じですから……ぜひ、二人だけの静かな場所で」


 ダイがこんなことを言うとは思わなかった。私の手を握りながら顔を赤くするものだから、試合中だというのに気持ちを乱された。これが今日一番の攻撃と言っても過言ではないような気がする。


(また入りたいな、この楽園に……いけないいけない、引き締め直さないと!)





「なかなか出てこないな。何をやっているんだ?」


「外からでは全くわかりませんからね……」


 魔王軍のモンスター人間たちを見張っていたサキーとフランシーヌは、私のことが心配でリングに意識を向けていた。その緩みを悪の集団が見逃すわけがなかった。


「くひひ……」 「フフフ………」


「おい!勝手に立ち上がるな!」


 全員で揃って席を立つとなれば、乱入以外考えられない。二人はすぐに止めようとしたけど、悪党たちが一枚上手だった。



「待てと言ってるだろ………えっ」


 サキーが伸ばした手の先には、大量の小さな虫たちがうじゃうじゃといたという。


「はうっ………」

  

「サキーさん……ひっ!!」


 その虫たちは一斉に動き、フランシーヌを襲った。あっさりと気絶した二人の横を悠々とモンスター人間たちが通り過ぎ、リングへ向かった。


 これはチーム・ジャッキーの失敗でもあった。虫が苦手な二人をここに配置したのは間違いで、いざとなれば食べてしまうマユ、平気で虫の塊を握り潰せるマーキュリーが適任だった。



「……ん?」


「あなたたちは………」


 正々堂々といい試合をしようと誓う私とダイ。それを嘲笑い否定するかのように、モンスター人間たちがリングに上がってきた。

 弱すぎて申し訳ない

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